◆相乗効果(シナジー効果)とは、M&Aによって統合された2つの企業が、個別に運営されていた時よりも大きな価値や成果を生み出す場合の「M&Aによって追加的に創造された価値や成果」のことを指す。
◆シナジー効果には、クロスセルなどによる売上増加、重複機能の合理化によるコスト削減、開発・製造・販売など技術の相互補完などが含まれる。
▽売上増加の例
・クロスセル:アップストリーム・ダウンストリームでのクロスセル
・出店加速:資金力向上による出店(国内・海外)の加速
・ブランド統合:強いブランドへの統合による客数増・単価アップ
・新規顧客開拓:信用アップによる優良得意先の獲得
・契約の大口化:信用アップによる既存得意先との契約の大口化
・経営資源調達効率向上:ブランド向上による直接生産性人材等の経営資源の効率的な獲得
▽コスト合理化の例
・無駄な業務の廃止:企業価値に貢献しない無駄な業務の廃止
・重複業務の合理化:2社間で共通化できる業務を合理化
・ボリュームディスカウント:仕入れ等のボリュームディスカウント
・流通コストの合理化:配送オペレーションの統合によるコスト削減
・マーケティングコスト効率化:ブランド統合によるマーケティングコスト効率向上
▽知の融合の例
・人材交流:人材交流による開発・オペレーション・管理などの改善着眼点の発見
・知財融合:知的財産権の融合による新商品開発など
◆同一国内、同一業種内でのシナジー効果は、実現可能性が高い一方、インパクトには限界がある。一方、越境M&Aや異業種M&Aの場合、インパクトが大きい一方、実現可能性においてチャレンジ要素がある場合が多い。ただし、あくまでケースバイケースであるため、あらゆる可能性を検討し、最大の期待値(インパクト×実現可能性)を追求するのが「シナジー効果」というものの宿命である。
【Plus】M&A目的筆頭がシナジー効果
多くの「M&A取引」の優良な買主企業の多くが、M&Aを実行する目的として「シナジー効果」を挙げる。売主は高額売却のチャンスが生まれるわけであるが、これはあくまで「M&A取引」の場合である。「ビジネスブローカレッジ」の買主企業の目的は、「バーゲンでの資源調達」または「アービトラージ(さや抜き)」という「確実な濡れ手に粟」であることが通常であり、手間のかかるシナジー効果の発現を考慮しない可能性がある。売主がどちらの市場に参加したのかで売却額に大きな差が生まれる理由の1つと言える。
【Plus】売主にシナジー効果のメリットが分配されない理由
シナジー効果の検討は、具体的な買主企業を特定してからでないと、具体的な検討ができないため、多くのM&A売主やM&A業者は、スタンドアローンベース(単体経営)での価値だけで、シナジー効果を出すための売却準備もせず買主候補に提案してしまう。その結果、売主にとって最高の結果を得られず、買主にとって「濡れ手に粟のシナジー機会」を提供してしまうのである。シナジー効果は、対象企業と買主の双方の存在が不可欠であり、売主にもその果実の一部を与えるべきである。本来のM&A売却交渉は、この分配交渉まで含む。そのため利益相反のない片手報酬のM&Aアドバイザーが欧米先進国では唯一の選択肢となっている。
【Plus】優良なM&Aアドバイザーはシナジーを「予測」しながら買主候補を選定する
売主やセルサイドM&Aアドバイザーは、買主候補を検討する中で、同時並行的に、対象企業の特徴を用いて業績を飛躍させうるシナジーアイデアをできるだけ考案しておき、売却準備で必要な整理をしたり、情報開示においても、買主候補のシナジータイプ別に開示情報を変更することが望ましい。少しの手間はかかるが、最高に優秀なパフォーマンスを残す作業であり、やらない手はない。
【Plus】期待シナジー効果の高いものに集中すべき
シナジー効果は「実際にやってみないとわからない将来の意思決定の結果」であるため、買主は保守的にかつ批判的に検討する、と売主は心得ておくべき。買主候補に情報開示・提案する際、タラレバ話にいつまでも付き合ってくれるとは限らないため、「インパクト」と「実現可能性」の積(期待シナジー効果)が大きなものを優先し、骨子を凝縮しコンパクトに説明すべきである。