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M&A会社売却:独自性や雇用を保つなら、誰に引き継いでもらうべきか?

2019/8/18

M&Aのマーケティング

M&A会社売却:独自性や雇用を保つなら、誰に引き継いでもらうべきか?

とくにユニークな会社を築かれたオーナーさんは、このように考えられるのが典型的なようです。

今までライバルと考えていた同業(=競合企業)に、自分の作った仕組みをいじられたくない

様々な工夫を施し、リスクを負って切り開いてきた会社の独自性を今後も保ちたい

自分が育てた役員・従業員・取引先を、ライバル企業のやり方に無理やり合わせさせたり、不要と切り捨てさせたりしたくない

このような観点から、どのような相手に会社を売却するべきかを検討してみましょう。

ところで、株式を売却し経営権を引き継いでもらう、これがM&Aの基本パターンの1つです。

M&Aの世界では、経営権を譲渡する相手の事を、バイヤー(Buyer:買い手)と総称します。

バイヤーは、まず、大きく2種類に分類されます。

ストラテジックバイヤーフィナンシャルバイヤーです。これらの中間的なバイヤーもいます。

M&A会社売却での最重要要素の1つが、相手選びです。

ストラテジック・バイヤー(Strategic Buyer)

同業

ストラテジック・バイヤーの代表格が、同業です。

簡単に言えば、今までの競争相手に経営権を引き継いでもらうということです。

対象会社の事業の性質的に、同業以外にもバイヤーが見つかるケース、一方で同業以外にバイヤーが見つからないケースがあります。

同業に売るケースの良い点は、何よりも、事業内容等を深く伝える必要がない点です。詳細な開示情報を事前に準備しなくても済むケースが多く、短時間で打診を開始しやすい点が、せっかちなオーナー様にとっては朗報でしょう。

そのため、初心者のM&Aアドバイザーでも、バイヤー主導で話が進めてもらえるため、とにかく案件を成立させることを目的とするならば、もっとも確実性が高いのが同業と言えるでしょう。

また、同業の場合、経営者が早めに引退したいなら最適な相手になりやすい点も挙げられます。事業内容を熟知しているので、事業承継の相手が内部にいなくても、比較的容易に引き継いでもらえる期待があります。

一方で気を付けておきたい点としては、同業バイヤーは、完結した事業体であり、重複機能を必要としない点です。つまり、営業、総務、経理、法務など、同業バイヤーにもその機能が元々存在していて、キャパシティに余裕があるならば、買収した後でコストシナジーを追求(=人員削減)されるリスクが高い点です。

いずれにしても、同業以外にもバイヤー候補を広げるつもりがあるならば(特にユニークな会社を売る場合は必須)、同業以外にも真剣に検討してもらいやすくするための準備はしておいた方が無難です。

関連業界(水平・垂直・周辺)

同業とまでは言えないまでも、同じ市場において、上流工程、下流工程の会社に売却する場合を、それぞれ、水平統合垂直統合と呼びます。

また、隣接市場で似たような機能を提供している企業に売却するケースなどは周辺企業への売却と整理できるでしょう。

あまりにも省力的な情報開示の準備をしてしまうと、よくあるのが、アピールポイントが伝え漏れてしまうという決定的ミス、リスクを過大評価されてしまうという決定的ミスです。

大半のオーナー社長は、長年、自分の会社を1つの世界として扱ってきているので仕方のないことですが、少ない情報だけでは、他人の会社の内情について、驚くほど、正確に理解することができないものです。「よくわからない。」が導くのは、「よくわからないからやめておこう。」や「リスクが高そうだから十分に安い場合だけ検討しよう。」です。

異業種

異業種への売却は、色々な背景がありえますが、販売、商品、人材、固定資産、ノウハウなど、なんらかのシナジーの源泉があるケース、または、第一の柱の事業の寿命の到来が見えていて、キャッシュがあるうちに第二・第三の柱を作っておこうといったケース等が考えられます。

異業種は、同業や関連業界への売却と比較して、対象会社(売り手企業)を独立した存在として扱ってくれる点で、会社の独自性が守られやすく、全員の雇用が守られやすいと言えるでしょう。

難点は、後任経営者がバイヤーの内部にはいない可能性が高いので、現社長が経営継続するか、社内で後継者を育成していないと、経営者問題で成立できない場合が多いでしょう。

フィナンシャル・バイヤー(Financial Buyer)

一般的なPEファンド

企業の経営権を獲得する、つまり、過半数の議決権を取得することを目的とする投資ファンドは、プライベート・エクイティ・ファンド(未公開株式投資ファンド)と呼ばれます。

PEファンドは年金資金(生保や信託銀行が企業等から預かる運用資産)や地銀等の余剰運用資金(貸付や証券投資等に回っていない余剰資金)を集めて、これを年15%から20%で運用することを目的とした運用ファンドの一種と言えます。

