◆フィリップス曲線は、インフレ率と失業率の間に逆相関関係があることを示した経済学理論であり、ニュージーランド出身の経済学者A.W.フィリップスによって1958年に提唱された。具体的には、失業率が低いときにインフレ率が高くなり、失業率が高いときにはインフレ率が低くなるという関係性を示している。
◆代表的な経済学理論としては以下が挙げられる。
短期フィリップス曲線:短期的には、インフレ率と失業率がトレードオフの関係にあるとされる。例えば、政府や中央銀行が景気を刺激し失業率を下げると、労働者の賃金が上昇し、それが物価上昇(インフレ)につながる。
長期フィリップス曲線(自然失業率仮説):ミルトン・フリードマンやエドムンド・フェルプスによって提唱された理論で、長期的にはインフレ率と失業率の間にトレードオフは存在せず、失業率は「自然失業率」(インフレに影響されない失業率)に収束するとされる。持続的なインフレの上昇は失業を減少させないと主張される。
【Plus】経営者として注意すべきリスクとチャンスとしては以下が挙げられる。
短期的なリスク:フィリップス曲線の示唆する通り、インフレが上昇する局面では、賃金の上昇圧力が強まり、コストが増加するリスクがある。特に労働力不足が続く状況では、人材確保のために賃金を引き上げざるを得ないため、利益率が圧迫される可能性が高い。
短期的なチャンス:一方、低失業率による消費者の購買力向上は、製品やサービスの需要拡大をもたらすチャンスである。需要増加を背景に売上や収益を拡大できる可能性がある。
長期的なリスク:長期的には、インフレと失業のバランスが崩れることで、スタグフレーション(高インフレと高失業の同時発生)のリスクがある。この場合、企業は価格転嫁が難しく、コスト上昇圧力に苦しむ可能性がある。特に中央銀行の金融政策や政府の財政政策に対する依存度が高くなるため、マクロ経済政策の失敗が企業経営に直接的な影響を与える。
長期的なチャンス:もし政府や中央銀行が適切な政策を取れば、安定した経済成長のもとで低失業率と適度なインフレ率が維持される可能性がある。その場合、企業は安定的に利益を上げやすく、長期的な成長が期待できる。
【Plus】オーナーとしての株式価値の視点としては以下が挙げられる。
インフレ局面:高いインフレ率が持続する局面では、コスト上昇が収益を圧迫し、自社株式の価値が下落するリスクがある。しかし、インフレが抑制されつつも需要が堅調な局面では、企業の利益率が高まり株式価値の上昇が期待できる。
失業率低下局面:失業率が低下すると労働力の確保が難しくなり、賃金上昇の圧力が高まるが、それに伴う消費需要の拡大で業績が向上し、株式価値も上昇する可能性がある。ただし、長期的に物価変動が不透明な状況では、投資家の投資姿勢が後退し、株価が下落するリスクもある。