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M&A会社売却成功プロセス:「競争環境」は「高品質開示情報」と「One-off助言」によって

2018/11/12

M&A会社売却時の心構え

M&Aのマーケティング

M&Aの開示資料

M&A会社売却成功プロセス:「競争環境」は「高品質開示情報」と「One-off助言」によって

競争環境」を発揮させることは、買い手に「高値掴み」させようとする卑しい事と誤解される方がいらっしゃいます。

しかし、実は、M&Aでは①「正しい競争環境によってこそ、買い手はよりHAPPYになる」という常識と反するメカニズムがある事、②「正しい競争環境」のためには「高品質開示情報」と「One-off助言」が必須であることをご理解ください。

コモディティ市場における「競争環境」「市場機能」とは?

M&Aでの「競争環境」を正しく理解していただくため、似て非なるコモディティ市場の性質を整理してみましょう。

市場(いちば)での「競り」をイメージしてください。魚市場でも野菜市場でも構いません。

モノを売るにあたって「競争環境」があった方が、売り手にとって有利になりますね。買い手が1人しかいなければ、「言い値」で売るしかない状態ですが、買い手が多数いれば、「思いもかけない好条件」で売れる可能性が生じます。

これが「競争環境」です。売り手(セルサイド)としては大事なモノを売る以上、「競争環境」を活用したいものです。

次に、逆の立場である買い手視点で考えてみましょう。

市場(いちば)で出品されているモノ(原材料)をどう加工・調理し、いくらでお客様に提供し、いくらの儲けが残るかを計算し、出せる範囲であれば札を上げることになります。ライバルが多ければ、良い原材料を仕入れられるよう、日々、「切磋琢磨する必要」があることも意味します。つまり、買い手のお店に来てくれるお客様が、追加オーダーしてくれ、リピートしてくれ、友達を連れてきてくれるなら、値段が高くても品質の良い原材料を買った方が、儲かって安定する「好循環」が可能です。

こういう買い手が「能力の高い買い手」です。

逆に「能力の低い買い手」は「悪循環」に陥りやすく、滞留在庫、廃棄処分の可能性が高まります。だから、買い手は日々努力しなければならないし、「規律」が働くことで、経済全体が効率的に発展していくわけです。

相手を選ばず安く譲ってあげることが良いことではない、能力の高い相手を選んで最適価格まで引き上げて売る方が、むしろ社会により大きく貢献するとご説明しているのは、こういう市場メカニズムがあるからです。

ところで、仕入れた材料を廃棄処分しなければいけなくなった責任は、全面的に買い手にありますね。原材料のせいでも、原材料メーカーのせいでも、価格が高かったからでもありません。買い手の能力が低かったからです。責任転嫁できるとすれば、原材料の品質に関し偽装情報があったケースだけです。

購入の責任は自己責任、情報開示(ディスクロージャー)の不備がある場合にのみ、売った側に責任転嫁されるのが大原則です。

100円で仕入れた原材料を1,000円とか1万円で売れたなら、購入者の儲けになります。それと表裏一体です。当たり前の事だと思います。

つまり、情報開示によって責任の所在を調整する役割も、市場が担うべき役割の1つです。

潜在能力を秘めた良い原材料は、能力の高い買い手に買われていくように調整される」このような状態を「市場機能が発揮されている」と言います。

HAPPYになるべき人が全員HAPPYになるために必要な機能です。

M&A市場は、コモディティ市場と何が違うのか?

M&Aも、扱う商品がターゲット企業の経営権ですが、市場(いちば)での取引と基本的に同じです。

売り手はセルサイドオーナー、買い手はバイサイド、市場(いちば)の役割を担うのがM&A助言会社と言えます。

M&A市場が健全に機能していると、参加者全員、経済全体にとってメリットが大きく、M&A市場が機能しなければ、デメリットが大きくなる点もコモディティと同じ、インパクトが桁違いなだけです。

しかし、M&Aは、コモディティと決定的に異なる側面を持っています。「商品の性質」が決定的に異なり、「潜在価値」「相乗効果」「選択基準」「期待とリスク」が遥かに複雑であるために、取引の巧拙の差が大きくなりやすく、特に売り手にとっての成否の差が大きくなりやすいという側面です。

