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会社を生かす売り方のヒント:M&A買い手企業は4種類に分類できる

2019/4/5

M&A会社売却時の心構え

会社を生かす売り方のヒント:M&A買い手企業は4種類に分類できる

今回は、まず『バイサイド(買い手)がM&A(会社買収)を実施するのはなぜなのか?』を再確認し、

次に『買収価格が決定づけられるバイサイドのケイパビリティ(Capability)4パターン』について整理、

最後に『では、セルサイド(売り手)は、どうすれば理想的な会社売却ができるのか?』について考えてみたいと思います。

なぜ買収という手段を選ぶのか?

EBITDA(減価償却前営業利益) = 2億円 の会社を、7.5倍の15億円の事業価値として評価するバイサイドがいるとします。

自分でイチからこの事業を始めて、1~2年でEBITDA 2億円に到達させられるなら、当初資本金5,000万円の負担で済む。しかし自分でやると『失敗リスクが高い』ので、14.5億円を『確実性の代金』として払って買収をすべきだ。

これがM&Aバイサイドの鉄板思考回路です。

このようなMake or Buy ?(自力か買収か?)というテーマを、バイサイドはM&Aの都度必ず検討します。

ゼロから始めて既存勢力と競争しながら、時間経過・環境変化による追加対策等も必要となると、いかに能力の高い経営者でも、失敗する可能性はそれなりの高さになってしまいますし、現業から力を割くため現業失速リスクも生じかねません。

しかし、すでにある程度出来上がっているターゲット企業(売り手企業)を買収すれば、このリスクは消去できます。だからターゲット企業の事業を「欲しい」と思うバイサイドは、自力構築よりもM&A買収を優先させるわけです。

当然のことながら、バイサイドにとっても「自らのより大きなハッピー」が根源ニーズです。買収すること自体が目的になっているバイサイドはこの世に存在しません。

手間をかけ、リスクを負担し、事業を拡大させるのも、M&Aをするのも、根源は同じです。

買収後の企業価値増加額 – 手間・リスク = バイサイドのハッピー  > バイサイドの満足基準

この場合にだけ、バイサイドは買収をしてくれるということです。

買収をするなら、バイサイドが買収した後の企業価値と、買収する前の企業価値(買収対価)を比較して、前者がより大きくなって、「自分がよりハッピー」になれなければ意味がありません。

そのための手間やリスクが大きすぎると、自分がアンハッピーになる可能性が高まります。

だからといって、「安い価格で買収できるときだけ買収する」というバイサイドに大事な会社を売却してしまうと、セルサイドのハッピーが小さくなってしまいます。

セルサイドにとって大問題です。

ここで極めて重要なのが、『企業価値は一定ではない』ということです。

よくある「純資産を基準として株式価値が決まる」かのような主張は、事業の価値が一定であることを前提としており、同じ純資産・利益の上場会社の株式時価総額に幅があることを説明できない非合理的なロジックです。

新たなオーナー、経営者の能力(ケイパビリティ)次第で、大きくもなるし、小さくもなるものが事業という生き物です。

ここが不動産等の他の資産と、経営権が含まれる過半数株式という資産の決定的な違いであり、「M&Aによる会社売却の対価が、やり方1つで大きく変わってくるメカニズム」となります。

セルサイドも「よりハッピーになる権利」を当然持っていますから、堂々と「会社を高く売るための努力」をしてください。ただし、高値掴みをさせる努力ではなく、事業の本質的な価値を高める努力に集中すべきです。

それがもっとも社会貢献を大きくし、結果として、バイサイドも、従業員もみんながハッピーになる近道ですので。

バイサイドのケイパビリティ3パターンとは?

①トップライン伸長支援型

事業価値を高めるための一番わかりやすい手段は、トップライン(=売上)を伸ばすという方法です。費用やCAPEXが同じなら、売上が伸びれば伸びるほど事業価値は高まります。
ある特定のターゲット企業の売上を伸ばす能力(ケイパビリティ)を持っているバイサイドは、グロース支援型成長支援型と分類できます。
例えば、ある商材を扱うターゲット企業の場合、今までリーチできなかった顧客層をしっかりグリップしているバイサイドが該当しますし、マーケティングに関する能力に優れていて、より費用対効果高い集客を実現できるバイサイドも該当します。
事業会社だけではなく、グロース支援を得意技としている投資ファンドも存在します。

②ボトムライン拡大支援型

事業価値は、ボトムラインとその持続性で大半が決まってしまうと言っても過言ではありません。

売上が一定でこれ以上伸びないとしても、費用やCAPEXを削減して(効率化)、収益性を高めることが可能なターゲット企業の場合には、企業価値を高めるという目標を壊さない範囲で、コスト削減等を実施すると、付加価値を生まない外部支出が減り、結果として社会全体が潤うことになりますから、企業価値は当然高まります。
このケイパビリティを持つバイサイドは、リストラクチャリング型収益性向上支援型と分類できます。
このケイパビリティは、事業会社でも、投資ファンドでも、多く存在します。もったいないので、売却前に費用の削減を実施するなり、最低でも何をどれだけ減らせるかを検討しておくべきでしょう。

この点、非常に誤解が多いので、補足させていただきます。
「M&A」「費用削減」という2つのキーワードを聞いた途端に「ハゲタカ」「マネーゲーム」という連想をされる方がいらっしゃいます。

これは一部に存在していた極端な手法を用いる再生系投資ファンドを偏向的に報道したマスメディアにも原因があるのでしょうが、典型的な過剰な人員削減や重要な経営資源の売却をすると、結局、企業価値が下がりますので、賢明なバイサイドを選び、適正価格で売却するならば、必要以上に警戒することは合理的ではありません。バイサイドは自分で自分の首は絞めないのです。

