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「地方の会社」をM&Aで有利に売却する方法

2018/7/16

M&Aのマーケティング

「地方の会社」をM&Aで有利に売却する方法

M&Aでは、ターゲット企業(売り手企業)を「ぜひ欲しい!うちが買収したい!他には取られたくない!」と思ってくれるバイサイド(買い手)との間で、様々な論点について最終合意した上で、取引実行することを目的としますので、逆に言えば、好条件でスムーズにM&A成約に至るためには、「ターゲット企業を買収すると時間や手間が困るといったマイナス感情」を持たれない方が良いに決まっています。

ところで、バイサイドに関しますと、圧倒的に東京に、頻繁にM&Aを実施する大企業、投資ファンドや外国企業等が集積しています。そのため、首都圏のターゲット企業の方が、やはりM&Aで会社を売却しやすいというのは動かしがたい事実であり、逆に、ターゲット企業が地方をメインの拠点として活動している場合にはマイナスに映ってしまうケースもあるのです。

地方企業を売却する場合には、上手にマイナスイメージを軽減・排除したいものです。地方にあるというマイナスの幅を減らしたり、逆転の発想でプラスの売り材料に転換したりすることも可能になるのがM&Aの面白いところです。そういう意味で、地方案件の方がM&A助言会社の力量次第で差が生まれやすいとも言えますから、入念に情報収集して、しっかりと比較してからM&A助言会社を決めてください。

地方がマイナスと映るケース

まず、店舗を構えたり、モノの製造・販売や人によるサービスを提供するようなリアルなビジネスと、インターネット環境でほぼ完結してしまうバーチャルなビジネスに大きく2つに分けてみます。前者は供給や需要が物理的制約に晒されますが、後者は効率的な供給体制さえあえば限界費用ゼロ近くで物理的制約がほぼなしに需要にアクセスできるわけですから、立地という論点に関するM&A的インパクトが格段に異なるということです。中間的なビジネスもたくさんありますが、まずは分かりやすさを重視し極端な2パターンについてコメントしたいと思います。

リアルなビジネスの場合、地方の人口減高齢化の見通しがマイナスに映る可能性があります。顧客が少なくなっていき、そこから離れることができないターゲット企業となれば、将来的な価値は厳しめに見ておくことが無難となります。人口が減らない首都圏にいるバイサイドから見れば、なおさらでしょう。また、リアルビジネスである以上、店舗や人員をリアルにその場所に構えなければ売上は見込めませんから、人口減等を避けるために先行投資をして新規展開するエリアで供給能力を具備する必要がありますが、M&A交渉の中においては、新エリアで成功するかどうかは不透明であるし、先行投資も買収コストの一部を構成しますので、容易に潜在価値を評価してもらうことはできないものと考えておくべきです。

一方、インターネットで完結してしまうようなバーチャルなビジネスは、中にいる人のクリエイティブなアイデアとそれを他に先駆けて実現する技術などに関する情報交換等が重要であるため、グループ企業はできるだけ同じ場所に集積していた方がよいと考えるのがノーマルかと思います。そのため、例えばネット系新興企業は渋谷区に集積したりしているわけです。では、このようなバーチャル系のバイサイドから見て、地方にあるターゲット企業を買収することはメリットがあるでしょうか?最終的な競争力は、アイデア実行力で決まりますので、ぜひ優秀なエンジニア同士等で活発な意見交換をしてほしいところでしょう。しかし、バーチャルなビジネスと言えども、エンジニア等が地方にいるとなれば、フェイストゥフェイスで議論したり意見交換することは難しくなります。やはり中で働く人たちは、リアルな制約を受けるのであって、地方にいるということがこの面でマイナスに映るのは仕方がないのでしょう。

地方がプラスと映るケース

なんらかの工夫をしなければ覆すことのできない上記のような状況下で、「どのようにしてマイナスを上回るプラス要素を具体的根拠を伴って証明していくか」はM&Aバンカーの腕の見せどころです。

1つは、バイサイドがM&Aをする目的が全国制覇にあり、欠落しているピースがその地方である場合、その地方に存在すること自体がプラス要素となりえます。さらに参入障壁が高いビジネスの場合にはM&Aでその地方にある企業を買収するしか全国制覇の道が残っていないことになりますから、重要な交渉材料になるでしょう。