一点モノ(One-off)のオークション市場

コモディティを扱う市場(いちば)では、商品を、毎日、大量に、画一的に、扱います。市場(いちば)では「競争環境」「市場機能」は容易に発揮されやすく、「より良い品(価値ある商品)は、より良い買い手(それをもっと価値ある商品に昇華させられる買い手)に買われる」という望ましい状況を期待しやすいと言えます。

一方で、M&A市場は、コモディティ用の市場(いちば)というよりも、一点モノ(One-off item)を扱う美術品や骨とう品のオークション会場に近い(近くあるべき)のです。

M&A市場で扱う商品は、「世界で唯一の、ある企業の経営権」、つまり、一点モノ(One-off item)ですし、買い手も自動的には集まらず「M&Aアドバイザーが極秘に探索・提案」することではじめて市場が形成されます。つまり、M&Aの交渉現場での「競争環境」は、自動的に出現するものではなく、M&Aアドバイザーの「知恵と工夫と努力」によって創造されるものと言えるわけです。

会社は変化するイキモノ

さきほどの市場(いちば)では魚や野菜をイメージされたと思いますが、こういう商品は、変化も成長もしません。「用途」は限定的です。

生物(いきもの)を扱う市場(いちば)は、食肉にしたり、ペットにしたり、レース用にしたりと、「用途」は少し広がります。しかし、所詮は1単位の生物の可能性の枠内にとどまります。

しかし、M&Aで扱う商品は、企業経営権です。

人間が集団となって生み出す付加価値そのものであり、さらに有形・無形の過去の努力の蓄積との反応が含まれます。「用途」は、使う人次第、非常に広大な可能性を秘めているイキモノであるわけです。

この点において、単に太っ腹な買い手が集まる市場に出品するだけではなく、個々のターゲット企業(売り手企業)の特徴(ユニークな強み等)を最大限に発揮する能力や意欲を持っている「M&A能力の高い買い手」を慎重に選ぶ必要性が極めて高い点が、M&A市場独特の特徴の1つと言えるでしょう。

無論、まずは、ターゲット企業の「企業価値」を最も向上させる意欲と能力のありそうなバイサイドに売ることを目標とすべきです。

企業価値最大化とは、言い換えると、「ポテンシャルの使い切り」です。事前準備で「ポテンシャルを増殖・見える化」し、M&A助言で「ポテンシャルを使い切る」のが、売り手にとっての正解です。

その方が、通常、M&A対価の支払余力があるし、従業員等を酷使せずに済むわけですから。ポテンシャルがあるのに使わないのはもったいないだけです。

M&A市場で健全な「競争環境」と「市場機能」を発揮させたければ、「一点モノ」の「イキモノ」が商品であることを意識しなければ、何も始まりません。

買い手が品定めする際に使うもの

さて次は、バイサイドが、ターゲット企業の、①個別性の高い可能性・リスク、②個別性の高いバイサイドとの結合効果(シナジー効果)を正しく理解し、好条件で買う気持ちになってもらうための方法の説明です。

バイサイドは、品定めをするため、必ず開示情報を吟味します。

コモディティでも、産地、生産者、原材料、製造工場、商品写真、ブローシャ、パンフレット、HP、クチコミ情報などの開示情報をチェックしますね。M&Aでも同じです。

ただし、M&Aでは、「ターゲット企業の可能性やリスク」という圧倒的に複雑な品定めをしなければならない以上、バイサイドに納得してもらうためには、バイサイドの個別ニーズとピントが合い、必要にして十分に詳細な、高品質情報開示が必要不可欠となります。

だから、元々、M&A開示資料は、上場する際に投資家に開示する分厚い有価証券届出書等をひな型としているのです。

資本の移動が伴う株式取引をスムーズに実現するため、証券会社のM&A担当部署は、「企業情報部」等という名前の部署で、M&Aや上場や増資等の企業の極秘情報を扱う部署として、情報管理が徹底されてきたという歴史があるのですね。

M&Aは過半数株式を扱いますから、「上場よりも重い利害関係の伴う取引」と言えます。したがって、有価証券届出書よりも重い情報開示を要求されるのが当然となります。

あるべきインフォメーション・メモランダム等のM&A開示情報は、IPO時の開示情報レベルを基本として、個別性を十分に反映し、高いリスクを負担するバイサイドが満足するレベルのものである必要があるわけです。

