◆未払賃金とは、労働契約や就業規則で定められた賃金を、所定の支払日に支払わなかった状態を指す。賃金には、基本給、諸手当、賞与、割増賃金や退職金などが含まれ、支払いが遅れることで労働基準法に違反する可能性がある。
定期賃金:月給、日給など通常の給与
割増賃金:時間外労働、休日労働に対する割増賃金
有給休暇の賃金:労働基準法第39条に基づく
賞与・ボーナス:規則で定められていれば未払賃金と見なされる
休業手当:使用者の責による休業中の賃金(60%以上)
退職金:労働契約や就業規則で明確に定められている場合に対象
◆違反時の効果として以下が挙げられる。
法的罰則・付加金:未払賃金がある場合、労働基準監督署から是正勧告を受け、支払いが求められる。
労働者が訴訟を起こした場合、裁判所は使用者に対し、付加金(未払賃金と同額)の支払いを命じることがある。退職日までの期間に支払われるべき未払賃金(退職金除く)については、年14.6%の遅延利息が加算される。裁判による解決も可能であるが、時間がかかり裁判費用や付加金のリスクもあるため、示談による解決が多い。
労働トラブルの発生:労使間での紛争が従業員の耳に入ることで、従業員の士気が低下し、意欲低下や離職率の上昇といったリスクが生じる。
【Plus】治癒も開示もせず、デュー・ディリジェンス等で発覚した場合の影響
企業価値の大幅な毀損:多額の未払賃金が発覚した場合、買主は株式価値評価額を大幅に下方修正するか、取引自体を撤回(破談)する可能性がある。
事業存続リスク増大:未払賃金が過去数年分にわたる場合、その累積額が高額になる。精算のために多額のキャッシュアウトを要すため、資金繰りの問題を生じさせる場合もある。事業運営と両立する再発防止策を構築できない場合、事業の継続可能性にも影響を与える。M&Aから再生案件となる。
信用失墜とイメージ悪化:悪質であると従業員等から評価されてしまうと、企業に対する信頼が低下する上、この事実が外部まで伝われば、顧客離反やブランドエクイティの毀損まで招く可能性がある。
【Plus】M&Aで会社を高く売るために実施すべき売却準備
未払賃金の有無を事前に検証し、問題を解消する
・給与・賞与等の賃金の支払状況を定期的に検証する仕組みを構築する。
・未払賃金が発見されたら、再発防止の上、速やかに清算する。または、買主次第では、時効成立(請求権消滅)まで待つ方が売主利益につながる場合もある。M&A戦略の一環としてM&Aアドバイザーと相談すべき重要事項である。
・就業規則や賃金規定を見直し、不明確な部分を明文化する。
賃金支払状況に関するデータを整備・開示
・給与支払いの履歴や賃金台帳を整理し、デュー・ディリジェンスでの情報開示に備える。
・買主に対して積極的に情報開示し、透明性の高さによって安心感を提供する。初期的情報開示とデュー・ディリジェンスやインタビューとの間で一貫性があることが重要である。
労務コンプライアンスを強化する
・必要性が高ければ、ベンダー労務DDを外部専門家(社会保険労務士や公認会計士)に依頼し、問題と解決策を把握する。
・労働基準監督署の指導履歴を確認し、過去の是正勧告がすべて解消済みかチェックする。
退職金制度の整備と積立の確認
・退職金の支払い義務が就業規則で規定されているにもかかわらず、支払原資の手当てが済んでいない場合、退職金積立制度(中小企業退職金共済など)を活用し、未払リスクを軽減する。
従業員とのコミュニケーション強化
・従業員に対して給与制度の透明性を確保し、給与遅延や不安を抱かせない体制を整える。
・従業員との深い信頼関係や魅力的な職場環境があれば、多少の未払ミスは問題とならない。未払賃金が発生していた場合でも、従業員へ丁寧に説明し、信頼回復に努めておく。
・従業員が重要な事業の場合、給与未払いは死活問題となるため、他の支払いに優先して確実に期日に支払う。