◆タグアロング条項とは、主にM&A最終契約等で定められる、少数株主リスクを緩和するための少数株主の権利(過半数株主の義務)である。例えば、多段階株式譲渡スキームによって一部株式を継続保有する売主(元オーナー社長等)にとっての重要な権利である。「少数株主による売却参加権」とも呼ばれる。なお、似ている用語にドラッグアロングがあるが、こちらは「少数株主の強制売却義務」であり、過半数株主の権利(少数株主の義務)である。
◆主要株主(通常は過半数株主)が将来において保有株式を第三者に譲渡する際、少数株主も同条件で株式を譲渡できる権利(売却参加権)を持つことを規定する。逆に言えば、過半株主が株式を売却したければ、自分が保有する株式だけでなく「タグアロング権を持つ少数株主の保有株式もまとめて取得してくれる新買主」を見つけなければならないことを意味する。この権利によって、少数株主が株式譲渡の機会を得られず、保有株式が塩漬けにされる事態(永久にキャッシュ化できなくなる、もしくは足元を見られた大幅ディスカウント価格でしか売れなくなる事態)を防ぐ役割を果たす。

◆タグアロングは、主に次のようなシーンで利用される。
▽M&A取引での少数株主保護:買主(過半株主)が対象企業の経営権を取得する際、少数株主(一部株式を継続保有する株主、マイノリティ株主)が不利な条件で取り残されることを防ぐためにタグアロングが使用される。買主が一定期間内での売却益を狙う投資ファンド(PEファンドやVC)の場合には最終契約に必ず盛り込むべきである。
▽合弁事業(Joint Venture, JV):共同事業を進める合弁事業パートナーが一方的に株式を譲渡する事態に備える必要がある。他方の事業パートナーが事業面・投資面で想定外の不利益を避けられるようにするためにタグアロングが使用される。
◆過半数株式と少数株式は、同じ株式でも価値が異なる。バリュエーション理論では「コントロール・プレミアム(支配プレミアム)」や「マイノリティ・ディスカウント」と呼ばれる。過半株式の保有により、自由に経営意思決定を下せる。この価値が(対象企業や買主や経営者の能力次第でブレるものの)かなり大きい。逆に言えば、マイノリティ・ディスカウントはかなり大きいということである。経営権の付いていない少数株式は、同じ株式であり、株主権(議決権、配当請求権、残余財産分配請求権)はたしかに存在する。しかし、少数株式では決議にほぼ影響しないし、多くの未上場会社は配当をしないし、会社の清算もしないなら、特別な事情がない限り、少数株主に大きなメリットがない、ということになる。
◆会社法では、株主は原則として株式を自由に譲渡できる(株式譲渡自由の原則)。しかし、一方で「特定の過半数株主の存在を前提として株式を保有している少数株主」を保護する必要もある。少数株主の内心次第であるため、法律による画一的な保護規定は置かれていない。つまり、個別の株主間契約等の中で定めるしかない。この契約文言を忘れてしまうと塩漬けリスクを排除する方法はなくなるため、M&A売主は最終契約マークアップ、ファイナル確認の際、必ず注意を払う必要がある。
【Plus】M&A売主にとってのタグアロングに関する注意点
▽M&A買主候補への初期段階での提示:タグアロングは、M&A買主から見れば義務であり負担である。そのため、M&A売主が多段階株式売却スキームによって株式売却する可能性がある場合、必ず初期段階(数社のDDに進む買主候補に絞り込む前の段階)で「100%売却しない場合にはタグアロング権を要求する」と、全てのM&A買主候補に告げておくべきである。高品質なインフォメーション・メモランダムにはそのような記載を「プロジェクト参加の前提ルール」として記載される(特に悪質・無能ビジネスブローカーが関与する場合、そもそも手間のかかるスキームを避け、情報開示も貧弱となり、M&A売主の利益が縮小し、リスクが拡大してしまうため、できるだけ優良なM&Aアドバイザーを起用すべき)。
▽タグアロング権を持つ少数株主がいるM&A売主の場合①:M&A売主(過半数株主)が、株式を売却しようとする場合に、対象企業の株主にタグアロング権を持つ少数株主が存在する場合もある。この場合、事前に株主間契約等を確認し、M&A買主候補にその旨を初期段階から伝え、この株式も含めての取引になることを示しておくことが重要である。最終局面になってから、買収資金が増えることになれば、M&A買主が、ここぞとばかりに強気のディスカウント交渉をしてくるリスクもあるからである。タグアロング権は法的に有効であれば、形式は問われない。M&A売主は念のため詳細確認をしておくべきである。
▽タグアロング権を持つ少数株主がいるM&A売主の場合②:M&A買主にとって、タグアロング権を持つ少数株主の存在にプラスの価値がある場合もありうる。このような場合、単純にタグアロング権を実行されてしまうと、M&A売主やM&A買主の目的を果たせなくなってしまう。該当する少数株主と早めに協議の機会を設け、新たに過半数株主になりそうなM&A買主との継続的な協力関係を要請し、その見返りをM&A買主から引き出すべく努力することも考えられる。
▽タグアロング権を持つ少数株主がいるM&A売主の場合③:逆に、タグアロング権を持つ少数株主が、対象企業の経営面で、むしろマイナス面が大きかった場合もありうる。苦労してきたM&A売主と同条件で売却させてあげることは、心情的に許せない場合もあるかもしれない。このような場合、M&A売主は、売却準備の一環として「(なんらかの理由をつけて、好条件での売却プロセスが進行中であることは伏せて)マイノリティ・ディスカウントを反映した価格で買い取る」ことも検討してもよいだろう。個別に売買することは自由である。幸か不幸か、日本の中小零細会社の売買仲介市場(ビジネスブローカレッジ市場)での売買価格は、悪質・無能ビジネスブローカーが急増しているおかげで、激安価格(年買法価格)である。優良なM&Aアドバイザーが引き出せる公正な条件の数分の一になることも少なくない。不良少数株主に渡してあげるのは、これくらいで十分であろう。
▽優良なM&Aアドバイザーの活用:優良なM&Aアドバイザーを起用することで、タグアロング権のメリットを確保し、デメリットを最小限に抑えながら、交渉を進めることができる。