買い手の責任と情報開示レベル

これから買うかもしれない商品=投資の中身が何なのか、その投資をして、できるようになることは何か、増えるリスクは何かが分からないまま、ほぼ100%安全な価格(純資産ベース価格+α等の「まず損しない価格」)を超える価格で買収するしかなくなります。結果として、買収に失敗すると、バイサイドの担当役員は、善管注意義務、忠実義務に対する任務懈怠責任(会社や株主に対する損害賠償責任)を負うこともありえるのですから。

高品質な情報開示を受け、十分に咀嚼し、「取るべきリスク」と判断したのであれば、「経営にリスクはつきもの」ですから、任務懈怠責任を問われる心配はないでしょうし、適切なリスクを取ることのできる有能な経営者が、安心して適度なリスクを取り、投資額以上の成果(企業価値の向上)を手に入れる機会を獲得できることになります(リスクを取る覚悟のないバイサイド、M&A能力の低いバイサイドも世の中にたくさんいますが、そういう相手には、大事な会社の経営権を売らなければよいだけです)。

魚や野菜の仕入は、多少の失敗はつきもの、被害も限定的、責任も限定的ですから、情報開示も限定的で十分です(とはいえ、それだけ限定的な目的のためにも情報開示は各段に向上し続けています(例:トレーサビリティ等))。

しかし、企業経営権は、魚や野菜と異なり、外見をパッとみて、手で触ってもらえばよいというわけではありません。遥かに高次元の情報が判断のために必要です。

M&A情報開示において、財務諸表や企業概要書程度の開示は、「外見パっと見レベルの情報開示」に過ぎません。①ターゲット企業の各経営要素とメカニズム、②バイサイド企業とのシナジー効果のメカニズムが、バイサイドの頭の中で生き生きとイメージされる状態に持っていくことが必要なのです。

情報開示と情報漏洩

また、さらに厄介なのが、この不可欠な情報開示プロセスの中で、情報漏洩との闘いが発生する点であり、これもまた、M&Aの特殊性の1つと言えるでしょう。

特に、ユニークな強みのある、特徴の強い会社を売る際には、相手次第で高くも安くも評価されやすく、狙いを定めた特定の買い手に完全に満足してもらう必要性が高いのですが、効果を追いすぎてしまうと、営業機密漏洩等、セルサイドに甚大な被害が生じることになります。

機密が漏れることで①競争力が低下しても困りますし、機密が漏洩した会社を買いたがるバイサイドはいませんから、②全ての買い手が手を引く、③売れてもその被害を見積もって割引されるのがオチとなってしまうということです。

M&A情報管理では、「攻めと守りのバランス」が極めて重要となる点もM&Aの特徴の1つです。

両方兼ね備えた「情報開示」であってはじめて「高品質」と言えるということですよ。

M&Aは、高品質情報開示×厳選複数バイサイドによって常にギリギリを攻めるべきであり、低品質情報開示×無造作抽出多数バイサイドという安易な方法で売ろうとすると、セルサイドにとって残念な結果を招きやすいということでもあります。

コモディティ助言とOne-off助言の決定的な違い

M&Aの開示情報は、ティーザーインフォメーションメモランダムQ&A・インタビューDD詳細情報開示等の「セルサイド発信情報」で大部分が構成されます。これが不十分なようでは話になりません。

さらに、①「M&A助言業者とバイサイドのコミュニケーションの中で創造される新情報知の発見)」や、②「セルサイドとバイサイドのコミュニケーションで創造される新情報知の発見)」といった「双方向情報」も含まれ、こちらの重要性も極めて高いと言えます。

この2つがあるかないかが、M&A業者で一番差がある部分ではないかと思います。

深い理解と高い目標を掲げたM&A助言会社は、作成する資料が高品質(高品質な情報開示)なだけではなく、バイサイドと深いコミュニケーションが可能になり、セルサイドに対して付加価値の高い助言(一点モノ助言(One-off助言))をすることが可能になります。

弊社では、このような双方向情報が創造されるようなM&A助言を、パターン化による件数重視のコモディティ助言と区別し、案件毎の特徴を丁寧に組み上げる品質重視のOne-off助言と呼んでいます。

One-off助言をするためには、ターゲット企業に関する深い理解が必要不可欠ですが、高品質な開示情報を準備する過程で着実に培われます。

高品質な情報開示をすると、バイサイド候補を媒介として付加価値の高い情報を入手でき、逆流して、セルサイドに高品質な助言(One-off助言)をすることが可能になります。

