◆株式交換とは、一方の会社(完全親会社、買主)が他方の会社(完全子会社、対象企業)の株主(売主)から全株式を取得し、その対価として自社の株式(買主企業の株式)を交付するM&Aスキームの一種である。これにより2つの会社が残りつつ、キャッシュレスで完全親子関係が構築される。会社法768条以下が根拠法である。
◆株式交換も、財務会計(企業結合会計等)、税務(税制適格要件等)の観点から、主に買主が慎重に検討する。売主も、買主の不安や心配に配慮し、できるだけ買主が確実にリスクを回避できるように協力すべきである。買主の不安や心配が、株式交換比率(=売却価格と同じ)に悪影響してしまうリスクがあるからである。
◆売主から見ると、株式交換は保有株式のキャッシュ化を先送りにし、買主企業グループの成長やシナジー効果の果実を期待できる場合に有益なM&Aスキームである。買主から見ると、売主(オーナー社長)が株式交換後も経営者等として大いに貢献してほしい場合に有益なM&Aスキームである。


◆株式譲渡との違い
項目 | 株式交換 | 株式譲渡 |
---|---|---|
異動する株式割合 | 全株式(100%) | 任意(~100%) |
買収対価 | 完全親会社(買主)の株式 | 通常は現金 |
支配関係 | 完全親子関係を構築 | 50%超なら支配関係構築 50%未満でも実質的に支配しているなら連結対象になりうる |
◆株主交付との違い
項目 | 株式交換 | 株式交付 |
---|---|---|
異動する株式割合 | 100%取得 | 一部取得 |
親子関係 | 完全親子関係が構築される | 親子関係にもならない場合もある |
手続の簡易性 | 厳格な手続が必要 | 手続が比較的簡易 |
◆売主の税務上の扱い
▽税制適格要件を満たす場合:買主企業の株式以外に対価を受領しなければ(≒対価としてキャッシュを受領しなければ)、非課税取扱いとなり、売主に対する課税は生じない(所得税上の株式の取得費を引継ぎ、買主企業株式を譲渡した際の必要経費として株式譲渡益を算定)。
▽税制適格要件を満たさない場合:売主は、キャッシュで対象企業の株式100%を売却し、そのキャッシュを使って買主企業の株式を取得したものとみなされてしまう。キャッシュが手に入っていないのに、株式譲渡所得に対する所得税を納税(キャッシュアウト)する義務が生じる。一方、買主企業の株式の取得費は、対象企業の売却代金と一致するため、通算すると同じ税額になる(全ての売却取引で譲渡益が出る場合)。
【Plus】売主にとっての株式交換のメリット・デメリット
▽メリット:
・キャッシュレスでのM&A対象企業グループ形成:多額の買収資金を準備する必要がないため、会社売却を見越したオーナーが、株式交換によって親しい同業や関連企業をキャッシュレスでグループに取り込み、シナジー効果を発揮してから会社売却をすることで、より高額な売却代金を獲得できる可能性がある。
▽デメリット:
・即時のキャッシュインがない:株式交換を実施しても、株式の売却対価が得られない。買主企業グループの業績次第では、買主企業の株式が大幅に減少してしまうリスクを負うことになる。このリスクを減らそうと、短期間で買主企業の株式を売却してしまうと、税制適格要件を事後的に逸脱し、株式交換時の株式譲渡所得課税の対象となるリスクがある。