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売り手は「独立系」のM&A助言会社を選ぶべし

2019/5/31

M&Aのチーム管理

売り手は「独立系」のM&A助言会社を選ぶべし

当然のことなのに、ほとんど理解されていない事があります。

M&A助言会社が「独立性」を完全に確立できていることは、売り手にとって、とても重要であるという事です。

売り手(セルサイド)にとっての関心事は、①セルサイドの利益、②ターゲット企業(従業員等)の利益を確保することでしょう。M&A助言会社を効率的に儲けさせてあげることではないはずです。

M&A助言会社が安定的に儲けるための仕組みが、セルサイドの利益と一致しているならよいのですが、利益相反している場合には、最適なバイサイドに最適な条件で売却することができなくなるリスクが高まってしまいます。

セルサイドにとって理想なのは完全独立系M&A助言会社

どんなセルサイドも、セルサイドの利益を最優先してくれるM&A助言会社を選びたいはずです。

セルサイドよりも第三者の利益を優先されては、報酬を気分よく支払うことができません。M&A助言会社を交代するのは大変ですし、途中交代は様々なリスクを伴います。

ターゲット企業の企業価値最大化を実現する」つまり「ターゲット企業のポテンシャルを余すところなく使いきる」M&Aが最適M&Aです。

その結果が「最高の成果」として巡ってくるわけです。

この最適M&Aを実現するため、クライアントのために最善を尽くすのが、M&A助言会社の職責であり、報酬を頂戴していながら、第三者の利益を優先することは、あってはならないことのはずです。

しかし、このような重大な利害関係を調整してくれる法律はなく、金融庁の指導を受ける金融機関(銀行や証券会社)のみが、一定の制限(両手契約の禁止)がある程度なのが実態です。

セルサイドの多くが会社の代表者であり取締役ですから、「保護をしなくても自力で被害を最小化できる人」と扱われてしまいますが、実際にはM&Aに関しては初心者がほとんどです。しかも影響は深刻です。

セルサイドの場合は特に、ターゲット企業がユニークな強みを持っていればいるほど、M&A助言会社の仕事次第で、結果に大きな差が生まれます。

特に、ユニークな会社のセルサイドは(ご自身がM&Aに深い知見があるという自信がない限り)例外を除き、独立系M&A助言会社を選ぶべきです。

非独立系M&A助言会社は、売り手にとってどのようなリスクがあるのか?

ここで言う「独立」とは、世間一般で言われている「独立」よりも厳格な意味を持つべきです。単に、大企業の子会社ではないというだけでは足りません。クライアントであるセルサイドと重要な利益相反が生じてはまずいからです。

そのため、ここでは、「クライアント利益最優先の邪魔となる荷物を一切抱えていないM&A助言会社」のみを、本当の意味での「独立系M&A助言会社」と呼ぶことにします。

依存関係にある親密先アリ=非独立

M&A助言会社に親密先があり、案件紹介の依存度が高い等の事情があると、親密先に頭が上がらず、親密先のメリットを優先したくなる誘惑があることを想像できると思います。詳細後述。

外部資金調達アリ=非独立

M&A助言会社が外部資金を調達していると、投資家や借入先への支払原資を確保することを、セルサイドのメリットよりも優先せざるを得なくなりやすいことを想像できると思います。調達の形態が借入なのか株式なのか問わず、お金を調達してしまった以上、なんらかの負担も生じるはずで、短期支払能力の確保を重視されてしまうと、セルサイド利益最大化と衝突しやすくなると言えるでしょう。一定の時間や手間をかけなければ優れた分析や探索や交渉はできないからです。

上場している=非独立

M&A助言会社が上場していると、短期成約確保を優先する誘惑や社内外の圧力があることを想像できると思います。ターゲット企業の改善活動のための時間、バイサイドの都合が整うのを待つなど、セルサイドの利益最大化のための時間の使い方に付き合ってくれないかもしれません。もちろん、短期収益よりクライアント最優先の姿勢を維持できる上場M&A助言会社であれば問題はありません。ただし、株価を全然気にしない、短期圧力をかけない、M&A助言以外の収益源が成長している等の事情がなければ、表向きの営業トークに過ぎないかもしれません。また、ときに過剰なコンプライアンス対策を要するのが上場会社ですので、非生産性業務に多くの時間を奪われやすい点も難点の1つです。

金融庁傘下=非独立

銀行や証券会社は金融庁の監視監督を受ける立場です。そのため、クライアント最優先の立場を貫き、最高のパフォーマンスを発揮したくても、上場会社と同じく、クライアントの利益に無関係な金融庁対策等のために、非生産的な業務に時間を奪われやすい点が挙げられます。ごく一部の悪意ある役員・従業員が過去に起こした不祥事の再発を防止するためとはいえ、多くの金融機関の内部での業務は、クライアントを大事にするよりも、抜け道を探すことで手がふさがり、本末転倒な状況になっている金融機関も少なくないと思います。弊社もそうですが、クライアントのために気分よく働きたいという想いを持つM&Aバンカーが、金融機関内部の束縛から解放されるべく、起業独立するケースが増えているのも、こういう背景があるのかもしれません。

なぜM&A助言会社は荷物を抱えてしまうのか?

