◆イノベーションのジレンマは、クレイトン・クリステンセンが1997年に提唱した経営理論である。この理論では、成功した企業が既存の商品、技術や市場に固執することにより、競合企業による破壊的イノベーションの出現に対応できず、長期的には失敗してしまうというジレンマが指摘されている。
◆既存企業は、自ら創造したイノベーションの結果、商品性能向上を追求し続け、長年享受した高い粗利率の確保に固執してしまう。結果として、低価格の類似機能商品、画期的な新技術やビジネスモデルに対抗するための十分な投資や自己改革の努力を怠り、最終的には市場から追い出されてしまうパターンが存在すると指摘している。特に「過剰品質問題」を抱えやすい真面目な日本人ビジネスマンは、気をつけなければならない。
◆この理論から学べることは2つある。1つめは、先行イノベーターは自己変革や自己破壊の覚悟を持たないと後発イノベーターに駆逐されてしまうということ、2つめは、後発イノベーターは、先行イノベーターが成功していればいるほど硬直的組織になっているので、先行者が創造した需要から果実を楽に奪いやすいということ、である。
【Plus】そもそもM&A売主が会社売却を検討し始めたきっかけが「後発の破壊的イノベーションの登場により、じり貧状態で苦しいから」というケースも考えられる。ここで重要となるのは「姿勢」である。
【Plus】この場合、M&A売主として成功するには「買主企業に負債やリスクを押し付けたい」という逃亡心理で臨むのではなく、「買主企業の経営資源を活用することによる逆転勝利ストーリー」持参の攻めの心理で臨むべきである。前者の場合、多くの買主は本格的な検討をしないか、使える経営資源のばら売り価格でしか買ってくれない(対象企業は実質倒産となる)。後者であれば、M&Aスキームを工夫すれば、最高のM&A成果をM&A売主が享受できる可能性が残る。
【Plus】上記のような状況になくとも、現行ビジネスモデルが、どの程度破壊的イノベーションの影響を受けるリスクがあるか評価し、必要に応じ、早期に変革を行うことが重要である。破壊的イノベーションを一番確実に成功させられるのは、先行イノベーター本人である。自己破壊と新価値創造の覚悟があれば、資金力のない後発競合に勝利できる可能性は高い。
【Plus】M&A交渉が始まってからは、破壊的イノベーションに対する対抗策を買主に正々堂々開示することが重要である(M&Aプロセス進行状況と機密保持のバランスに配慮することは必要であるが)。意外にもポジティブな評価をしてもらえる可能性があるし、具体的に開示すれば買主企業とのシナジー効果によって対抗策がより効果的なものにレベルアップする可能性もある。
【Plus】商品・サービスが飽和している現代において、大きな成功を手にするには先行者から需要を奪うしかない。また、技術革新が著しい現在、気づけば別業界が隣接業界になっていることもある。つまり、新技術を活用することで、隣接業界の先行イノベーターから需要を奪える可能性もある。奪われる側ではなく奪う側に移るには、経営者の柔軟な発想が重要である。