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社内キーパーソンをM&Aプロジェクトチームに加えるにあたって

2018/2/2

M&Aのチーム管理

社内キーパーソンをM&Aプロジェクトチームに加えるにあたって

M&Aを実現させるためには、広範囲にわたる情報開示が必要であるため、必要に応じて、社長様以外の役員・従業員の方にM&Aプロジェクトチームに加わってもらうことが必要となる場合があります。一方で、「会社が売却されようとしている」という事実をネガティブに受け止めるタイプの従業員に伝わったり、重要なキーパーソンが変化を嫌って会社から去る、取引先等に伝わって想定外のダメージを被るというマイナスの事態が起こらないような備えも重要です。

詳細情報開示に関する人選について

まず、バイサイドが必要とする情報は(伝え方を工夫しながらも)開示したほうがよいですから、以下のような領域について詳細説明が可能な人にプロジェクトチームに入ってもらうと効率的かつ正確になります。

  •  経営企画
  •  商品・サービス開発
  •  営業企画・マーケティング
  •  財務

これらの組織のキーパーソンは、どういう商品・サービスを、どのような顧客に、どうやって販売し、売上を計上していくのかという経営の根幹にあたる部分について詳細を把握している人なので、的確に情報開示するためには重要な人たちです。
しかし、社内情報漏洩による士気低下や社外漏洩リスクの最小化のため、必要最小限の人のみをチームに加え、その他については都度社内ヒアリングをすることで、バイサイドへの情報開示を進めることが無難でしょう。比較的問題が起きにくいのは『M&Aによってオーナーが変わることが自分にとってプラスになる』と考えそうな人ですが、基本的に人間は「変化」を敬遠するという点を考慮して、できるだけ内密にしておいた方が無難です。

ただし、社長様が財務に詳しいケースはさておき、財務の人だけはチームメンバーに加えておく方が効率的になります。開示する資料の多くが経営活動の結果を数字として表した財務関連資料であり、第三者に理解してもらうために数字を作成してきた財務担当者の説明が必要になることが多いからです。しかし、財務部門ヘッドの性格次第では、やはり内密にしておくことも選択肢の1つでしょう。その場合、M&Aの検討という名目は避け、経営コンサルティング等の名目で、M&Aバンカーが質問をする等によって対処することが考えられます。こういう場合に備え、M&Aを連想させない別の名刺を用意しているM&Aバンカーも時々います(ちなみに弊社も公認会計士としての経営コンサルティング等を業(なりわい)とする別法人の名刺を準備しています)。オーナー社長様は、第三者から質問されても適切に回答できるように、特に、「売るもの」・「売る相手」・「売る方法」について、淀みなく説明できるように準備しておいていただくと効率的になります。

今後の経営体制を理解してもらうための人選について

M&Aは会社の経営権を第三者に譲渡する取引です。例えると、法人は「車」ですが、経営者が「ドライバー」であり、車とドライバーが一体となってはじめて「運転」が可能になります。バイサイド(買い手)としてもM&A後の経営体制については最大級の関心を持つはずです。NDA(機密保持契約書)を締結した後のDD(企業精査)の段階におけるマネジメント・インタビューの中で、社内のキーパーソンに実際に登場してもらい、バイサイドからのQ&Aセッションや今後の経営方針に関するディスカッションに参加してもらう方法も検討すべきでしょう。

オーナー社長様がM&A後速やかに引退する予定の場合

ドライバーがいなくなるということは、バイサイドからすると非常に不安です。この場合、次期社長を社内もしくは社外から探してこなくてはなりません。バイサイドの社内に適格者がいれば問題解決ですが、大規模な同業の事業会社でもない限り、タイミングよく次期社長を送り込めるかは分かりません。バイサイドとしては車の購入ではなく、レーシングチームを運営したいからM&Aをするわけですので、セルサイドとしては今後の経営体制に安心してもらう最大限の努力をすべきでしょう。なぜなら、不安が大きくなればなるほど、価格にそのリスクが織り込まれてしまいますし、最悪ケースではバイサイドがいなくなってしまうからです。このような事態にならないようにするには、セルサイドとしては、キーパーソンとして社内にどういう人がいて、今後どういう活躍が期待できるか、仮に次期社長を人材マーケットから調達するとしたらどのような人を探索すべきか(重要タスクとそれを遂行するためのスキルや経験等)を説明できるようにしておくことが肝要です。

オーナー社長様がM&A後も当面の間、経営者を継続できる場合

ドライバーが今後も運転してくれるとなると、バイサイドとしては不安材料が少なくなります。同業事業会社の場合には自社から次期社長を送り込みたいと思うケースもあるでしょうが、それ以外のケースでは通常プラスに見てもらえると思います。しかし、この場合もキーパーソンについてしっかりと説明できるようにしておきましょう。なぜなら、オーナー社長が経営権を手放した途端に、経営意欲が減退してしまうリスクをバイサイドは非常に気にするからです。場合によっては、M&A交渉の一部として、ストックオプション(新株予約権)を発行してもらう等、M&A後も意欲が衰えず、むしろ今まで以上に頑張るという期待を抱かせることがバイサイドの不安を打ち消すため、M&Aでの条件を向上させるために有効となる場合があります。