◆生産性とは、生産要素(労働・資本・エネルギーなど)の投入量に対する産出量の割合を示す指標 である。効率的に投入資源を活用し、より高い成果を生み出すことが生産性向上の基本となる。特にM&A会社売却においては「売却前に企業価値を高め、売却交渉時に改善の手段と状況をわかりやすくアピールできる指標」 となるため、売主は生産性を意識した経営を実践する必要がある。
◆生産性の種類と測定方法は以下のとおりである。
▽物的生産性:
・労働生産性 = 産出量 ÷ 労働投入量 (例:労働者1人あたりの売上、1時間あたりの生産数)
・資本生産性 = 産出量 ÷ 資本投入量 (例:設備投資額あたりの生産量)
※産出量 :生産品の個数、売上高、サービス提供量など
▽付加価値生産性:
・付加価値生産性 = 付加価値 ÷ 労働投入量
※付加価値 = 売上高 – 外部購入費(原材料費・外注費など)
▽全要素生産性:
産出量を、労働・資本・技術革新などすべての要素の投入量で割った指標。経営改善や技術革新が企業価値に与えている影響を測定できるため、M&A交渉時にも時系列での改善効果を説明する際に使用されることがある。
◆生産性を向上する方法
生産性を向上するのは、2つのアプローチがある。すなわち、1生産要素あたりの産出量を増やす、1算出量あたりの必要生産要素を減らす、である。
▽①産出量を増やす(人材育成と組織マネジメント):
・スキルアップ支援 :社内研修・資格取得支援・メンター制度
・適材適所の配置 :従業員の能力に応じた職務アサイン
・インセンティブ制度 :成果報酬やストックオプション導入
▽①産出量を増やす(設備投資と設備運用):
・稼働時間アップ:設備稼働時間を増やす(無人化・少人数化・シフト体制)
・性能アップ:より性能の高い設備に入れ替える(新旧キャッシュフロー比較)
・産出量かさ上げ:歩留り率(検査合格率・転用率・手戻り率)を上げる
▽②生産要素を減らす(業務プロセスの最適化):
・無駄な業務の削減 :タスク整理を行い、生産性のない無駄な作業を排除する
・業務フローの標準化 :手順を統一し、作業ミスや属人化を防ぐ
・アウトソーシング活用 :専門外業務を外部委託し、コア業務に集中
▽②生産要素を減らす(IT・デジタル技術の活用):
・RPAの導入 :RPAによる事務作業の自動化
・ERP の導入:ERPでリアルタイムの経営管理
・AIツールの導入: 生成AIによる資料作成等の事務作業の効率化
・BIツールの導入: BIツールによる経営の可視化
【Plus】M&A売主が売却準備として生産性を向上する意味
▽企業価値の向上:売却準備により生産性を向上させておけば、EBITDAがダイレクトに増大し、生産性改善が仕組み化されていることを買主に対しアピールすることで倍率もあがる。結果として効率的に企業価値や株式価値を増大させることができる。
▽買主の交渉力を抑える:事業DDや人事DDでのネガティブ発見事項(重要な課題や欠陥)を減らし、価格ディスカウントを防ぐことができる。
▽M&Aの成約スピード向上:事前に生産性改善が進んでいれば、PMIのハードルが下がる。これにより買主経営者の心理的ハードルが下がる。結果、売却交渉がスムーズに進み、早期の高額売却が実現できる。
【Plus】M&A売主がM&A交渉中に買主に説明すべきこと
▽初期的開示資料や事業計画書に記載すべき内容:
・現状の水準をインフォメーション・メモランダム(IM)に記載する。
・競合他社比のデータをIMに記載する。
・時系列での変化をIMに記載する。
・「なぜ高い生産性を実現できているのか」をストーリー仕立てで説明する。
・「さらに生産性を向上させる余地があること」を定量的に説明する
・「確実性の高い改善施策」を事業計画書に落とし込む
・「経営資源の豊富な買主が実施すれば可能となるさらなる改善施策」を説明する