◆公益通報者保護とは、企業に勤める労働者が、企業の不正行為や違法行為を通報した際に、不利益な取り扱いを受けないよう保護する制度を指す。日本では「公益通報者保護法」に基づき、労働者(正社員、契約社員、パートタイマー、派遣労働者など)がその保護の対象となる。
◆公益通報制度は、経営者と従業員との距離が遠く、不正行為を隠蔽できる程度に大きな組織規模の会社は制度化を検討すべきである。公益通報制度のメリット・デメリットには以下のようなものがある。
▽メリット:
・不正行為の早期発見:外部からの指摘等を受ける前に問題を認識して対策を講じることができる。
・コンプライアンスの強化:法令遵守体制が強化されることを通じ企業の信頼性が高まる。
・リスク管理の向上:レピュテーション悪化による重大な損失を回避できる可能性が増す。
▽デメリット:
・濫用リスク:悪意のある通報や誤解に基づく通報が業務を混乱させる可能性がある。
・情報漏洩による混乱:通報内容が外部に漏れることで、想定外の対応に忙殺される。
【Plus】M&A売主にとっての公益通報制度に関する留意点
▽ 買主からポジティブ評価されるケース:
・内部通報制度の適切な整備・運用:過去の通報案件が適切に対応されている場合、対象企業の内部問題が深刻化する前に対策を取りやすく、ダメージを最小限に抑制できる会社であると高く評価される。
・適切なリスク管理体制:定期的な社員教育や通報プロセスの見直しが行われている場合、問題発生時に迅速な対応が期待できる上、問題が起きても再発防止しやすいと評価される。
▽ 買主からネガティブ評価されるケース:
・通報制度の未整備・形骸化:内部通報制度が存在しない、または効果的に機能していない場合、コンプライアンスリスクが高いと見なされる。
・過去の通報が未解決のままである:通報が行われた問題が放置されている場合、買収後に潜在的な法的リスクや損害賠償請求が発生する可能性が懸念される上、買収後に新たに発生する問題も放置されかねないと懸念される。
・頻繁な通報が行われている:通報の頻度が非常に高い場合、従業員の企業ロイヤリティに問題がある可能性も懸念される。
▽売主が取るべき具体的な対策:
・制度の整備:公益通報者保護制度を正式に導入し、就業規則や内部規程に明記する。
・教育・啓発活動:従業員に対し、公益通報者保護の目的と適正な利用方法を周知し、濫用を防ぐ。
・透明性の向上:通報内容の適切な記録・対応を行い、第三者検証等を活用し信頼性を確保する。
・過去案件の整理:未解決の通報案件がないか確認し、もしあれば速やかに対応する。
・買主への開示準備:過去の通報内容やその対応履歴を整理し、買主にポジティブな印象を与える開示資料を準備する。