固定費負担軽減狙い

M&A案件は受託してから最短でも数か月、バイサイドの都合待ちでさらに数か月、独占禁止法対応の結果待ちなどでは年単位の時間が、成約までに時間がかかる場合もあります。その間も、家賃、人件費、情報機器等の固定費が毎月かかり、先行支出となりやすいのがM&A助言という事業の収支構造の特徴と言えます。クライアント重視の姿勢を貫くほどに「ビジネス」というより、「職人気質」となりますから、ますます先行支出の負担に耐える必要が生じます。

事業の成長加速狙い

本来的なM&A助言は品質と結果重視の「職人気質」であるべきです。しかし、M&Aマッチングに焦点をあてた効率と件数重視の「ビジネス」と捉えると、成長させたくなるのが自然です。そこで、事業を成長させるため、成約件数を増やす方向に舵を切るケースが多いと言えます。事業承継難で困っている高齢オーナー社長が多数いらっしゃいますから、多数案件を同時受注したリスト営業でも、成約だけなら数打てば当たります。ただし、件数主義で成長を狙うには、営業マン等の人数を増やさねばなりません。テレアポ、訪問にも人件費がかかります。このような先行投資のため資金調達するM&A助言会社もいるはずです。

事業の安定狙い

頻繁に買収を繰り返すようなバイサイドのお抱えバイサイドFAとなることができなければ、売却ニーズをいかに捉えるかがM&A助言会社の生命線となります。そこで、会社売却や事業承継等の相談を受ける事が多い事業体と親密な関係を築くことで、会社売却ニーズのあるオーナーを優先的に紹介してもらう「仕組み」が欲しくなります。このような場合、資本関係はなくても、案件紹介と紹介料というフローの相互依存関係が発生してしまいます。

親密先がセルサイドにとってプラスに働くケース

基本的に、独立性を完全に維持できているM&A助言会社の方が、セルサイドにとってスッキリします。

しかし、すべての親密先との関係が、セルサイドにとってマイナスに働くとは限りません。親密先があるから、難しい案件が成約できる場合もありえます。

親密先がプラスとなるケース

例えば、海外企業への売却を目指したい、その際、依頼したM&A助言会社が、海外M&Aアライアンスチームに加入していることは、プラスである可能性があります。ただし、この海外M&Aアライアンスチームが、セルサイドにとって有益な海外バイサイド企業を発掘できることを事前に確認できているのであれば、ですが。

また、銀行が親密先かつLBOレンダーであるがゆえに、例えば、親密先銀行を通じ紹介してもらった投資ファンドが、LBOローンをスムーズに活用できる可能性が高まります。但し、金融緩和の影響等で、数多くの銀行がLBOローンを真剣に検討してくれやすい状況であれば大きな価値はないこと、そもそもバイサイドを銀行に紹介してもらったM&A助言会社の役割は何なのか、報酬を払う必要があるのかなどの疑問が生じることを除けば、です。

M&A本番の丁度よい練習になる

M&A助言会社を雇う前に、M&A助言会社が個別に背負う荷物の有無と内容を確認し、それが、自分にとってマイナスに働くかどうかを検討しましょう。

ちなみに、このような「ある会社と親密先との関係が、自分にとって有利なのか不利なのか」の検討は、あとで必ず役立ちます。

M&Aの実戦の場に移りますと、M&Aでの最適バイサイドの選択、バイサイドとの組み方、契約内容の組み立て方などにおいて、まさにこのような「複数者間、複数要素の相互関連の結果として生じる影響の総合評価」というややこしい判断をテキパキと処理していく必要が生じるからです。

せっかくの機会ですから、M&A助言会社選びの段階で、一度練習しておきましょう。

本当の独立系M&A助言会社

  • 極端に深い依存関係なし
  • 上下関係を生じさせる外部資本なし
  • 非上場

この3点セットで「クライアントのために最善を尽くす邪魔」を排除できている、と言えるわけです。

ただし、M&A助言会社が独立性を保ち、クライアント最優先の邪魔をする荷物を排除していても、「肝心の担当者の信念や欲望」等も仕事に影響しますから、これは、直接、担当者と面談する中で、見極めていただくしかないと思います。

両手契約利益相反によりセルサイドが被害を受ける可能性がありますから、ご自身が完全に利益相反状況をコントロールできる自信がない場合には、できるだけ避けておくべきです。

利益相反関係がないM&A助言会社であることが確認できたうえで、M&A助言会社候補各社が、ターゲット企業のポテンシャルを使い切るM&Aを実現するために必要な能力を充足しているかどうかを確認しましょう。

  • ターゲット企業の事業・財務・計画の深い理解する能力
  • 最適バイサイドを開拓・探索・紹介できる能力
  • コーポレート・ファイナンスの理論と実践に裏打ちされたM&Aバリュエーション能力
  • ターゲット企業に関する多方面の問題点を発見・改善策を検討するDD能力
  • バイサイドとの建設的なコミュニケーション力
  • バイサイドとのハードな交渉力
  • セルサイドの利益最大化に資するストラクチャリング・ドキュメンテーション等の能力

あたりが重要な評価ポイントでしょう。