費用削減は企業価値向上の手段にすぎず、企業価値は長期的な将来のキャッシュフローに基づいて評価されますから、企業価値向上に資する費用削減は、基本的に社会貢献を大きくする善行であると整理していただく方が健全な理解であると思います。
「1人残らず可愛い従業員を一生ターゲット企業で養っていきたい」という願望をお持ちのオーナー社長もいらっしゃるでしょうが、これからの日本では「生涯雇用」、「年功序列」といった「高度経済成長を前提とした雇用形態」「技術革新のスピードが緩やかで社内教育でキャッチアップ可能という前提」は持続が困難です。むしろ、才覚ある従業員には成長機会を提供するためにより挑戦しがいのある現場をM&Aで提供すること、これからターゲット企業で貢献できそうもない従業員に新天地で自分の得意技を活用する機会を提供する方がより大きなハッピーがもたらされる時代が到来していると考えるべきではないでしょうか?
弊社が会社売却前の費用削減の支援をさせていただいたある会社さんでも、「うちは無駄な費用は一切使っていない」とオーナー社長から当初説明いただいていたのですが、つぶさに分析をしてみると、技術革新前の環境を前提として設定した費用を、ずっと同じように使い続けていたため、改善することで営業利益率が実に5%も向上したというケースがあります。ご本人は自覚がありませんでしたが、理想と比較すると過去数年で数億円も無駄遣いをしたのと同じ状況ということです。特にオーナー系中小企業でよく確認できる事態です。

③複合型

トップライン伸長ボトムライン拡大を一緒に実現できる複合型がもっとも望ましいバイサイドと言えるでしょう。
外部と内部の両方について改善活動を実施するので、かなりの手間と時間とコストがかかります。また、買収した後にやることが多く、失敗リスクが高いとなると、その分はディスカウントされてしまいます。そのため、複合型バイサイドに、少ない改善施策で潜在価値の実現が可能、という状態が、理想的な売却直前のターゲット企業の姿となります。
ただし、残念ながら、このケイパビリティを持っているバイサイドは、数は多くないですし、納得してもらうためには十分な情報開示と説明力が必要になると思っていた方がよいでしょう。

④現状維持型

上記の理想的なバイサイド3パターンは、実は、どちらかというと例外的な存在なのが現実です。
なぜなら、M&Aで買収できるほどの資金力を持つ企業は大企業であり、苦労して買収を成功させても褒められず、失敗すると出世の道が絶たれる立場にあるサラリーマンが意思決定を行うことが多いからです。

完全なフラット型組織に移行できている(極めて稀な)大企業を除けば、ほぼすべての大企業は組織管理上、ピラミッド型の組織構造を採用せざるをえません。この「ピラミッド型組織構造の中で、定年退職をどう迎えるのか」がサラリーマンの最大の関心事となるのは仕方のないことです。
この場合、「買収しても無理はせず、今まで通りに経営を継続しても、まず失敗しない」が一番心地よい買収案件となります。

当然のことながら、このタイプの場合、買収後にケイパビリティを発揮してくれない以上、ターゲット企業が成長し、社会貢献が高まり、全員がハッピーになるというM&Aの最終目的は実現されにくいですし、会社売却の条件もターゲット企業の潜在価値がまったく反映されない評価(純資産に数年分の営業利益を加算した金額等)となってしまいがちです。

「どうしても会社を急いで売らないといけない方」、「条件が悪くてもよいから会社を売らないといけない方」の場合には、この現状維持型が唯一の選択肢になると覚悟しておくべきかもしれませんが、ターゲット企業の状況次第で、一定の準備さえすれば、上記の3タイプのいずれかに売却する道が開け、好条件で売却できる可能性は広がります。

では、セルサイドはどういう作戦でいくべきか?

まずは、「冷静に、かつ、客観的に、ご自分の会社がどのような会社と評価される状況にあるのか」を第三者視線で評価してみてください。
多くのオーナー社長はご自分の会社を子供のように愛しているでしょうが、M&Aでは外部第三者がどのように評価するかで決まりますので、できるだけ「客観性を持った評価」を得ることが最初の一歩です。現状認識にズレがあると、課題の設定で失敗し、解決策も講じることができません。

次に、「何をどうすれば潜在的な価値が実現するのか」を検討しましょう。
その改善策を、「A: 会社売却前に自力でできること」、「B: 自力でできるけど時間やコストがかかって自分ではやりたくないこと」、「C: 自力ではできないこと」に峻別します。Aについてはご自身の会社売却の目的(時期、条件等)を考慮して、できることは全て会社売却前に実施しておくべきです。Bのように時間がかかるものはバイサイドに任せてもよいでしょうが、処方箋を整理しておくことは非常に重要です。相手の立場に立てばガンガン交渉したくなるポイントですから情報開示のクオリティが非常に重要になります、BやCについては、バイサイド候補の選択肢を検討する際の重要要素となります。当然「俺ならそれを絶対できる」という自信のある人に売るべきなのは当然です。

最後に、「会社売却の現実的な目標」をハッキリ決めてください。
ちなみに「価格等の条件ありき」は、「目標」ではなく「願望」です。「現状分析」、「課題発見」を経て、現実的な「解決策」(=「売却相手の選定」と、売却相手に見せる「事業戦略等の開示情報」)が固まり、その後でようやく現実的な解決策から合理的に導かれる「理想的な条件」が決まるということです。

後は「実行あるのみ」となります。

弊社SCAは事業会社の創業経験を有し、大手会計コンサルティング流の分析と改善支援+投資銀行流のM&A助言で、上記プロセスを全面支援することが可能です。