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M&Aでの売り手企業は嫁入り前の大事な娘、もしも嫁入り支度が不足してたら?

2018/1/30

M&A会社売却時の心構え

M&Aでの売り手企業は嫁入り前の大事な娘、もしも嫁入り支度が不足してたら?

M&Aで会社を売却するのは、中古品販売よりも嫁入りに似ています。大事に娘を育てた親がセルサイドオーナー(売り手)で、お嫁に行く娘がターゲット企業(売り手企業)です。そして、娘の夫になる人がバイサイド(買い手)です。

中古品販売の価格

まず、わかりやすいモノの販売から説明しましょう。中古品を売ろうとするとき、現所有者は何を考え、売る前に何をするでしょうか?本でも自動車でも、余計な減点をされないようにできるだけキレイに、原状回復の努力をします。本の場合は、表紙に付いてしまった食べかす等をウェットティッシュで拭いたり、黄ばんだ本のフチに紙やすりでこすっておくだけでも、余計な減額を回避でき、査定額が上がります。中古車の場合にも、車内の清掃をしたり、キレイにワックスがけをしておくことで、余計な減額を回避でき、査定額が上がりますね。買い取り業者は少しでも安く買いたいので、簡単に原状回復できるような僅かな欠陥でも鋭く指摘して買い取り価格を引き下げようと経営努力をしてきますし、そのことを売る人も知っています。余計な減点は避けたいから、簡単に治癒できる欠陥であれば面倒臭がらずに自分で治癒する人が多いと思います。単なるモノの場合はこのような「物理的な欠陥の治癒」で効果十分です。所詮はモノなので、欠陥による減点を除けば、どこで売ってもだいたい同様の値段でしか売れません。

会社売却の時の価格

しかし、M&Aの場合、売るものは単なるモノではなく、買った人への将来の貢献度合いによって全く価値が異なってくるイキモノですね。そのため、会社の売却は嫁入りに似ていると言われます。婚活中の女性は、少しでも社会的ステータスが高く、年収が高く、自分を大事にしてくれそうな旦那候補からプロポーズしてもらうために、どのような努力するでしょうか?見た目中身技術等を磨くのが一般的でしょう。女子力アップに適齢期の女性が精力的に取り組んでいるのは、自分を安売りしたくない、取返しのつかない失敗を避けたいからでしょう。美容院、スキンケア、ダイエット、メイクアップ、ネイル等によって美貌を磨き(見た目)、社会人としての経験も積んで男性が楽しめる話題に参加する頭脳を鍛え(中身)、美味しく健康的な食事を作れるように料理学校に通って料理の腕を磨きます(技術)。つまり、自分を高く売りこむため事前に努力しているのです。髪の毛ボサボサ・肌ブツブツ・ビール腹といった見た目、幼稚で自分勝手な性格、そして役立たずということでは、旦那を見つけることは極めて難しいし(一生独身)、見つかっても望む水準に到達していない旦那(安売り)になるのが関の山、嫁入り後、望んでいる水準の幸福は期待しにくいでしょう。

多くのセルサイドオーナーは、「俺の会社は、あるがままに評価してもらえばよい。だから余計な準備などは不要だ。」という男気の方が多いのですが、M&Aの場合には無謀なのです。少なくとも余計な減額がされないように、最低限の美貌、最低限の中身、最低限の技術が備わっていることが外部第三者に正しく伝わるようにしておくべきでしょう。意外と多いのが、情報開示が完全に不足しているせいで、本当は備わっている美貌・中身・技術がバイサイドに伝わっていないまま、安値売却してしまうケースです。バイサイドにとっての棚ぼたですが、セルサイドにとっては怠慢の報いと言えます。簡単に治癒できる欠陥に気づき、減額交渉に成功したバイサイドはシメシメと思うことでしょう。不確実性等の合理的な根拠を盾にして、大きな減額を要求できるからです。これに反論するためには合理性や客観性で上回る再反論が必要となります。

バイサイド(買い手)は法人であることが通常ですが、実際に具体的な検証に基づく判断を積み重ね、最終的な決断を下すのは常に個人です。大きな会社の中で高い評価を得た抜け目のないエリート・サラリーマンが大半です。見た目、中身、技術といった点について、短期間でアラが見つかるようでは余計な減点は免れませんし、将来の期待も萎んでしまうかもしれません。買収する価値がない(検討打ち切り)、買収しても安値(条件悪化)という決断になってしまうのは、最低限の事前の努力を怠っていたことが原因かもしれません。できることはすべてやり切って、最適なプロセスを経た上で確認できた最高の条件であれば、腹が決まりやすいものです。

ところで、嫁入り支度が短期間では不十分なのと同じで、会社をM&Aで売却するための準備も短期間では不十分となるケースが多いのが現実です。早めに現状を客観的に把握して、治癒できる欠陥は治癒してしまいましょう。会社経営は生き物なので、一部の欠陥を治癒したつもりが別のところで問題が発生することもあるからです。バイサイドも会社経営者ですから当然その点もよくわかっていて、欠陥の治癒には不確実性やしばしば副作用が生じる可能性があることを知っています。

準備完了かどうかは客観的視点が大事

また、嫁入り準備は、男からどう見られるかが大事なのであり、女性が1人よがりに厚化粧しても意味がないのと同じで、M&Aによる会社売却の準備も、バイサイドから見て魅力的に映るかどうかが重要です。しかも、オーナー経営からチーム経営に移行させたいバイサイドとしては、オーナー社長の思い込みは思いのほか大きくズレている可能性も高いでしょう。しかも、想定しておくべき相手であるバイサイド(買い手)は、事前準備段階では未確定で具体的にどの企業を想定すればよいのか不明であることもM&A準備の難しい点です。

さらに、魅力度の濃淡は、ビジネスの客観的評価をベースとしたM&Aバリュエーション(財務数字)で決定されます。具体的には、EV(Enterprise Value:企業価値)が大きいほうが魅力的ということです。異性の好みは人それぞれ多種多様ですが、M&Aにおいては、唯一EVのみが魅力度を決める要素ですので単純です。常に、EVという数字に換算し、個別の判断を選択し、具体的な改善行動をし、M&Aによる会社売却を成功させてください。