◆未払社保・労保とは、企業が従業員に対して支払うべき社会保険料および労働保険料を、法定の期限内に納付しなかった状態を指す。これには、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険など、従業員に義務付けられた保険料の支払いが含まれる。未払いが長期間続くと、企業に対して追加の罰則や利息が課せられることがある。
◆社会保険は、従業員の生活を守るための保険で、主に以下の種類がある。
健康保険:従業員が病気や怪我で療養が必要な場合、治療費の一部を保障する保険。企業と従業員がそれぞれ一定割合を負担する。
厚生年金保険:従業員の老後の生活を保障するための年金保険。企業と従業員が負担し、老齢年金、障害年金、遺族年金などが提供される。
介護保険:一定の年齢に達した従業員やその家族が介護サービスを受けるための保険。従業員が40歳以上の場合、企業はこの保険にも加入させる必要がある。
◆労働保険の種類
労働保険は、労働者の職場での事故や失業に備えるための保険である。
労災保険:従業員が業務中に事故に遭った場合や疾病を患った場合に、その治療費や生活支援を提供する保険。企業は全額負担する。
雇用保険:失業した場合に失業手当を支給する保険。企業と従業員が一部ずつ負担する。
◆未払時の当局対応
企業が社会保険料・労働保険料を滞納していることが発覚した場合、管轄の年金事務所や労働基準監督署から督促状が送付される。その後、未払金額の支払いを求められるとともに、追加の調査や説明を求められることがある。未払いが確認されると、以下のペナルティが課せられることがある。これにより、企業の資金的な負担が増す。
延滞金:支払いが遅れた場合、延滞金が課せられることがある。
罰金や懲役:悪質な未払いと判断された場合、さらに罰金(や懲役)が課されることがある。
法的措置:最終的に法的措置(財産の差押え)が行われる場合もある。
【Plus】M&Aでマイナス評価されないための売却準備
M&Aにおいて、未払社保・労保がマイナス評価されないようにするためには、適切な売却準備を行うことが重要である。以下のポイントを参考にする。
▽そもそも社保・労保が不要な労働力調達方法に切り替える
高コストの正社員に任せていた業務を、以下のような手段で代替できるのであれば、積極的に切替え、労働生産性を向上させるとともに、社保・労保の負担を減少させる。
労働力調達方法 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
ITシステム(DX化) | 人間の労働力を不要にするため、社保・労保の負担なし | 開発は保守のために別のコストが発生 |
業務委託(アウトソーシング) | 外部の事業者に業務を委託、企業は社保・労保の負担なし | 委託契約が適切でない場合、従業員と見なされる可能性あり |
フリーランス(個人事業主) | 自己の裁量で業務を行う個人事業主、企業は社保・労保の負担なし | 契約形態が適切でない場合、従業員として扱われる可能性あり |
パートタイム労働者(条件を満たさない場合) | 労働時間や収入が条件を満たさない場合、社保・労保の負担なし | 条件を満たさない場合、企業は社保・労保の負担を避けられる |
派遣労働者(短期間・条件付き) | 派遣元が社保・労保を提供、派遣先は負担なし | 派遣元企業が負担、派遣先は責任を免れる(実質負担のため節約効果は薄い) |
▽未払額の整理と解消
売却前に、未払の社会保険料や労働保険料がないか、またはその額がどれくらいであるかを確認し、可能な限り解消しておくことが重要である。ところで当局次第で督促すらされない可能性もある。従業員との関係が良好に保たれていることを条件に、M&A最終契約の補償条項として組み込むことも可能である。精算負担を先送りまたは回避できる。
▽社労士や弁護士と連携:
社会保険料や労働保険料の適切な処理方法について、社労士や弁護士と連携し、法令遵守を確実に行うことが必要である。少なくとも「問題が発生しにくい仕組み」は不可欠である。重要なのは、M&Aに精通している専門家でないと逆効果になるリスクがある点である。できれば早い段階から優良なM&Aアドバイザーも味方につけた上で、専門家と総合的に有利な方法を模索すべきである。