◆計画値とは、M&Aの対象企業の進行期(現在の事業年度)を基準として、翌事業年度以降の期における経営者による予測値のことを指す。通常、M&Aの情報開示の重要要素として「事業計画書」を盛り込むが、翌事業年度以降、少なくとも3期から5期分の計画値を記載するのが一般的である。さらに長期間の計画値を説明すべき理由があれば、必要な期間の計画値を記載すべきである。
◆M&Aにおける計画値は、デュー・ディリジェンスでの専門家による調査分析に耐えられる品質が求められ、同時に、買主がシナジー効果を含む買主独自の事業計画を策定するための材料としての品質も求められる。そのため、売主としては、フィナンシャル・モデルを構築し、前提条件とモデル構造によって、PL、BS、CFといった財務三表が瞬時にシミュレートされるようにしておくのが一般的である。
【Plus】計画値は眉唾がスタートライン
M&A的に良い会社、つまり成長性の見込める対象企業の「グングン伸びていく計画値」というものは、買主から見ると「眉唾」と見られる。しかし、そこがスタートラインである。いかに説得力を持たせ、対象企業の成長性や改善の効果を財務的に示せるかが、バリュエーションに大きく影響する。
【Plus】説得力を持たせられるレベルまで要素分解
計画値を策定するためのフィナンシャル・モデルでは、前提条件を置き、前提条件を動かせば各財務指標も自動的に変動するように構築する。前提条件として何を採用するか(どこまで要素分解するか)が肝となる。例えば、売上高の来期予想を作るにあたり、商品が100種類、顧客属性が20属性あるとして、新規顧客もいれば、既存顧客も何万人もいる対象企業の来期の売上予想をいきなり算出することは至難の業である。仮に「経営者の勘」でピタリ正解を出せたとしても、客観的で定量的な根拠の伴わない数値を信じてくれる買主はなかなかいない。「バリュエーションを含む意思決定のための稟議」を通せないからである。稟議を通すには、合理的根拠というものが必要である。売主にしかそれを提供できないし、それを提供してあげることが売主の利益になる。
【Plus】優良M&Aアドバイザーの必要性
M&Aアドバイザーは、財務アドバイザーとも呼ばれる「お金の専門家」である。「精緻な財務モデルを構築できる人」「財務モデルを共通言語として交渉相手に提案・交渉しクライアントの利益を実現する人」と言い換えても大きな間違いはない。売主オーナーが現業を回しながら、通常必要のない精緻な財務モデルを構築する時間もないだろうし、財務モデルを構築するスキルを持つCFOや経理担当者も社内にいないのが普通である。そこで頼りになるのが、優良M&Aアドバイザーである。財務、税務、IT等に長け、事業を深く理解できる人に担当してもらえば、あっという間に「説得力のある計画値」をはじくフィナンシャル・モデル(仮バージョン)を作ってくれるだろう。そこに「経営者の勘」を加えて調整すれば、理想的な計画値の出来上がりである。厳しいDDに耐え、好条件を勝ち取るには、欠くべからざるパートナーである。