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M&Aバリュエーションに疎いという無謀

2018/1/30

M&Aのチーム管理

M&Aバリュエーションに疎いという無謀

M&Aで会社を売却しようとするオーナーは、成功させるために必要なチームを作ることになりますが、そのチームの中に最低1人は必要な人がいます。

それは、M&Aバリュエーション(Valuation)をできる人です。M&Aバリュエーションとは「株式価値の評価」のことです。

通常、バリュエーションバイサイド(買い手)が利用する評価実務のことを指しますが、セルサイド(売り手)の方がより必要性が高いことが、実はあまり理解されていないようで、それがセルサイドに「M&Aの失敗」をもたらす原因になっている場合がよくあります。

一般的なバリュエーション実務

バイサイドは静的保険

M&Aのバリュエーション実務は、会計事務所等が、コーポレート・ファイナンス理論に基づいて、ターゲット企業(売り手企業)の状況やM&Aトランザクションの態様等に適した評価手法を用いて、株式価値を算定評価し、バイサイドに株式価値算定報告書(バリュエーション・レポート)の形式で提出することで完結します。

そして、バイサイドは、M&Aの実行可否、その際の条件についての社内決裁をとる際の参考資料(実際の買収予定額が、外部専門家による評価レンジ内に収まっており、過大な買収額ではないことを確認するための参考資料)として利用することが多いと思います。

このように、通常、株式価値算定報告書というものは、すでにセルサイド-バイサイド間での「値決め」が終了した後で、バイサイド適正価格以内で買収することを事後確認するための参考資料であり、実態としては、バイサイドの役員の責任を限定することが目的です。つまり、M&A役員責任保険(免罪符)のようなものです。

バイサイドが行うM&Aバリュエーションは、静的と言えますね。

セルサイドにとってのバリュエーションの意味

セルサイドは動的モノサシ

一方、セルサイドは、M&Aを検討している期間中、「常時、株式価値がどのように評価されるか」を的確に把握することが重要です。少しでも好条件を目指したいセルサイドは、バイサイド条件交渉をすることになります。セルサイドは、自分が育てたターゲット企業を、自分が選んだ外部のバイサイドに売却するわけですが、開示する情報等を自らが全てコントロールできる立場です。セルサイド本人の選択を基礎として条件交渉するということです。

もし、売却後人生を左右する「M&Aの条件交渉」で使う「共通のモノサシ」をもっていないとどうなるでしょうか?

本来、セルサイドは、バイサイドを選び、開示する情報も選べるという意味で、いわば「胴元」のような立場です。しかし、もし「共通のモノサシ」を持っていなければ、不利を跳ね返す、有利を導く適切な条件交渉が困難になってしまいます。

1人でよいので、バリュエーションに精通したM&Aバンカーセルサイド陣営にいれば、様々な情報をモノサシに当てはめてみて、「どっちが有利か」、「どうすれば効果が増えるか」、「どのようなリスク管理方法があるか」を数値的に比較検討することができるようになります。

内部・外部の環境変化戦略・戦術の転換等は常に起こります。それら多岐にわたり時々刻々と変化する要素のそれぞれが、今進めているM&Aの成果に対し、具体的にどの程度の株価へのインパクトを及ぼすか、発生してしまった問題を上手くかわし、価値下落を食い止める方策を思いつくかどうかが、売却後の人生を左右するということです。

セルサイドが行うM&Aバリュエーションは、動的と言えるわけです。

セルサイドは計算を超えた目利き

狭義のバリュエーションは「計算」のことを指しますが、セルサイドにとっては広義のバリュエーションが必要です。それは、「計算」よりも高度な「評価」というものです。そのためには、計算スキルだけではなく、ビジネスの目利き力が高いM&Aバンカーを雇うとよいでしょう。

特に、複数のバイサイド候補との間で同時並行的に交渉する段階こそが、結果に大きな差を生む、大事な段階です。

大変なことに、バイサイド候補それぞれの立場に基づき、あらゆる角度から飛んでくる厳しい指摘や反論等について、できるだけ聞かれた瞬間に的確に回答する、しかもバリュエーション面でセルサイドに損になりにくい回答内容で、というスピードを伴った複雑系判断力が必要とされるわけです。

確認して後日ご回答します」という切返しを濫用すると、信頼性に欠ける印象を与えてしまうケースもありますし、コーポレート・ファイナンスのプロであることが参加前提となっているM&A交渉現場(特に好条件売却も可能となるプロのバイサイドとの交渉現場)ではナメらてしまい、相手に交渉ペースを譲ることにもなりかねません。もし好条件で会社を売却したいと思っているなら、バリュエーション素人だけで交渉に臨むのは無謀ですから、必ず1人はM&Aバリュエーションプロをチームに入れるようにしましょう。

ビジネスに関する知識とファイナンスに関する知識は、売却相手との建設的な議論をする前提でもあります。そして、セルサイドM&Aバリュエーションは、ビジネスに関する知識とファイナンスに関する知識を融合したスキルです。