◆税理士とは、税理士試験に合格し、租税または会計実務経験を修めたものであり、公認会計士および弁護士も登録すれば無試験で資格者になれる。税理士の独占業務には、税務代理、税務書類作成および税務相談がある。
◆M&Aプロセスでは税理士の登場場面が通常2回ある。売主の顧問税理士として税務デューディリジェンスでの税務関係の質問に売主に代わり回答する者として、もしくは買主が雇うDDプロバイダー(税理士資格を有する公認会計士が担当することも多い)として登場する。
【Plus】M&A対象企業の顧問税理士が、公認会計士の領域である「財務会計」に関する深い知見がある、さらに、社内CFOや経理担当として「管理会計」の経験があるのであれば、M&A売主にとっての問題はない。純粋な税務専門家としてキャリアの大半を過ごしている場合、その顧問税理士が実施する記帳代行業務や経理に関する指導等は、会計は会計でも「税務会計」であり、税務申告でしか役に立たないのである。経営の改善余地を発見し、改善進捗を把握する「管理会計」、業績や財務状況を外部第三者に過小評価されないように適切に開示する「財務会計」の出力をM&A情報開示で適切に表現することが会社を高く売りたいM&A売主にとって最重要である。この点、利益(所得)をいかに税務署等に小さく評価してもらうかという「節税」「税務会計」の専門家である税理士は時にマイナス貢献となるため、M&Aにおける役割を適切に設定し、事前に売却準備をすることが重要である。
【Plus】つまり、税理士は、利益(≒所得)が税務署等から指摘を受けなければ、売上も費用も資産も負債もある意味なんでもよい(確定申告書の別表四で加算減算調整すればよい)というスタンスになりがちである。M&Aを売主が検討していないなら仕方ない面があるし、売主としても日頃から信頼している顧問税理士の助言に耳を傾けたいと思うであろうが、M&Aでは、税理士が良かれと思う事が売主の利益と真逆のスタンスにある事を理解すべきである。税金を10減らすのと、M&Aで1,000増やすのとどっちが大事かを冷静に考えるべきである。
【Plus】ところで税理士も色々な人がいる。オーナー経費を損金処理することに寛容な人もいれば厳格な人もいる。前者の場合、正確な調整EBITDAを把握するには、仕訳レベル及びその基礎情報レベルで優良M&Aアドバイザーが逐一確認する作業を要する。逆に言えば、優良M&Aアドバイザーを雇えば、オーナー社長である売主が想定もしていない高値売却のチャンスが見つかることも多い。後者の場合、その会計の歪みを原因とした想定外の高額売却のチャンスは小さくなるが、情報管理がしっかりしていれば、効率的に高額売却を目指せる可能性が高くなる。
【Plus】税務会計で記帳代行している場合、決算書がM&A用の開示資料として役に立たず、不要な誤解を招く状態のことも少なくない。そのような場合、M&Aアドバイザーがプロフォーマ財務諸表を別途過去数期分と進行期分を作成するなどして、問題を緩和させなければならないケースもある。理想的には売却準備の中で、経理体制をブラッシュアップさせ、財務会計として問題ないレベルに引き上げておくと、買主の余計な心配を回避し、高額売却の可能性を高めることにつながる。PMIコストを軽く見てはいけないのである。
【Plus】M&Aでは、買主が対象企業の経営権を譲受けた後、速やかに、自社の経営管理体制に組み込む必要がある。特に中堅中小M&A案件の場合、多くの買主は上場企業や上場企業に売却する想定の投資ファンドであることを踏まえると、M&A後速やかに、上場企業グループ会社としての経営管理体制を要求されることを意味する。買主は、社内外からCFOを探し、公認会計士や弁護士を雇って、対象企業の経営管理体制を一気にブラッシュアップしなくてはならず、この負担が実は非常に大きい点を売主はよく理解しておくべきである。
【Plus】顧問税理士の記帳代行体制でも、未上場オーナー経営を続けるなら問題はない。しかし、M&Aとは、ある意味で半分IPOのようなもので、外部のステークホルダーが一気に増え、外部への説明責任やリスク管理など、様々な管理を必要とされるステージに上がることを意味する。オーナーが納得すればOKでは事が済まなくなるのである。売主がバックオフィスを軽視した結果、数億円のディスカウント(PMIコスト見合い)要求をされる事も日常茶飯事である一方、上場会社並みの管理体制と評価されて、想定外の評価をしてもらえることもある。実は、この方面の売却準備の費用対効果は非常に高いのである。