◆買収後統合(PMI)とは、M&A成約後に、買主企業と対象企業とのシナジーを含む統合効果を最大化するためのプロセスを指す。M&A取引は成約で完了ではなく、PMIの成否がM&Aの成否を決めるといっても過言ではない。引退予定の売主にとっても対岸の火事と思うべきではない。高く売りたい売主こそPMIまで意識した売却準備や情報開示が重要である。
◆PMIは多岐にわたるが、以下のような主要プロセスが含まれる。
▽経営統合・組織統合:
・経営方針の統一:グループ経営戦略の再構築、シナジー効果創出の具体的な方針決定
・ガバナンス構築:意思決定機関メンバーの見直し、意思決定ルールの策定
・組織構造の統合:組織の再編成、役割分担の明確化
・人事制度の統一:役職・人事評価・報酬制度の調整
▽業務・オペレーション統合:
・業務プロセスの標準化:重複・不要な業務の排除、全体業務フローの最適化
・財務・会計の統合:連結決算スケジュール統一、会計基準の統一化(J-GAAP準拠など)
・ITシステムの統合:ERP導入・CRM等個別業務ITシステムの一本化、既存ITシステムからのデータ加工・移行
▽文化・組織風土の融合:
・企業文化の統合:企業理念等の共有、従業員向け説明会やワークショップの開催
・従業員エンゲージメント強化:今後の経営ビジョンの明確化
・リーダーシップの確立:統合後のリーダーを明確化し、企業価値向上のインセンティブを付与
▽マーケティング・SCM対応:
・ブランド戦略の統一:ブランド変更・統合の検討(ブランドエクイティの最大利用)
・顧客対応の一貫性確保:既存顧客への期待醸成・不安解消、クロスセル・アップセル戦略
・サプライチェーン統合:調達ルートや物流ネットワークの合理化
◆PMIの失敗は、買収の目的そのものを崩壊させる可能性がある。特に以下の要素で失敗すると深刻な問題に発展する。M&A買主が対象企業の株式価値を「ディスカウントしたくなる要素」とも言える。
失敗要因 | 重大な問題 |
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組織文化の不一致 | 経営層と従業員の対立、モチベーション低下、エンゲージメント低下 |
人材流出 | キーマン退職による事業混乱、顧客離脱、得意先・取引先・技術等の機密の社外流出 |
ITシステム統合の失敗 | オペレーションの停滞・混乱、誤謬や不正のリスク、ITシステム開発費の積み上がり |
業務フローの不統一 | 非効率業務の増加、コスト削減効果の喪失 |
顧客対応の混乱 | ブランド価値の毀損、市場シェアの低下 |
【Plus】有能なM&A買主はM&A検討中からPMIを想定する
PMIがM&Aの成否に直結することを理解している有能なM&A買主ほど、早め早めに具体的なPMIプランを想定する。PMIを事前に想定しておかなければ、買収後にトラブルが多発し、結果的に「のれんの減損」や「事業価値の毀損」を招くリスクが高まるためである。
▽PMIプランの策定:売主からの初期的情報開示やDD開示資料などを基礎に、組織・ITシステム・業務フロー・会計などに関するPMIプランを策定開始
▽シナジー創出プランを策定:狙うシナジー効果をリストアップし実現可能性やインパクトを評価
▽PMIリーダーを選定:早めにリーダーを選定し、スケジュール、メンバーや内容等を練り込む時間を確保
【Plus】会社を高く売りたい売主もPMIを意識すべき理由
スムーズかつ効果的なPMIを期待できる対象企業ほど、高値で売却できる。逆にPMIの心配が尽きない対象企業を高値で売却することは難しい。売主がPMIを考慮しながら売却準備をし、高品質な情報開示をすることで、買主は統合コストを低く見積もることができ、結果的に高値での売却が可能となる。
PMI意識の有無 | 買主の評価 | 売却額 |
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PMIを意識している売主 | 統合が容易でシナジーを得やすい | 高値で売れる |
PMIを意識していない売主 | 統合リスクが高い | ディスカウント要因 |