うちの会社は親族経営の小さな会社なので、シェルパさんに依頼しても担当してくれるかわからなかったが、事業内容などを詳細に説明すると「本当に良い会社ですね。他のFAさんは10億円でも小さいと言いますけど、自分も似たような事業の経験があるので、これだけの実績を積み上げるのは本当に大変だし、むしろ尊敬します。タイミングの他にも色々とチャレンジはあると思いますが、なんとか頑張ってみます。」と担当してくれた。
目標に達する金額ではなかったが、経営を引き継いでくれる有名企業が見つかった。しかし「これだと、事業を自分で続けて清算した方が金銭的には有利ですね。支出を徹底的に抑制し、資産をキャッシュに替えればこれだけの金額が手元に残ります。もしお金を大事に考えるならM&Aで売らない方がよいでしょう。すぐに社長を降りないといけない事情がない以上、自分で連れてきて恐縮ですが、ここに売るのはお勧めしません。うちもきついですけどね(笑)」と言われた。
その後、事業の改善活動を継続し、M&Aではないが私の二-ズを満たせる特殊スキームまで考案してくれて、その相手も見つかった。しかし「この相手が、あなたのニーズを本当に満たせるか、慎重に質問を続けたところ、どうやら違うようなので、この話も進めない方がよいでしょう。」と言われた。私はその説明を受け、たしかにこの相手に譲ればすぐ肩の荷を降ろせる。しかし、この人が高い確率で起こす事態を想像すると、デメリットが大きすぎると理解した。話を進めずに正解だと思っている。
すごい手間をかけてくれたのはよくわかっている。ほとんど報酬らしい報酬も受け取っていないのに自ら報酬を受け取る道を閉ざした。クライアントを優先するプロの気概を感じた。
最近ニュースで話題になっている「吸血型M&A(ルシアン事件)」というものがあるようだ。とにかく案件を成立させ成功報酬を欲しがるM&A会社だと、どんな相手だろうとどんな条件だろうと成立させようとしてしまう。経営に苦しいオーナー社長なら「経営者保証を引き継ぎましょう」という甘言に誘惑されてしまう。気持ちは痛いほどわかる。相手が初めから騙すつもりなら、おそらく、とんとん拍子に交渉が進むだろうから、天から地に突き落とされた気分だろう。しかし何度も慎重に検証する機会はあったはずで誠実なM&Aアドバイザーならルシアン社が買収する理由について懐疑心を持てたはず。
シェルパさんの代表は色々な苦労を乗り越えてきているし、本当に色々な領域に詳しい。一番気に入ったのは創業者の苦労を本当にわかってくれる人、自分の利益を捨てる覚悟を持ってる人だという点だ。こういう誠実なM&Aアドバイザーが担当してくれるならこういう非常識な事件に巻き込まれることは絶対起きないと思う。