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M&Aによる会社売却の失敗パターン:「過去」を売るのだと勘違いすると失敗する

2018/2/9

M&Aのマーケティング

M&Aによる会社売却の失敗パターン:「過去」を売るのだと勘違いすると失敗する

過去実績は参考値に過ぎない

M&Aによる会社売却価格が、「貸借対照表上の純資産や損益計算書上の直近3期の利益を基礎として計算するものである」というのは大きな誤解です。

なぜなら、「純資産」は「過去」のものであるとともに会社の価値には本来無関係、「直近3期の利益」は、会社の価値を評価するための「将来キャッシュフロー」が妥当かどうかの「検証材料」に過ぎません。本来、高く売れる会社を少しでも安く買いたい人が好んで使うのが純資産ベースの評価額なのですが、逆に言えば、売上や利益の見通しがガタガタの会社は、純資産ベースの価格でも買ってくれないはずです。またその逆に、純資産が小さくても、将来性が大いにある等の会社としての価値の源泉が見込めるのであれば、純資産なんて気にせずに、将来可能性を反映した高い価格で買収してもらって全く問題ないに決まっています。

M&Aに限らず株式価値は、発行会社の将来の業績への「期待」と「不確実性」によって評価されます。また、バイサイドは少しでも良い会社の経営権を、少しでも安い価格で取得したいと考えるのは当然のことです。「期待」は将来の業績予想とも言い換えられますが、「不確実性」が伴うわけですから、バイサイドに少しでも高い価格で会社経営権を売却したいセルサイド(売り手)としては、その「不確実性」を軽減する効果のある「根拠」が必要となります。その「根拠」として最も証明力の強い部類に入るもの、それが「過去実績」なわけですね。

過去実績は良くても将来の「期待」が小さければ、安い価格でしか評価してもらえないのですから、将来の「期待」が大きな潜在能力のある良い会社の経営権を、過去実績をベースとした安い価格で売ってしまうのはもったいないですよね。将来の「期待」が大きいのであれば、できるだけ証明力の高い「根拠」とともに、将来の大きな「期待」を基礎として評価してもらうべきでしょう。

このように、過去実績は極めて重要な価格決定の要素の1つではありますが、将来の実績がどうなるかを証明するための手段の1つ(検証材料)に過ぎないという点をしっかりと理解してください。純資産や過去の営業利益は参考情報に過ぎないのです。

将来の可能性で会社売却額を評価してもらう方法

しかし、将来の期待とはどのように示せばよいのでしょうか?

ココが非常に難しいので、簡便さを重視すると、過去実績をそのまま使うという羽目になってしまうのでしょう。この点、投資銀行や独立系M&Aブティックハウスで働いているM&Aバンカーと呼ばれるM&Aのプロは、将来期待こそが売る商品ととらえ、過去実績自体は商品の性能の検証材料としてのみ使用します。バイサイドに売るものは、将来の「期待」であり、その「期待」の確度を証明するために使う検証材料として、過去実績を使うのです。

また、将来の「期待」である将来の業績を予想するためには、過去実績だけではまったく足りませんよね?

「過去実績の10%増しで成長すると思います。以上。」
これではただの数字です。

売上は、顧客商品・サービスに対してお金を払ってくれたものですから、顧客の商品・サービスに対する需要の動きを、それらに影響を与える要素ごとの変化とともに、その変化に対応した施策内容とともに説明することが必要です。また、費用は売上とも相互関連するものもありますし、外部要因で独立的に動くこともありますから、今後の費用はどのように動くのかについて、環境変化や戦略と一緒に説明することも必要です。さらには業績はPL関連だけではありません。キャッシュを増減させる要素はPLの外にも存在しますから、固定資産への投資財務的な資金調達・返済の動きなども巡る環境や戦略と一緒に説明することが必要です。

上記のようなものを何と呼ぶでしょう?

そう、「事業計画」ですね。

だから、上場会社は、株式価値の動きを予想したい投資家向けに、有価証券報告書だけではなく、決算短信で今期見通しを記載したり、IRの一環として中期事業計画を開示したりするのです。事業計画を開示する理由は、「投資家に株を買ってもらうため」です。つまり、「株価を高く評価してもらうため」です。

事業計画が納得感のあるものであれば、それが将来の「期待」の具体的な「根拠」となりえます。つまり、「期待」を株価に反映してもらいやすくなるということになります。「信じる人に売ればよい。信じない人は相手にしなければよい」という言い方も可能です。

事業計画も準備していないのに、将来の期待を反映した高い価格での会社売却ができると思うのは楽観的過ぎると思います。

なぜなら、『バイサイドは少しでもよい会社を少しでも安い価格で取得したい』からです。これを非難するのはお門違いです。買う人は誰しも「良いものをより安く」ですから。売る人は誰しも「少しでも高く売りたい」はずですが、そのためには「良いものです」と証明する努力が欠かせません。良いものにしておく(事前の欠陥の治癒業績改善)か、良いものにできる具体的方法(M&A後の改善施策)を準備することが不可欠なのです。

オーナー社長の自己満足事業計画と、M&Aで評価されやすい第三者からも好評価される事業計画で、内容と効果が大きく異なるケースがある点も重要です。

事業計画を練る際に、評価されにくいものにしてしまうと台無しです。事業計画を練る際、随所に「M&A的に評価してもらえる視点」を絡めて練り尽くすことがとても大事なのです。

M&A的にどうか?」という視点とともに会社売却の準備に入っていただくと、M&Aでの大成功が近づくと思います。