◆脱税とは、納税者が納税義務を逃れるため、故意に現金売上を計上しなかったり、架空経費を計上するなどして、課税所得を過少申告することで、申告税額及び納付税額を不当に減少させる行為である。これは税法違反行為であり、故意である点で、適法な節税や過誤の過少申告とは異なる。
◆脱税かどうかを問わず、本来納めるべき額より少ない納付をした場合に課せられる追徴課税には以下の種類がある。
▽延滞税:期限内に納付できない場合、遅延期間に応じて課される(特例基準割合+1%又は7.3%)。
▽無申告加算税:申告期限を守らなかった場合に課される(5%~30%)。
▽過少申告加算税:申告内容に誤りがあった場合に課される(10%又は15%)。
▽不納付加算税:源泉所得税を期限内に納付しなかった場合に課される(5%又は10%)
▽重加算税:仮装や隠蔽がある場合に課される、最も重い加算税(35%又は40%)。
◆さらに、脱税額が多額で隠蔽行為が悪質な場合、刑事罰も科される場合がある。刑事罰としては以下の種類がある。
▽懲役刑(10年以下)
▽罰金(最大脱税額の100%)
▽併科
【Plus】M&A売主が脱税していて既に追徴された場合のリスク
▽信頼性の低下:売主が脱税していた事実がある場合、買主による売主・対象企業に対する信頼性が損なわれる。内容次第では、買主が取引を躊躇し、破談となる原因になりうる。
▽売却価格への影響:過去の脱税行為が、社内外でのレピュテーション低下や厳格な税務調査等を通じ、株式価値を棄損させるリスクがある。
▽表明保証・補償の厳格化:買主が表明保証や補償に関する条項に関し、通常よりも厳格な内容を要求されるリスクがある。
【Plus】M&A売却後の税務調査で脱税と判定された場合のリスク
▽M&A売主や対象企業に税務調査:税務署や国税庁も効率的に多額の追徴税を徴収したい。そのため、潤沢なキャッシュを持っているM&A売主は、税務調査のターゲットになりやすいと考えておくべき。
▽買主からの損害賠償請求:通常のM&A最終契約で定められる表明保証・補償の対象に該当し、買主から売主に対して補償請求を行う可能性が高い。
▽追加売却収入の減少・消滅:対象企業の企業価値が低下することで、多段階株式譲渡スキームやアーンアウトスキームで期待していた追加売却収入が減少又は消滅するリスクがある。
【Plus】M&A売主が「節税」にあたって注意すべきこと、売却準備の中でやっておくとよいこと
▽税務調査の想定と準備:過去の税務処理を再検証し、リスクがある場合は税理士や公認会計士の助言を受けて問題点を是正しておく。
▽税務デューデリジェンス(セルサイドDD)の実施:対象企業が税務専門家を起用し、事前に税務上のリスクを洗い出し、買主側のデューデリジェンスで指摘される前に対処する。
▽適法な節税策の採用:節税をする場合、合法的な節税策を採用する。
▽情報開示の透明性を確保:買主に対して税務リスクについて正確に開示し、不要な疑念を持たれないようにする。
▽優良なM&Aアドバイザーの活用:複雑な税務リスクの把握や開示に関する能力を持つM&Aアドバイザーの助言を受けることで、M&Aプロセスを円滑に進めることができる。
【Plus】M&A売主は、万が一の「節税と思っていたら脱税に判定されたリスク」にどう備えるべきか?
税法上適法かどうか不確かな税務処理が「結果として脱税と判定されるどうか」は、極端な話をすると、運次第である。時効到来前に税務調査の対象にすらならない場合もあれば、追徴されるとしても最大想定追徴額の何分の1程度で済む場合もある。もちろん、M&A売主としては、できるだけ税務上の問題がないよう事前に整理しておく方が望ましい。しかし、どうしても「今更完全な治癒が難しい税務上の問題」が残る場合、情報開示や最終契約の内容を調整し「過去の税務リスクを買主との間で精算するタイミングを先送りする」という戦略もある。つまり、リスクをM&A売却価格に反映してしまうと多額ディスカウントとして確定してしまうが、実際の顛末はもっと軽く済み、小さな補償額で済む可能性もある。税務にも明るい優良なM&Aアドバイザーと相談し、様々なシミュレーションをした上で、方針を決めておくとよい。