1つは、東京や首都圏にまだないビジネスである場合、首都圏という大きな市場で急成長できる期待がありますから、この期待を信じるバイサイドに買収してもらえば、大勝利の可能性があるということになります。信じてくれないバイサイドは後回しまたは無視すればよいだけです。

1つは、東京や首都圏で不足している経営資源地方から補充できるような場合も、地方であることがマイナス以上にプラスとして評価される可能性もあります。頻繁なコミュニケーションが必要な人が少数であればマイナス面を補って余りあるプラスとして評価してもらえる余地があります。人手不足のエンジニアを地方で抱えるターゲット企業とか、物理的制約を受けないデジタルコンテンツの制作をしている会社などでしょう。

1つは、地方であるがゆえに専門人材の採用が困難、最新情報へのアクセスが遅いという経営上のマイナス面が、逆にM&A的には好条件の原因となってしまうケースです。そこで、「〇〇業では〇〇費は売上の〇割程度がふつうだ」とか「今までうまくいっているから問題ない」といった思考回路で経営している場合、逆に、想定以上の価格で売却できるチャンスが見込めます。お宝案件なので安直なM&A戦略は禁物になるパターンです。経営内容を精査すれば大きな改善余地がみつかり、比較的短期間で売上拡大、費用低減の改善策が実行できる可能性が高いからです。正解は「〇〇費を支払うのは顧客の獲得又は維持を目的としたもの、そのためには新たに採用することで、〇割または〇円まで引き下げられる別の方法はないか?」という「不断の変化に対応する努力」ですので。こういう余地がありそうな場合、M&Aバンカー選びにおいて「細部にわたる最新のビジネス感覚」を持っているかがチェックポイントとなります。

他にも色々な角度から対策を考えられるケースはあると思います。

実際には、個々の状況を把握し、地方にいることが「M&A戦略上の弱み」と映ってしまうようなら、事前準備活動の中で「弱みを軽減・排除」するなり、バイサイド候補の選別のプロセス中で「弱みと映らない相手」を優先する等が合理的な対処方法でしょう。間違っても、「地方だから不利」など安易と決めつけず、柔軟に最適なM&A戦略を模索しましょう。M&Aによる会社売却においては、「平均点はどうでもよい」のです。「最終的に売却する1社からどのような評価を得られたか(実現可能な最高点1つだけ、他がいくら低くても問題ゼロ)」が重要なのです。

バイサイドに訪問してもらう季節も考える

いざM&Aの提案のため、バイサイド(買い手)に提案しにいき、前向きな感触が得られ、机上での情報のやり取りが済むと、実際にターゲット企業(売り手企業)をバイサイド候補が訪問するという段取りに入ります。特に地方企業の場合、念のため頭の片隅に入れておいていただきたいことがあります。バイサイドも人間であり、頻繁に訪問する可能性があるバイサイドのM&A担当者にとって、心地よく訪問してもらうべきということです。

つまり、北海道、東北等のターゲット企業に心地よく訪問してもらうには、できるだけ極寒の冬は避けた方が無難となりますし、盆地等の会社も夏や冬は避けた方が無難でしょう。地方自慢の旬の食事をいただける季節だと印象がよくなるかもしれません。そこで、実際に現地訪問するタイミングは、DDを始めるかどうかのタイミングとなりますから、遅くともベストシーズンの3か月前には情報開示の準備を終わらせておく必要があります。M&Aの準備開始時期を逆算して動きだしておけば、土壇場でもったいないことにならずに済むかもしれません。つまり、冬にM&Aバンカーに事前相談を始めれば、寒いのはセルサイドの味方のセルサイドFAだけということですから、結果に影響ありません。

M&Aは、合理性や計算の世界と思われがちですが、バイサイドもやはり人の子であり、楽しい、美味しい、心地よい場所の会社には関心を示しやすく、そうでもない地方の会社には関心を示しにくいという傾向があるのは避けられないはずです。M&Aで会社売却する際の「顧客」であるバイサイドの立場にたち、少しでも気持ちよくお金をお支払いいただくべく、小さなことにもできるだけの配慮をしましょう。