◆節税とは、税法が認める範囲内で納税額を削減するための税務上の処理である。
◆未上場オーナー系の中堅中小企業が使うことの多い節税方法には以下が挙げられる。
▽中小企業税制の活用:中小企業向けの税制優遇制度を活用する。
▽役員報酬の分散:配偶者や子供等を役員に起用し、役員報酬を分散することで税率を引き下げ、納税額を減少させる。将来の相続税の節税にもつながる。
▽役員退職慰労金:役員退職慰労金の支給額や、それに充当するための資金積立は、制限はあるが損金算入が可能な場合がある。中小企業退職金共済や確定給付企業年金制度の他、掛金の損金算入が可能な経営セーフティ共済や生命保険商品なども活用される。
▽経費計上:事業に不可欠とまでは言えないが、メリットのある費用を多めに計上する。
◆税務調査により損金否認されると追徴課税される。脱税(悪質性が高い)と見做されれば重加算税や刑事罰が課されるリスクがある。以下のような隠蔽や虚偽と税務調査官に見做されないよう、合理的に説明できるよう準備しておくことが重要である。税務調査で「損金否認」されたり「脱税」と判定されやすい処理として以下を挙げられる。
▽売上除外
▽棚卸資産(在庫)の不正な操作
▽架空の経費計上
▽勤務実態のない親族等への役員報酬・給与支給
▽役員退職慰労金(退職実態がない/手続き漏れ/金額が不相当に高額)
▽保険料の損金算入限度を超えた損金計上
▽減価償却費の不当な操作 など
【Plus】M&A売主が節税に関し気を付けるべきポイント
▽透明性の確保:税法が許容する範囲の取引であると証明するための内部資料を準備しておく。
▽セルサイドDDの実施:M&A取引における税務リスクを事前に洗い出し、税理士や公認会計士と協議しながらリスクを軽減・解消する。
▽情報開示の準備:売却準備の一環として、買主候補に期待と安心を与えるような初期的情報開示の準備をする。記載内容は、事実の範囲で、売主ができるだけ有利になるよう工夫する。
▽税務調査対策:過去の税務調査履歴はバイサイド税務DDにおいて注目されるため、税務調査で大きな指摘を受けないよう、日常的に適切な税務管理を行う。
▽優良なM&Aアドバイザーの活用:M&A取引において、適切な情報管理や情報開示を支援してくれるM&Aアドバイザーを活用することで、円滑なM&Aプロセスが実現できる。簡易なセルサイド税務DDを実施できる優良なM&Aアドバイザーを起用すると、コスト的にメリットがある。
【Plus】会社を高く売るため節税してはいけないのか?
M&A取引では、有能なM&Aアドバイザーがセルサイドに就けば、調整値・試算値ベースのEBITDAやFCFを計算する際、節税目的の経費を加算調整してくれる(キャッシュフローが過小評価されず、株式価値も過小評価されずに済む)。また、対象企業の現預金(キャッシュ)が温存される効果はバリュエーション評価額をダイレクトに押し上げるため、そもそも節税に伴うリスクを過度に敬遠する必要はない。
また、税務調査が入る可能性、税務調査でどのような指摘をされるか、は売主にとっても買主にとっても不透明である。買主を安心させ、高い価格で売却したければ、重大な税務トラブルにならないよう売却準備をしておくのは当然であるが、あえて表明保証・補償を合理的な範囲で受け入れる「問題先送り」という方法もある。限定的な追徴税リスクにしておきつつ、期待最終手取り(株式譲渡対価等の会社売却収入 ー M&Aアドバイザー報酬 ー 株式譲渡等に係る税金 ー M&A最終契約に基づく補償)を最大化する方法を採用するべきだからである。追徴税リスクは補償期間中に確定した場合にのみ、補償として買主に支払うことになる。売却収入の段階で大幅ディスカウントされるよりも売主に有利になる可能性がある。