◆ポーターの競争戦略とは、マイケル・ポーター(Michael E. Porter)が提唱した「企業が競争優位を確立し、持続的に高い利益を確保するための戦略理論」である。企業は、市場内での競争ポジションを明確にし、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略のいずれかで事業的に成功することで、競争優位を確立できるとされる。
◆また、ポーターは企業の競争優位の「環境」を分析するための「5フォーシズ分析(5 Forces Analysis)」や、同じく競争優位の「源泉」を分析するための「バリューチェーン(Value Chain)」を提唱している。これらを活用することで、より精度の高い戦略の選択が可能となる。
◆ポーターは、競争上成功するためのフレームワークとして、以下を提唱している。
▽競争戦略の基本三類型:
・コストリーダーシップ戦略:業界内で最も低コストで製品やサービスを提供し、競争優位を獲得する戦略。市場シェア上位のリーダー企業が採用する戦略であり、価格競争による市場シェア拡大や高利益率による再投資によって競争優位を目指す戦略。コスト削減には限界があり、技術革新や競争環境の変化によりコスト競争力が失われるリスクがある。
・差別化戦略:他社にはない独自の製品やサービスを提供し、価格競争を回避する戦略。大企業でなくとも採用可能であり、スタートアップや中堅中小企業が安定したキャッシュフローを創造する際の定番の戦略となっている。ブランド力を構築できれば価格競争に巻き込まれにくいが、継続的なイノベーションが求められ、競合に模倣され競争力を失うリスクもある。
・集中戦略:特定の市場セグメントにターゲットを絞り、コストリーダーシップ(薄利多売)または差別化(高単価)を実現する戦略。ニッチ市場での支配力を高め、競争を回避しやすいため、スタートアップや中堅中小企業にフィットする。ただし、市場規模は限られるため、成長の天井が低く、さらなる成長のためには事業領域を拡大する必要が生じる。
▽5フォーシズ分析(5 forces analysis):ポーターは企業の競争環境を決定する5つの要因を特定し、市場の魅力度を評価するための分析フレームワークを提唱した。5フォーシズ分析を用いることで、自社がどのような市場環境にあるのかを客観的に分析し、最適な競争戦略を選択できる。
・業界内の競争(既存競争業者):競争が激しい市場では、利益率が低くなりやすい。
・新規参入の脅威:参入障壁が低い業界では、新規参入が相次ぎ、競争が激しくなる。
・代替品の脅威:代替品の存在が多い市場では、価格競争が起こりやすくなる。
・供給者の交渉力:仕入れ先の交渉力が強いと、コスト上昇リスクがある。
・買い手の交渉力:顧客の交渉力が強いと、価格設定の自由度が低くなる。

▽バリューチェーン(Value chain):バリューチェーンは、企業の活動を「付加価値を生むプロセス」として捉え、どの活動が競争優位の源泉となるかを分析するフレームワークである。バリューチェーン分析を活用することで、自社の競争優位の源泉を特定し、差別化戦略やコストリーダーシップ戦略の具体的な改善施策の立案に役立てることができる。
・主活動(Primary Activities)
– 購買物流: 仕入れ・物流管理
– 製造: 製造工程・品質管理
– 出荷物流: 配送・在庫管理
– マーケティング&販売: プロモーション・営業活動
– サービス: アフターサービス・カスタマーサポート
・支援活動(Support Activities)
– 全般管理: 経営戦略・財務管理
– 人事管理: 採用・教育制度
– 技術開発: R&D、ITシステム
– 調達: 仕入れ戦略・サプライヤー管理

◆ポーターの競争戦略を企業価値向上に活用する際には、以下の点に留意する必要がある。
▽戦略の一貫性:企業がコストリーダーシップと差別化の両方を同時に追求しすぎると、「虻蜂取らず」「二兎追うもの一兎をも得ず」状態となり、競争優位を確立できない。
▽市場の変化を想定:競争戦略が市場環境に適しているのかを定期的に見直し、重要な変化が発見されたら速やかに適応する必要がある。
▽競争優位の持続性:差別化戦略を取る場合、ブランド、技術、ノウハウ、知的財産、顧客関係などの持続的な優位性が必要。必要に応じ、アップデートや磨き上げをすべきである。
【Plus】M&A売主が活用する場合の注意点:
▽バリュエーションの倍率を高める:足元のキャッシュフロー(調整EBITDA等)に「業界平均の倍率」を掛け算されてしまうと、独自の競争優位(ユニークな強み)が評価されず過小評価となってしまう。より高い倍率が妥当である根拠(なぜ長期間、安定して、高い収益性を発揮でき、今後の成長余地や買主とのシナジーが見込めるのか)を具体的に説明する際、誰でも理解できるポーターのフレームワークを使うことで、情報の伝達ミスがなくなる。5フォーシズ分析やバリューチェーン分析を活用し、競争優位の根拠を合理的に説明できるように準備し、買主に初期的情報開示資料等で効果的にアピールする。
▽競争優位の源泉はシナジーに直結:競争優位の源泉を客観的に説明できるように準備しておくと、それを基礎に買主が具体的なシナジー効果を見積もることが可能になる。シナジー効果の期待値が大きいほど、売却金額は高まりやすい。期待値は、「インパクト」と「成功可能性」に分解されるが、いずれの要素も具体的に競争優位の源泉について的確に伝達されることで高く評価されやすい。