One-off助言高品質情報開示は、切っても切り離せない関係にあると言えるでしょう。

2つ揃うことで、セルサイドは、自分のペースで有利に交渉しやすい、専用のM&A市場を形成できるわけです。

情報開示と助言の品質が顕著に表れるタイミング

M&A助言会社の巧拙の差は、意向表明書(LOI)の段階で如実に表れます。

M&Aプロセスの中では、序盤戦と中盤戦の境目ですから、かなり早い段階で勝負が決まるということです。

バイサイドは、情報不足の状態で、確度の高い条件提示はできません。責任があるので当然です。

深い理解の伴った確度の高いLOIか、②DDで如何様にも下方修正可能な脆弱なLOIかという違いが、情報開示と助言の品質の差によって生み出されます。本来、前者をもらってなければ、安心してDDステージに進むことができないのですが、無意味なLOIしか受領していない状況では、LOIの品質が高いのか低いのかがわからないまま決断を迫られ、挽回は極めて困難、というのが現実なのです。

簡易資料の開示とわずかなQ&Aだけでたった1社に絞り込み、DDに進ませてはいけないということですよ。

「楽をすると後で痛い目に遭う」という基本原則は、M&Aでも同じように機能します。

DDに進んでから新たに発見された問題点は、価格等の条件を引き下げる合理的な根拠となります。「DD(企業精査)の前に出した意向の表明」なので、通常、LOIは法的拘束力を持ちませんから、LOIを受領する前に関連情報を開示しておかない限り、条件引き下げに応じるか、そのバイサイドとの交渉は打ち切って別のバイサイド候補との交渉を始めるしかありません。

低品質な情報開示しかしていない場合、「泣く泣く大幅条件引き下げに応じざるを得なくなるリスク」を負うということです。

M&A助言会社が品質主義である場合、高品質な情報開示では、M&A助言会社が、DDで指摘されるであろう論点を網羅し、「先回りして」合理的に説明してあるはずなので、DD後の大幅条件引き下げを回避することが可能ですし、情報開示を受けてもなお、不誠実な対応をするような悪質バイサイドは、候補を厳選する過程で落選させているので、通常、問題は生じません。

M&Aで成功するには量より質

M&Aでは量より質が重要です。

質さえ高ければ、数社程度の厳選バイサイドに競ってもらえば「セルサイドが不利にならないの競争環境」の効果を得られるのです。情報漏洩リスクも最小限に抑制できるので一石二鳥です。

高品質な情報開示とは、単に細かい資料ということではなく、ターゲット企業の事業を誰よりも深く理解したセルサイドFAが、その潜在可能性と、その可能性を実現させるための条件を把握した上で、バイサイド候補各社の保有する経営リソースと絡めた形で、バイサイド候補に投資の魅力(欲しい、他に取られたくない)を感じてもらえ、買収後の事業計画をすぐに策定し始めることができるような、バイサイドにとって非常に役立つパッケージ情報です。

M&Aでは、深堀りして説明すべきパートが、バイサイド毎に大きく異なってくるケースがほとんどです。

あるバイサイドは海外で伸ばせる、別のバイサイドなら費用の大幅ダウンができる等、バイサイド毎に魅力を感じる部分が違うのがノーマルですよね。

そのため、複数の厳選バイサイド候補を念頭に置きながら開示する情報を峻別することが必要です。

また、見せ方の工夫として、「このバイサイドには関係なくても、この部分に魅力を感じる他のバイサイドがいるだろう」という憶測を生じさせることで、一種の緊張感を発生させられるケースもあるでしょう。このような場合、無理に、競争入札にこだわらなくても、厳選した少数のバイサイドへの提案だとしても、しっかりと「競争環境」が働くことを理解してください。

そもそも、バイサイドは、他のバイサイドが何社いるのかについて、最後まで知ることはできませんから、必要十分な数の最適バイサイド候補に声がけしたら、もうそれ以上拡大させるメリットはないのです。

バイサイドの意思決定者の思考回路

高品質な開示情報によって、バイサイドが自分にのみ都合の良い条件(公正価値よりも大きく安い価格)を提示しにくくなるというメカニズムを理解いただくため、あるバイサイドの役員の頭の中を覗いてみましょう。

