◆修正値とは、対象企業の財務諸表(決算書)として確定させたはずの確定値がなんらかの原因で真実と異なることが、買主に開示した後で判明した際、改めて真実を反映させた財務数値のことを指す。

◆修正を要することになる原因としては、経理担当者のミス、現場担当者の報告漏れといった誤謬(過失)が圧倒的に多いが、経営者等による意図的な業績操作、つまり粉飾(故意)もある。
【Plus】M&A交渉中のミス(過失)は意外と多い
M&A交渉中は、通常業務をこなしながら、買主に対する情報開示を実施し、買主からの質問や資料リクエストに応じなければならないため、経営者をはじめ、関係する一部の役員・従業員に負担がかかる。そのため、単純ミスも発生しやすいのである。
【Plus】経営者による粉飾(故意)は売主を潤すか?
売主オーナー社長は、できるだけ高く売りたい(動機)し、決算書を操作できる立場にあり(手段)、自分だけでなく家族や他の株主ももっと儲かる(正当化)という誘惑を一度は考えてしまうものである。監査の世界では、「不正のトライアングル(動機、手段、正当化)」と呼ばれる有名な不正のメカニズムである。財務デュー・ディリジェンスは、「水増し開示(粉飾)がないか確認すること」を究極目標とする、買主が公認会計士を雇って実施する、M&A取引の必須プロセスである。財務DDの実施によって「粉飾の疑義」が買主にレポートされた場合、あらゆる開示情報の信頼性が崩壊してしまうから、運が良くて「大幅ディスカウント」、普通は「破談」になる。また、売主が巧妙に粉飾の痕跡を隠しきったとしても、最終契約書に定められる表明保証条項と補償条項によって、後から売却額の返納を請求され、応じなければ裁判となり、弁護士費用や遅延利息を加えた金額まで追加請求されてしまう。さらに、M&Aアドバイザー等への報酬は、水増し成約額を基礎に計算されるから、過大な報酬を支払ってしまうことになるし、原因が売主にある以上回収もできない。以上を総合的に勘案すれば、粉飾をしても売主が損をする可能性の方が高い。粉飾はしない方がよいし、万が一、やってしまっていたら、早めに修正値を開示し、丁寧に説明すれば信頼を回復できるかもしれない。こんなこと(粉飾)などせずとも、高額売却への道はあるかもしれない。優良なM&Aアドバイザーと相談して、M&Aという多用な技が使える場では、どのような可能性があるか、確認してみてほしい。正々堂々の方が、高飛びや地下暮らしより人生が潤うはずである。
【Plus】修正値を開示する適切なタイミング
原則として、修正値を開示するタイミングは、早いに越したことはない。買主サイドでは、実務担当者、各種専門家が様々な分析作業や資料作成を実行している。誤った確定値のまま作業を進めてしまうと、軌道修正が大変になって、印象を悪化させてしまうだろう。しかし、不十分な確認段階で修正値を拙速に開示するのもまた問題である。修正値の開示後、すぐさま別のミスが発見され、修正値バージョン2を開示することになれば、買主サイドの印象はかなり悪化する。これ1つをもって、情報管理体制の脆弱さをマイナス評価され、大きなディスカウントを提示されてしまっては、元も子もない。そのため、迅速に総合チェックをして「これ以上のミスはないだろう」という確信が得られた段階で速やかに開示すべきである。
【Plus】修正値を開示すべき誤差レベル
修正値は、情報受領者が重要な判断をする際に重大な影響を及ぼす可能性がある場合に開示する義務があると考えるべきである。つまり、僅少額のミス等は、あえて修正値としては開示せず、翌期の中で処理する等の辻褄合わせの方が、売主サイド・買主サイド双方にとって有益な場合も多い。このように「重要性の原則」を適用して、修正値として開示すべきか否かを判断すればよい。上場会社でも頻繁に財務諸表の修正を開示している。誠実に対応すれば、通常、問題は大きくならない。
【Plus】優良なM&Aアドバイザーの必要性
修正値を開示すべき状況は、M&A交渉中、かなりの頻度で発生する。そして、それなりの実務負担が発生し、通常業務に支障が出るリスクもある。こういう場合、優良なM&Aアドバイザーを雇っておけば、負担を肩代わりしてくれるので安心である。一方、このような専門性を要求され、徹夜で作業しなければならないような状況において、役に立たない自称M&Aアドバイザーを雇ってしまった場合なんとか自力で状況を打破しなくてはいけない。そもそも、売却額が安くてよい、安い方がよい(最低成功報酬、売主無料、買主から低額時ボーナス、買主リピーターのご機嫌取りなど)というインセンティブに問題があるケースもあれば、担当者が簿記2級すら持っていない「お金のアマ」であるケースも少なくない。