◆税務会計とは、税務申告を主目的として、「適切な外部報告」より「税務調整の負担減少」を重視し、財政状態及び経営成績を表現する会計である。つまり、法人税等の申告書(各別表)での調整(会計上の利益→税務上の所得への加減算調整)が少なく、節税と追徴リスクを天秤にかけた結果を、財務諸表としてまとめたものと言える。
◆法人税法は、法のフレームワークを重視するため、会社法の会社計算規則に従った会計処理を予定している。税務会計では、違法配当の禁止や債権者保護を重視する会社法計算規則を基礎とし、外部の株主等投資家の保護を重視する財務会計の企業会計基準(J-GAAP)のエッセンスを企業に負担のかからない範囲で拝借しているという構造である。
◆税務会計の会計ルールとしては、中小会計指針と中小会計要領が存在する。前者の中小会計指針は、会計参与設置会社(公認会計士や税理士が会社の役員として会社法計算書類を一緒に作成する会社、顧問税理士の副業的位置づけで2006年に制度化)を想定しており、後者の中小会計要領は、会計参与を設置していないすべての非上場中小企業を想定して設定されている。会計参与設置会社は、特段のメリットがないため中小企業の0.1%程度と普及しておらず、大半の中小企業が「中小会計要領」に準拠して会計処理をしていることが期待されていると言える。
【Plus】税法では、脱税をさせないため、過小売上(益金)や過大費用(損金)を禁ずるのが基本スタンスである。そのため、税金コストを軽減したく、外部利害関係者が少ないがゆえにそれが可能な未上場オーナー企業においては、いかに税法の範囲で費用を少なくできるか、という観点が重視される。これがM&A会社売却を目指す売主にとっては、「得して損取る」になってしまうため、売却準備において適切な対処が求められる。安くてもよいなら税務会計のままM&A交渉に臨めばよいが、高く売りたいのに税務会計のままM&A交渉に臨むのは「買主に交渉力を寄付しているのと同じ」である。