うち以外の別の候補も、自分が受け取ったのと同様のインフォメーション・メモランダムで、ターゲット企業の魅力を詳細に確認しているはずだ。うちにとって、最大10億円の価値が見込める会社だが、リスクは限定したいから、できれば5~6億円で買収したいところだ。しかし、7~8億円の条件で買収するバイサイドがいてもおかしくないほど、インフォメーション・メモランダムで、合理的な説明がされている。仕方がない。どうしても欲しいから、うちも8-9億円として意向表明書(LOI)を出すしかないな。」という圧力が生じるということです。

また、高品質な情報開示の副産物として、この役員の頭の中に、こういうアイデアが浮かんでくることもあるでしょう。

普通に考えると10億円の価値しかない会社だ。しかし、この部分についてもう少し勉強すると、うちなら飛躍させられる可能性を見つけられるかもしれないな。DDセッション中のマネジメント・インタビューで、確認してみよう。この点も踏まえると、LOIに8-10億円と記載してもよいだろう。。」

確認してみたら、思っていた以上にうちなら伸ばせそうだし、改善できる余地も見つかった。さらに、うちの費用も削ることができる方法も見つかった。10億円ではなく15億円の価値があるかもしれないぞ。LOIでの条件を9-12億円に引き上げて、なんとか独占交渉権を獲得しよう。

こうなることで、オーナー系企業に付き物の過大節税や非効率経営の影響で、過小になりがちな純資産と、営業利益だけを反映した株式価値での会社売却という残念な会社売却を避けられるわけです。

その他、数字だけではなく、経営リソースの希少性を訴えたり、具体的な改善方法不足経営資源を提案したり、シナジーの可能性を訴求したり、競合企業に奪われるリスクを指摘するなど、適正評価ベースで売却するための駆け引きの結果が「あるべきM&Aでの値決め」です。

優れたM&Aバンカーは、単なる株式譲渡スキームではない、将来の成長の果実をセルサイドが享受しやすいスキーム等を考案し、バイサイドに働きかけてくれることもありますから、さらに最終的な売却額が増えることもありえます。

「正々堂々と、商品であるターゲット企業の魅力を余すところなく整理し、その魅力を最大限に引き出してくれる買い手に、丁寧に説明して売る。」

この王道こそが、結局のところ、M&A成功の近道です。

逆に、簡易なペラペラ開示資料のみを受け取ったバイサイド役員の頭の中を想像してみてください。

せいぜい3-4億円しか提示する会社しかいないだろう。さっさと5-6億円と書いたLOIを提示し、独占交渉(競争環境が生まれる前に封印)に持ち込み、DDで欠点を徹底的に探せば、2億円くらいの値引きができるだろう。まあ3億円だな。

これがセルサイドにとっては非常に困るパターンです。悪いのはバイサイドではありませんね。M&A助言会社の仕事の品質が問題なのであり、そのM&A助言会社を選んでしまったセルサイドの責任です。バイサイドは与えられた状況下で最適な交渉を進めただけです。

セルサイドが自分の身を守るために絶対にやってはいけないこと

絶対にM&Aに関して素人のまま、業者任せにしないことです。

同じことですが、M&A助言会社を選ぶ際、取引銀行税理士からの紹介先をそのまま採用せず、ご自身で徹底的に比較し、最終的にご自身で決定することが大事です。

何故かというと、ほぼ全ての銀行マンと税理士は、投資銀行M&A助言部隊での勤務経験がなく、事業経験もファイナンス経験もM&A経験も決定的に不足しています。個別性の強いM&A案件においてポテンシャルを発揮させるための条件を充足できるM&A助言会社を探索することができないからです。M&A素人である銀行マンや税理士の責任にしてはいけません。紹介を頼む場合も「最終的には自分で決めます。」と伝え、関係が悪化しないようにしましょう。

ちなみに弊社SCAもM&A助言会社ですが、ご紹介をいただいた際、必ず「他のM&A助言会社も比較してください。完全に両者が納得できた場合のみ受託させていただきます。」というお答えをすることにしています。ターゲット企業のポテンシャルとM&A助言会社の能力には相性があるし、費用対効果の面で受託できないケースもあるからです。

失敗しないように、「M&Aに関する最低限の知識を頭に入れる」という努力を怠らないようにしましょう。

①M&Aに関する基礎知識の勉強

②人任せにせず自分で調べて声がけ

③納得したM&A助言会社と徹底的に準備

たったこれだけで、売却価格が世間相場と言われる価格の数倍になったり、ターゲット企業の将来が明るくなるかもしれません。