顧客を正確に理解することは、売上を最大化・安定化するための大前提です。
セルサイドオーナー(投資家として自社株式を売却する意向を持つ人)にとって、顧客はバイサイド企業であり、売上は株式売却対価ですから、バイサイド企業の欲求や課題を正確に理解することは、好条件での会社売却のために不可欠な準備と言えるでしょう。
そして、M&Aで売却する対象物は、バイサイドが食べる食べ物でもなければ、快適さを味わうサービスでもありません。バイサイドにとってM&Aで購入する商品は、ターゲット企業(売り手企業)という会社(事業体)です。つまり、買収後の成果を期待する事業体なのです。事業体である以上、セルサイドは、”結合企業グループ”として”顧客”について理解しなくては適切なマーケティングができません。高値売却を目指すスタートラインにすら立てないのです。つまり、ターゲット企業の顧客と、バイサイド企業の顧客についても、セルサイドが深く理解する必要があるということです。
これを理解してからM&A戦略を練って進める場合と、理解せずにM&Aを進めてしまう場合とでは、結果に雲泥の差が生じます。M&Aでの会社売却価格の面でも、M&A後のターゲット企業や役員・従業員の将来という面においてもです。
M&Aセルサイドにとっての3人の顧客とは?
バイサイドという新オーナー、バイサイド企業の顧客、ターゲット企業の顧客という3つの顧客をしっかりと分析しておくことが、M&Aマーケティングの成功のために必要不可欠な作業になります。
まず、バイサイドという新オーナーが、「ターゲット企業を買収することで、どのような欲求を充足し、課題を解消しようと考えているのか?」を徹底的に考えましょう。
バイサイドというM&A取引上の顧客
バイサイド企業の今の顧客はどのような顧客であり、バイサイド企業の商品・サービスによってどのような欲求を充足し、課題を解決しているのか?
そしてセルサイド企業の商品・サービスが加わると、どのような欲求を充足でき、課題を解決できるようになるのか?セルサイド企業の今の顧客はどのような顧客であり、セルサイド企業の商品・サービスによってどのような欲求を充足し、課題を解決しているのか?そしてバイサイド企業の商品・サービスが加わると、どのような欲求を充足でき、課題を解決できるようになるのか?M&Aの直接の相手であるバイサイドの立場になって、徹底的にメリット・デメリット等を考え抜き、適した戦略を立てるべきです。欲求充足や課題解消が実現できるようになる。シナジーと呼ばれるものです。具体的にはクロスセル、アップセル、ダウンセル、コストダウン等がありますね。このようなシナジーの実現こそが、バイサイドというM&Aの顧客の欲求であり、バイサイドが単独では実現できていなかった課題をターゲット企業を買収することで解消できるようになることも、バイサイドの買収目的でしょう。高値売却の道のスタートラインです。
ターゲット企業の顧客
ターゲット企業(売り手企業)の顧客については、セルサイドはすでに十分理解されていると思います。しかし、M&Aによる企業結合の後は、バイサイドの経営資源が加わり、ターゲット企業の顧客へも変化が生じる可能性が高いのです。どのような影響がありうるかについて検討することが重要です。バイサイドの商品が加わることでターゲット企業の顧客は追加的に商品・サービスを買ってくれそうなら、シナジーが見込めます。それが伝われば高値売却の道が開けます。
バイサイド企業の顧客
バイサイド企業の顧客についても、可能な限り理解する努力をすべきです。バイサイドの経営陣が普段考えていることを理解しようと努力することで、M&Aの提案内容がレベルアップします。M&Aは「ターゲット企業の顧客を買ってくる」という目的に重要性がある場合が多く(特に市場縮小見通しの日本の場合)、バイサイド企業の顧客と重複の少ない顧客を持っているならば、高い評価が得られやすいということになります。その可能性を的確に伝えられれば高値売却の道が開けます。
M&A戦略も基本に忠実に
「顧客の立場になって考える」、商売の基本中の基本です。しかし、「言うは易し」です。
実際のM&Aの現場では、無数に存在する会社等からバイサイド候補を選ぶので、検討すべき対象も無数にあるわけです。無数の組み合わせのなかで、演繹的に、帰納的に、試行錯誤を繰り返しながら、M&A戦略のピントを合わせていくという気の遠くなるような職人芸が要求されます。適切に実行できるM&Aバンカーをしっかりと選んで有利な交渉に挑みましょう。