◆ティーザーとは、M&Aプロセスの初期段階で用意する開示資料である。インフォメーション・メモランダム(IM)の要約版という位置づけであり、ブラインド・ティーザー(匿名ティーザー)として作成するのが通常である。つまり、対象企業の名称等を伏せた段階で、買主候補から買収意向を引き出すためのエッセンスだけの資料である。
◆ティーザーに記載する情報は、グラフ・表・箇条書き等の形とし、全体で10ページ程度の情報量に抑えることが多い。買主エグゼクティブに時間をかけずに全体像を把握してもらう目的に適している。さらに情報を凝縮したものはトゥー・ページャー(2枚の要約資料)と呼ばれる。
【Plus】NDA前の開示資料
一般に、機密保持契約書(NDA)締結前の開示資料には、ノンネーム・シート(1枚もの)、トゥー・ページャー(2枚もの)、ブラインド・ティーザー(10ページ程度)がある。
どれを使い、どんな内容を表示すべきかは、
・対象企業の機密情報の漏洩リスク、買主候補との競合関係といった情報漏洩対策の視点
・対象企業のユニークさ、事業構造の複雑さといった情報伝達の難易度の視点
からバランスよく判断すべきである。
つまり、買収意向を引き出したいがあまり、重要な機密情報を買収意欲のない競合企業に開示してはいけないが、一方で、対象企業を買収するメリットは理解してもらわねば始まらない、というジレンマの中で、「買主候補ごとの最適点」を模索するわけである。そのため、数種類のブランド打診資料を用意し、買主毎に別々の資料を使うべき状況もある。
つまり、重要な機密情報が多く競合企業に打診する場合には情報の少ないノンネーム・シートを、ユニークな強みを異業種や投資ファンドに伝達する必要性が高ければブラインド・ティーザーを使って初回打診すべき、となる。
【Plus】ティーザーの情報精製段階
優良なM&Aアドバイザーは、まずM&Aプロジェクトの準備として、市場・競争・事業・財務・税務・法務・労務・ITなど、バイサイドDDやバリュエーションやPMIまでも見据えながら情報を収集し、分析する作業を行う。さらに、対象企業の顧客からの評価や競合企業との差異を把握するため、実際に商品・サービスを自分で利用したり、自分で作ってみたり、現場視察なども行う。このようにして、膨大な情報を収集・蓄積した上で、詳細開示資料(IM)を、買主候補や提案骨子を考え抜きながら作成する。そして、IMを基礎に、枝葉をそぎ落としたサマリーとしてティーザーやノンネーム・シートを作成する。
この方法だと、初回打診するまでに時間がかかるという意味で、一見デメリットにも見える。そのため、多数を占める効率重視のビジネスブローカーの多くはこのような方法は採用しない。数日程度の情報収集で、買主候補を列挙し、企業概要書(1ページもの)で初回打診に走る。DDが始まってから重要なネガティブ情報に気づくわけで「早い、簡単→安い」となってしまう。何事も準備は大事である。
メンテナンスの行き届いた高精度ライフルで選び抜いた獲物をしっかり射止めるか、豆鉄砲100丁で手当たり次第撃ちまくって偶然当たるのを狙うか、の違いである。M&A案件でもBB案件でもできれば前者がよく、BB案件なら後者しかない。