◆TRIZ(トリーズ)は、発明的な問題解決を体系的に行うための理論であり、主に技術的な課題を解決するために活用される。
◆1940年代にソビエト連邦の発明家、ゲンリッヒ・アルトシュラーが開発したこの理論は、特定の問題の背後にあるパターンや原理を抽出し、技術革新や創造的解決策を見つけるためのガイドラインを提供する。
◆TRIZは、問題の矛盾を解消するための40の発明原理や進化のパターンなどのツールを提供し、技術的革新を促進するために役立てられている。M&A売主にとっては「売却準備における企業価値向上のための新しい発想の切り口探し」として有益なツールである。必ずしも技術的・物理的な問題解決に限らず、競争戦略、商品開発、販売手法、組織設計、設備投資・改良、IT開発、金融など様々な領域の問題で利用可能である。ただし「いつもと違う角度から眺めてみることで着想を得る」というものに過ぎず、着想が成功するかは試してみないとわからない。何をどうやって試すのかのネタが尽きた人向け「テストのための仮説設定」で使えるツールである。
No | 発明原理 | 実行内容 |
1 | 分割 | 対象を分割する、または分割可能な要素に分ける。 |
2 | 分離 | 矛盾している要素を時間や空間で分離する。 |
3 | 局所性 | システム内の特定部分で、必要な機能を最大限発揮させる。 |
4 | 非対称化 | 対称構造を非対称構造にする。 |
5 | 結合 | 複数の機能やシステムを統合する。 |
6 | 汎用性 | 同じ機能を他の用途にも利用する。 |
7 | 包含 | 1つの対象を別の対象の中に含める。 |
8 | カウンターバランス | 重力や他の力を別の力で相殺する。 |
9 | 先取り | 問題発生を予見し、あらかじめ対策を施す。 |
10 | 事前行動 | 問題が発生する前にアクションを起こす。 |
11 | 枯渇防止 | 不必要なエネルギーやリソースの消耗を防ぐ。 |
12 | 等しいポテンシャル | システムの中のポテンシャルの差を減らす。 |
13 | 逆方向 | システムの動作方向や動作順序を逆転させる。 |
14 | 曲面利用 | 平面を曲面に変える、または曲面を使用する。 |
15 | 動的システム | 固定部分を可動式にする。 |
16 | 部分的または過剰な作用 | システム全体ではなく一部で作用させる。 |
17 | 多次元利用 | システムを複数の次元で利用する。 |
18 | 振動原理 | システムや材料を振動させる。 |
19 | 周期作用 | 周期的な動作を利用する。 |
20 | 継続作用 | 止めずに連続した動作を行う。 |
21 | 急速作用 | 特定の動作を迅速に行う。 |
22 | 有害効果の逆利用 | 本来有害な要素を有益に活用する。 |
23 | フィードバック | システムの出力に基づいて調整する。 |
24 | 媒介物 | システム間に媒介物を加えて調整する。 |
25 | 自調整システム | システムを自動的に調整する機能を持たせる。 |
26 | コピー | システムの要素を模倣して利用する。 |
27 | 手動から自動へ | 手動プロセスを自動化する。 |
28 | メカニズムの交換 | メカニズムを他のものに置き換える。 |
29 | 柔軟な膜や薄膜の利用 | 硬い物質を柔軟なものに置き換える。 |
30 | 流体やガスの利用 | 液体や気体を利用する。 |
31 | 多孔性材料 | 物質を多孔性にする、または多孔性の物質を使用する。 |
32 | 色彩変更 | 色やパターンを変える。 |
33 | 均質性の変更 | システムを異質にするか、均質にする。 |
34 | 廃棄物再利用 | 廃棄物を再利用する。 |
35 | パラメータ変化 | システムのパラメータを変化させる。 |
36 | 相転移 | システムを相転移(物質の状態変化)させる。 |
37 | 熱膨張 | 熱によってシステムを膨張させる。 |
38 | 強力な酸化剤利用 | 酸素や他の酸化剤を利用する。 |
39 | 逆浸透 | 浸透を逆方向に行わせる。 |
40 | 自己崩壊 | システムを自壊する構造にする。 |
◆TRIZの一部原理を活用して革新的な成果を出した有名企業の事例として、マクドナルド(米国)とSamsung(韓国)がある。
マクドナルドは、「時間先取り」(第10原理)を活用し、商品提供の準備を顧客が商品を注文する前に開始することで、商品提供時間を劇的に短縮。この戦略は、需要予測を活用し、ロスを最小化する方法と組み合わせて実施された。また、「自調整システム」(第25原理)を活用し、セルフオーダー端末を導入。顧客自身が注文を入力することで、効率化や注文ミスの減少を図り、スタッフの負担を減らしサービス品質を向上させた。
Samsungは、「分割」(TRIZの第1原理)を活用し、スマートフォン部品を小型化しながら、性能を維持し、他部品との相互干渉を最小限に抑え、バッテリー寿命の向上や機能性の向上を実現、より薄型高性能なスマートフォンを開発した。また「動的システム」(第15原理)を利用し、スマートフォン構成要素に可動部分を設け、ユーザーが画面の拡大やスライド動作などをスムーズに行えるようにした。これにより、ユーザーエクスペリエンスの改善にもつながった。
【Plus】M&A前の企業価値向上やM&A時の情報開示でのアピール
M&A売主が対象企業の技術的課題やプロセス改善の際にTRIZを導入することで、今までと異なる切り口から製品の革新や生産効率の向上を実現できる可能性がある。成果が出てくれば、業績改善の根拠としてアピールできるし、少なくともTRIZを用いて課題や改善手段のアイデアを整理しておけば、具体的なアップサイドポテンシャルとしてアピールできる。
【Plus】持続的な企業価値向上やPMIやシナジーの成功可能性アップ
M&A買主にとって、TRIZのような体系的な問題解決手法を導入している企業は、自律的な革新を継続的に行える能力を持つと評価でき、企業価値を高く評価できるポジティブ要素となる。また、TRIZによってPMIがより効果的効率的が進むことで、シナジーを最大限に引き出し、新製品の開発や既存製品の改良などの成功可能性が高まる点もポジティブ評価要素となる。