◆整理解雇とは、企業の経営悪化や事業再編などの経営上の必要性に基づいて、人員削減を目的として行われる解雇を指す。懲戒解雇や通常の普通解雇と異なり「労働者に落ち度がない状態」で行われる点が特徴である。日本の労働法では、整理解雇は労働者保護の観点から厳しく規制されており「解雇権濫用の法理」に基づき無効とされる可能性がある。そのため、整理解雇を実施する際には、慎重な対応と法的要件の充足が必要である。
◆整理解雇が有効と認められるためには、以下の4つの要件(整理解雇の4要件(判例法理))を満たす必要がある。
1.人員削減の必要性:経営悪化や事業縮小など、人員整理が避けられない状況が存在していることを示す必要がある。赤字決算や売上減少など、具体的な証拠が求められる。
2.解雇回避努力義務:解雇以外の方法で問題を解決するために、配置転換・出向、希望退職募集など、解雇回避の努力を行ったかが問われる。新規採用の停止や経費削減などの取り組みも含まれる。
3.解雇対象者の選定の合理性:解雇対象者を選定する際に、公正かつ合理的な基準が適用されていること。勤務成績、年齢、家庭状況などを考慮し、公平な選定が求められる。
4.解雇手続きの妥当性:解雇にあたり、従業員に対して十分な説明と協議を行ったかが重要視される。事前通知や説明会の開催などが求められる。
◆整理解雇の要件を満たしていない場合、以下のペナルティが発生する。
解雇無効と復職命令:解雇が無効とされ、解雇された労働者は職場に復帰する権利を得る。
解雇期間賃金支払い命令:解雇期間中の未払賃金を遡って支払う義務を負う。
損害賠償請求:精神的苦痛に対する慰謝料や、弁護士費用などの損害を賠償する義務を負う。
【Plus】M&A前後の人員調整を誰がやるべきか?
M&A会社売却を検討する売主(オーナー経営者等)にとって、整理解雇などの人員削減には以下のような複数の場面がある。「買主の種類」によってどのパターンになりやすいか変わってくる点も重要である。優良なM&Aアドバイザーと早めに相談して、売主としても最も納得感のある方法を選択すべきである。
・会社を高く売るため売主自らが実行する戦略的な人員調整
・会社売却後の条件(多段階売却やアーンアウト)のために売主・買主が協力する戦略的な人員調整
・事前に売主と協議した上での買主による人員調整(重複人材の合理化など)
・売主にとって寝耳に水の買主による人員調整(買収対価を早期回収、買主は安い価格で買える)
・危機的状況を脱するための最終手段としての整理解雇(労働法が予定している整理解雇、M&A案件のうちの再生案件扱い、法的整理(民事再生法など)が絡む場合も)
売主にとって人員整理は辛い作業であり「誰かに代わってもらいたい」のが本音であろう。しかし「誰がやっても心は痛い」のであり「心の痛みは交換財(=お金)で精算するしかない」から「売主が買主に押し付けると大幅な株式価値のディスカウントが待っている」のが現実である。買収直後の買主は「誰を残し誰に去ってもらうか」の判断ができないし、判断ミスも多発するリスクがある。買主の立場になってみれば「リスクを補えるディスカウント」がないなら買収をしたくなくなる。ならば「いっそのこと売主自らが介錯し、退職者に自分が何かをしてあげるべき」という考え方もある。
【Plus】売主が会社を高く売るための売却先選定とそのメリット
▽同業に売却する場合
・買収目的が一部の経営資源獲得:同業の買主は、顧客基盤や設備の獲得が目的になりやすく、人員の引き継ぎを無駄なコストと捉える場合が多い。
・倍率が低い上での心の痛み:同業買主が「一部の経営資源獲得目的」で買収する際の買収価格は、事業の価値ではなく「経営資源の調達コスト」の範囲内となりやすく、結果、倍率は小さくなりやすい。
▽異業種や投資ファンドに売却する場合
・人員ごと事業を引き継ぐ可能性が高い:異業種の事業会社や投資ファンドは、人材や経営ノウハウを含めて買収する意向が強い。従業員の雇用維持が重視される傾向がある。事業としての価値で評価してくれるケースも多く、倍率は高めになりやすい。
・成長投資としてのM&A:異業種の事業会社や投資ファンドは、事業の改善・成長、シナジー効果やレバレッジによる企業価値の増大を目的として買収を行うため、積極的な成長投資も期待できる。むしろ、増員(新規採用)が行われる可能性が高い。
・企業文化の継承:異業種の買主は、企業文化や幹部人材を現状維持する意向が強いケースが多いため、売却後の従業員満足度も高くなりやすい。
【Plus】M&A前の整理解雇に関する情報開示の注意点
売主がM&A実行前の時期で整理解雇を実施した事実は、重要な労務リスクとして買主から精査される。解雇実施の経緯や対象者選定の根拠を詳細に説明する必要がある。デュー・ディリジェンス(DD)で整理解雇の記録を過不足なく開示する際「違法性がないことを証明できる品質」を具備しておくことが必須である。万が一、整理解雇に関する訴訟等のトラブルがある場合、できるだけ早期に円満な解決を図るべきである。
企業の経営目的に貢献しない人材の継続雇用は、企業にとっては余剰コストであり、人材サイドとしても成長機会の損失である。整理解雇等の人員調整は、経営危機の企業だけの検討事項ではない。むしろ健全な企業が早め早めに検討・実行する方が、企業にとっても人材にとっても望ましい。M&Aを検討している売主は「売主にとって最も望ましい結果」を出すため、できるだけ早めに優良なM&Aアドバイザーと相談しながら決めていくべきである。悪質・無能ビジネスブローカーと異なり、手間がかかっても売主の味方になってくれるし、一番簡単な同業への安売りを誘導したりしないからである。一部の優良なM&Aアドバイザーであれば、非常にリーズナブルな報酬だけで「売主による事前の人員調整のサポート」もしてくれる。