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M&A用の事業計画策定過程で「埋蔵金」が見つかる

2018/1/29

M&Aの開示資料

M&A用の事業計画策定過程で「埋蔵金」が見つかる

M&A交渉時に開示する事業計画とマネジメント・インタビュー

M&Aで会社を売却する際、事業計画の開示を要請されます。

相手(バイサイド:買い手)の立場になれば当然です。ターゲット企業(売り手企業)の短期・中期的な業績見通し、現在抱える課題と実現可能性のある改善施策について、現経営者が、どのように考えているのかを知りたいと思うのは当然です。

そのため、零細規模のM&Aでない限り、デューデリジェンス(DD)プロセスの中で、事業計画の開示を要求され、その事業計画に基づいて、セルサイドの経営陣が、各バイサイド候補からの様々な質問に回答するというマネジメント・インタビューが設けられるのが通例です。バイサイドによるターゲット企業への理解を深めることができます。

M&A助言会社は、DDプロセスでM&A的に適した事業計画を開示するため、セルサイドオーナー社長から素の事業計画を開示してもらい、アレンジすることがあります。多くの素の事業計画は、M&Aで開示する事業計画としては改善余地の大きな状態だからです。弊社の場合、事業計画を全面的に作り直すサポートをさせていただくケースもあります。経営環境を含め現状を正確に把握するところからスタートし、実現可能で効果的な施策を盛り込むことも必要不可欠です。過度に保守的な事業計画はセルサイド自ら不利な状況に追い込みますし、過度に楽観的な事業計画はバイサイドに真面目に読んでもらえません。M&A目的に資する合理的な事業計画に修正するよう助言させていただくわけです。

中堅・中小の事業計画が不合格になりやすい理由

中堅・中小企業が策定する事業計画は、M&A的観点から見ると不合格になりやすいのですが、通常の事業計画を見せる相手・目的とM&Aで開示する事業計画を見せる相手・目的がまったく異なる点をセルサイドが正しく認識していないことが主な原因です。

通常の事業計画は、社内の役員・従業員もしくは取引銀行等といった、いわば身内を相手に、方向性を一致させることを目的としているケースが多いと思います。銀行の融資担当者であれば、ローンの回収可能性が難しくなりそうな局面以外は大した指摘もないはずですし、基本的に保守的な事業計画を要求されることが多いと思います。

一方で、M&Aで開示する事業計画は、あなたの会社について社名すら知らない会社も含めた完全な外部第三者が相手であり、あなたの会社の魅力をしっかりと伝え、あなたの会社のM&Aによる経営権の取得に強い関心を示させることが最大の目的です。つまり、バイサイド候補をしっかり分析し、バイサイド候補が魅力を感じる部分をわかりやすく説明する、伝え方も徹底的に考え抜いて記載することが必要です。バイサイドが大企業である場合、事業計画はバイサイド社内で複数の意思決定階層にわたり読み込まれ、独り歩きしていくケースも多いものです。決定権を持つバイサイドの役員等が誤解したせいで、「検討見送り」という残念な結果に陥らないように、また価値を「過小評価」されないように、十分に練りこんだ魅力や改善処方箋が正しく伝わる、具体的かつ客観的な事業計画を策定すべきです。大企業の意思決定の構造はとかく官僚的になりやすいですから、一度形成されてしまった評価を覆すことは非常に困難です。しかも、あなたの会社のどこの部分に関心を示すのかは相手次第で変わります。すなわち、必要に応じて、事業計画で強くアピールするポイントも、バイサイド候補を分析した結果に応じて、オーダーメイドで会社ごとに濃淡をつけるなど、それくらい重要なのがM&Aで開示する事業計画です。

例えば、商品を20代女性に販売するときに使用するパンフレットと60代男性に販売するときのパンフレットは別のものを使用するのと同じことです。M&Aという取引では、セールスマンであるFAを雇って、会社の株式(会社経営権)という商品を売ることが目的ですので。

通常の事業計画は、今のオーナーシップ、今の経営者、今の経営資源による、今までの延長線の計画に過ぎません。しかし、M&Aで価値を生み出す事業計画というのは、バイサイドが有する経営資源(リソース)と有機的に結合した結果、どのような新しい効果が生じ、それが財務的にどれくらいのインパクトがありそうかを試算するための重要な根拠や検討材料がふんだんに含まれているものであるべきです。不足リソースと補完された場合のポテンシャルについても触れておいて損はありません。

隠された価値(ヒドゥンバリュー)

良い会社には、さまざまな潜在能力が隠れて存在するものです。M&Aの事業計画では、せっかくの潜在能力を隠したままにせず、潜在能力が実現できていない原因である具体的な課題とその実現のための解決策(ソリューション)についてもできるだけ具体的に記載すべきです。

ところで、隠された潜在能力について、現経営者が気づいていないケースも多いものです。長期間経営をしていると、内部の人間が増えてきて「習慣化」が始まりますし、外部環境も大きく変わってしまっているはずです。ビジネスの潜在可能性を理解してM&Aという取引を活用して実現させるサポートこそがセルサイドFAの本分ですから、セルサイドFAのような第三者の視点や専門的な知識・経験をうまく活用して、考えうる潜在価値をすべて洗い出し、その実現のための課題は何か、どうすれば実現できるか、実現したらどれだけのプラス効果が見込めるか、これを読み手であるバイサイドに伝えるのがM&A事業計画の最大の狙いなのです。

有能なセルサイドFAは、ターゲット企業の表面的な姿(事業内容、売上高、営業利益、純資産)だけではなく、顧客のニーズと商品・サービスの関係、競争環境とポジショニング、市場環境と趨勢、経営資源の内容などを緻密に分析して、隠された価値(ヒドゥン・バリュー)を見つけ出し、それを最大限生かす方法を創造的に検討・考案・実現する訓練をしてきたプロフェッションですので、もしかすると、あなたの会社に密かに眠っている「M&A埋蔵金」が見つかるかもしれません。埋蔵金の価値をアピールせず、安値で売却してしまうことも多く、セルサイドが一生気づかない寄付、バイサイドにしてみれば棚ぼたと呼ばれます。

また、潜在能力についての具体的な実現方法が記載されたM&A事業計画が、複数のバイサイド候補の目に留まるように情報開示することで、各バイサイド候補に一種のプレッシャーをかけることができる(他の候補の存在、自分が買収を見送って他の候補に実現されるともったいないと思わせる)という点も、「M&A兵法」上、極めて重要です。

クライアントの利益最大化を狙うFA(Financial Adviser)であり、セルサイド特化型でもある弊社が、実際のM&Aプロセスを開始する数か月前から事業計画をM&Aの目的に照らしてベストな状態にするサポートをするケースがあるのは、このような背景があるからです。