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「日本人気質」から見る、M&Aによる会社売却時の心構え

2018/7/9

M&A会社売却時の心構え

「日本人気質」から見る、M&Aによる会社売却時の心構え

人間の思考は歴史で形作られ、歴史の流れを理解するには教科書で説明されるような大義や感情等よりもお金の流れが大事なケースも多いものです。今回は、日本人会社オーナーが、なぜ間違った会社売却方法を選択してしまいがちなのかについて、日本史観から整理してみました。

日本人気質1: 衣食住以上のお金を不浄と考える

江戸時代の徳川家の政権運営策として「侍(士)の特権階級化(=士農工商制度)等」が挙げられますが、ライバル大名の経済的窮乏が真の目的と言われています。つまり、戦国時代の継続を脅威に感じた徳川家康が、ライバル大名から反乱を起こす能力(経済力)を奪い、一方で、面子を与えて均衡を図ったということでしょう。これにより、日本人は「武士は食わねど高楊枝」「金儲けを第一にする商人は守銭奴であり最低階級」という意識を刷り込まれたと考えるべきです。徳川家の保身策がうまく行きすぎた故、日本人は組織のためならいざ知らず、自分のためにお金を稼ぐことに後ろめたさを感じる人が多くなったのでしょう。

日本人気質2: お隣さんと同じことをしてると安心する

日本人は周囲の目を気にしますが、長らく続いた農村社会島国という地理的特徴が背景でしょう。自然災害に協力して毎日努力を続けなければ生きていけないリスクがあるために村八分等の制度で異分子を排除、近代でも戦時中や戦後において一致団結して「周囲と同じこと」を正確に継続することが方程式でした。一方で、国境がすべて海であるために、近隣諸国間での血で血を洗う資源争奪戦を避けられたため、「隣人に対する疑心暗鬼が薄い」ということが挙げられると思います。基本的に悪いこととは思いませんが、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしであり、「他人と同じことをしていれば、自分は責任がない」という思考回路に直結するので、組織のリーダーとしては危険な思考パターンと言えるでしょう。特に会社のリーダーは「環境変化の半歩先を行く目利き」と、「周囲にそれへの対応を進めさせる指導力」、「必要な資源を確保する配置力」が必要であり、むしろ「他人とは違う視点から事をなす胆力」が大事だからですね。

日本人気質3: 競争を悪と考える

これは、倫理的に受け入れられやすい(人を傷つけない)思考ですが、立場次第で効果が変わってきますから、ステレオタイプにレッテルを張るのは大きな間違いでしょう。競争は日本人が嫌ったところで絶対世の中からなくならないのです。「競争環境」を臨機応変にうまく利用すれば、購入する際には安く購入できますし、販売する際には高く売ることができるでしょう。そのため、経営者の方は、自然と「競争環境」をフル活用しているはずです。しかし、「組織のため」という大義名分を離れ、「自分のため」となると一気に合理性を失う人が多い点も日本人の特徴なのです。経営者としては、できるだけ競争を避け、独占に近い市場を探すことで大きな財務的成果が得られます。うまく競争を避けられる市場に自社ポジションを確保することで、長期安定と高い収益性の両立が可能になるのですから。逆に、会社を売る投資家としては、競争を最大限に利用して好条件を狙うべきです。

日本人気質がM&A売却時にどのように影響するか

さて、こうなるとM&Aによる会社売却の際のオーナーの思考回路が、あるべき姿から歪みやすいことが容易に予想できます。

本来、会社のため、組織のためと考えるなら採用するべき、「あるべきM&Aの目標と手段(つまり最適解)」があるはずですが、「大金をもらうのは悪いこと」「他と同じなら自分に責任ない」「競争しないで済む方が気が楽」という安易な方向に流れてしまい、本当に会社のため、従業員のため、社会のためになる方法を真剣に検討せず、真逆のことをしているケースが頻繁に確認されるのが日本での中堅中小企業M&Aの実態です。そして、結局、一番重要なはずの「自分のため」にもなっていないのですから目も当てられません。

しかし、これは仕方ない面もあります。なぜなら、圧倒的多数のセルサイド(売り手)にとって、M&Aで会社を売ることが「人生で初めてのこと」だからです。知らな過ぎる状態で進めてしまうことが問題なのです。この点を解消するには、やはり、M&A助言会社を複数タイプ・数社ずつ呼んで、徹底的に納得のいくまで「質問攻め」にすることで「M&A市場と自社の関係」についての「情報」を得て、自分が採用すべき「あるべきM&Aの目標や手段」を考え尽くした上で、最適なM&A助言会社とひざを突き合わせて「最適なM&A戦略(最適解)」を練った上でM&A市場にアタックするべきでしょう。