◆源泉所得税とは、給与や士業等への報酬などを支払う際、支払者がその金額の一部を差し引いて支払い、受領者に代わって国に納付する制度である。所得税の確実な徴収を目的としており、所得税法および関連法令に基づいて運用される。
◆法人が納付義務を負う源泉所得税の種類
▽月額給与・賞与・退職金:役員や従業員に支払う給与(月額給与、賞与・退職金を含む。役員・正社員・契約社員・パート・アルバイトへの給与だけでなく、みなし従業員(外注先フリーランサーだが実質従業員と認定された者)への報酬や、認定給与(実質給与と認定された役員貸付金や役員の個人的な支出等)も含む。月額が少額の対象者への支払いは除く。)。
▽報酬:弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントなどへの報酬。
【Plus】中堅中小企業のオーナー社長に対する認定給与
M&A案件の対象企業がオーナー社長に支払っていた多額の金銭が、税務調査で「認定給与」とみなされてしまうと、億円単位以上のキャッシュアウトが生じるリスクがある。また、M&A取引が破談になったり、大幅にディスカウントされたり、M&A最終契約で厳格な補償条項を設けられるリスクもある。適切な売却準備が極めて重要である。BB案件でも数千万円規模のキャッシュアウトになりうるため、やはり注意すべきである。
税務調査の結果、オーナー社長に対する会社からの金銭等の支給が、実質的には役員に対する給与と認定されてしまうと、過去に遡って、源泉徴収が漏れていたことになる。所得税は累進税率であり、税率が最高税率になりやすい上、追徴税(場合によっては重加算税)も加わることから、かなり大きな資金流出のリスクがある。悪質性が高い場合、懲役刑や罰金も加わる。さらに、本来、役員給与を法人税の損金に算入できるのは、定期同額給与等の所定のルールに則ったもののみであるため、認定給与となってしまうと、その金額は法人税の損金計上ができない有税キャッシュアウトとなってしまう。このようなリスクの存在が明るみに出れば、M&A取引が破談になっても不思議はない。また、発覚した時期がM&A取引の成約後だったとしても、表明保証・補償の仕組みによって、M&A売主は多額の補償を強いられることになる。できるだけ役員貸付金として認めてもらえるように、金銭消費貸借契約書を交わし、返済の事実を積み上げるなど、適切な対応が求められる。
【Plus】M&A売主が注意すべきポイント
▽過去の納付状況の確認:源泉所得税を納付すべき支出なのに納付漏れがないか、過去の支出や納付履歴を精査し、漏れがあれば、修正申告・納税を自主的に行う。対税務署で「誠実な納税者の姿勢」を見せておくことは重要である。必要性が高ければ、セルサイドDD(税務DD)を実施しておくと安心である。
▽再発防止:納付漏れが見つかったら、再発防止策を構築しておく。多くの人への支払いがある企業の場合、うっかりミスが起こりやすい。定期的なチェックの仕組みを現場や管理部門に置くことで再発を防止しやすくなる。
▽オーナー社長への支出:オーナー社長からすれば「対象企業は自分のものであり、自分で稼いだお金を自分が使って何が悪い」という感覚になるのは自然であるが、上記のような重大な「認定給与リスク」があるため、できるだけリスクを減らせるような措置が必要不可欠である。
▽売却準備:事前の欠陥治癒や適切で透明な情報開示のため、適切な売却準備を実施する。
▽優良なM&Aアドバイザーの起用:税務に明るいM&Aアドバイザーを起用すると、準備作業等が効率的になる上、リスクを軽減・消滅しやすくなる。できるだけ優良なM&Aアドバイザーを選定すれば、高額売却とリスク回避を両立できる可能性が高まる。