◆中小企業向けの節税商品には、さまざまな選択肢が存在し、主に法人税や所得税の負担を軽減することを目的として活用される。以下に、代表的な節税商品をいくつか紹介する。
小規模企業共済制度:中小企業の経営者や個人事業主が退職金を積み立てるための制度である。掛け金は全額所得控除の対象となり、退職金や廃業時に受け取る共済金が退職所得扱いになるため、大きな節税効果を持つ。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済):取引先の倒産に備えるための共済制度で、掛け金は経費として全額損金算入が可能。加入後、解約時には掛け金の返戻金が受け取れるため、事実上の内部留保にもなり、資金繰りにも寄与する。
生命保険・退職金制度:経営者や役員の退職金準備として利用される生命保険や退職金制度も節税に有効である。保険料の一部を経費として計上でき、解約時には返戻金が受け取れるため、将来的な資金確保にもつながる。
法人型確定拠出年金(企業型DC):従業員に対する退職金制度として導入されるが、企業側が負担する掛け金は損金算入できる。従業員にとっても将来の年金を準備できるため、福利厚生の一環としても利用される。
◆特別な節税商品ではないが、減税効果のある税制には以下のものがある。
事業承継税制:中小企業が次世代への事業承継を行う際、一定の要件を満たせば、贈与税や相続税の負担を大幅に軽減できる制度である。経営者が後継者に事業を引き継ぐ際に活用され、事業の円滑な承継をサポートする。
資産の圧縮記帳:設備投資や事業用資産の取得に対する圧縮記帳は、中小企業にとって有力な節税手段である。固定資産を取得した際、一定の条件下でその取得価格を損金として計上でき、税負担を軽減できる。
研究開発税制:中小企業が行う研究開発活動に対しては、研究開発費の一部を税額控除する制度がある。特に技術革新や新製品開発を行っている企業にとって、研究開発税制は大きな節税メリットをもたらす。
少額減価償却資産の特例:30万円未満の少額資産については、全額損金算入が可能である。中小企業が小規模な設備投資を行う際に、節税に寄与する。
【Plus】中小企業がこれらの節税商品(短期的には節税だが長期的には税金繰延商品なので実質的には借入金に近い)を利用する際には、適切なキャッシュフロー管理と将来の税負担への影響を考慮することが重要である。もし近い未来にM&A会社売却を計画しているのであれば、税務専門家と相談する以外にも、税務に明るいM&Aアドバイザーとも相談し、目的を達成できる商品を選択することが肝要である。
【Plus】一部例外を除き、節税のためには「所得」を減らす必要がある。法人であれば損金を増やす、個人であれば必要経費等を増やすことで所得が減る。そうしないと原則的な納税額を納めないといけなくなるので、所得を減らした決算書を作成する。所得が減ればその3割とかの税金を今払わずに済む(いずれ払う)。一方、M&Aバリュエーションでは所得≒利益≒キャッシュフローが減れば減るほど、その5倍とか10倍の株式価値が減ってしまう。つまりM&A売主の立場からすると、節税をすればするほど「会社の値段が安く見える」ということである。もちろん、EBITDAを適切に調整したり、本来あるべき財務諸表の姿を試算値として用意したり、という情報開示での工夫は可能だし必須である(悪質・無能ビジネスブローカーはサポートしてくれないどころかウソをついたり、専門知識不足で役に立たないが)。しかし、ここでよくある売主のミスが「後でなんとかすれば済む」である。「M&Aの価格交渉は入口が全て」と言っても過言ではない。最初に「5億円で買えそう」と思った買主に、DDという中盤戦のタイミングで「実は節税商品の効果があるのであと1億円ください」とは簡単に行かないのである。一番最初に見せるノンネームティーザーの段階、初期的情報開示の段階から、バイサイドDDに耐えられる数字を見せ、その数字を前提に意向表明書を出してもらってからDDに入るのが高額売却の鉄則である。「後でなんとかなる」は「後の祭り」なのである。