PEファンドは、未公開株式の過半数の議決権を握って、なんらかの経営改善策を講じ(ハンズオン投資)、3-7年後にEXIT(売却)して、運用益を計上することを主たる目的としています。

PEファンドは、少し前まで質的な差異が小さく、規模感によってすみ分けされていた程度でしたが、昨今、資金調達も容易になり、投資ファンドが投資して成功するケースも多発してきて、PEファンドも乱立する中、良い意味での競争が発生しているのが今の時代です。

つまり、PEファンドの中には「LBOローンを使って投資金額を引き下げて、事業キャッシュフローでLBOローンを返済し、EXIT時点の企業価値はほぼ一定、でも株式価値は倍増」という伝統的なLBOゲーム型と呼べるような投資だけのPEファンドは減ってきており、しっかりとした特技を磨き、差別化をしているPEファンドが着実に増えています。

それまでは、LBOローンは最小融資額が10億円、LTV(ローントゥバリュー:ローン額/企業価値)が50%とすると、企業価値20億円のサイズがないと、PEファンドは投資してくれなかった時代だったのです。そうなると、EBITDA倍率で6-8倍程度とすると、最低でもEBITDA(償却前営業利益)が2.5億円以上ないと、PEファンドが相手してくれなかったわけです。

しかし、最近はなんらかの確度の高い投資回収が見込めるストーリーがあれば、投資してくれるケースが増えています(簡単ではありませんが)。

得意業種、改善手法、成長手法、EXIT方法など、とPEファンドを売り手が選べる時代が到来したと言えるでしょう。

PEファンドの良い点の1つは、適正評価(フェアバリュー)で買ってくれる可能性が高い点です。ちなみに、純資産ベース価格は、お得意先の事業会社(特に上場事業会社)のために、日本独特の両手タイプのM&A仲介会社が考え出した評価手法です。のれん償却を考慮しても、連結会計インパクトがマイナスにならず、シナジーはすべて買い手のもの、という100%買い手都合の評価手法です。一方、PEファンドは「まず投資しないと売上がゼロのまま、合理的な利回りが期待できるなら、その範囲で評価してくれる」ということです。人生の中で最も重要な決断の1つでしょうから、食わず嫌いはやめましょう

対象会社の状況、オーナー様のニーズ次第で、最適な相手はガラリと変わってくるのがM&Aです

中間的なバイヤー

変種のPEファンド

昨今、PEファンドの中から、さまざまな工夫を施したPEファンドが生まれてきています。

マスコミが流す「なんとなく、昔のハゲタカファンドと一緒にして、ファンドを悪者にしておけば良い」という偏向的報道によって、PEファンドへのネガティブイメージがいまだに定着しています。

テキスト(文章)で情報を流すタイプの新聞等は、紙面に限界があり、文字は上から下に流すしかないため、極めて単純な伝達手法である「善玉悪玉論(二元論)」で記事を構成したがりますから、このときに、「M&Aは悪者」「ファンドは悪者」と紹介すると、新聞等にとって都合がよいと理解しておけばよいと思います。

ところで、PEファンドは、「転売することが基本になっていて、これが許せないし耐えられない。」というオーナー様が相当割合でいらっしゃいます。

変種のPEファンドの中には、「転売せず保有し続けるPEファンド」、「上場をサポートするPEファンド」など、必ずしも、どこかの誰かに転売されるわけではないPEファンドも登場しています。

PEファンドに対するネガティブイメージを払拭すべく、志の高いファンドマネージャーさんが創意工夫して、従来型PEファンドに対するマイナス面を取り除く工夫をしています。

事業会社の子会社であるPEファンド

PEファンドの多くは、独立系金融系または商社系ですが、なかには事業会社系PEファンドが存在します。

つまり、親会社の能力によって、対象会社が成長、改善できる可能性があるケースがあります。

独立系と金融系は、内部のマネージャーさんたちの人脈如何で、商社系は海外進出や取引拡大等で、事業会社系はより直接的に成長させることができる場合があるわけです。

PEファンドの投資先であるストラテジックバイヤー

PEファンドは、金融の人たちだから、自分たちの事業に対する思いを理解してくれず、短期的な利益とかキャッシュフローを追求されるのではないか?」というネガティブなイメージも定着しています。

しかし、PEファンドも、年金や銀行等から資金を集め、多額の投資をした以上、よくある誤解である「人を切って利益を出す」といった安易な短期利益増大手法を採用するPEファンドは減っています

なぜなら、今の人手不足時代においては転職も容易であり、いらない人をバンバン切ってしまうと、社内を不安が覆って疑心暗鬼が生まれ、必要不可欠な人材までが流出してしまう(優秀な人から流出する傾向)ことが、頭の良いPEファンドのマネージャーさんたちはとっくに気づいているからです。

PEファンドは、たくさんの業種に対し投資をしていて、追加的な買収(ロールアップ)によって投資先の企業価値を高め、EXITを果たすケースも増えてきています。

しかも、必ずしも同業同士の追加買収ではなく、具体的なシナジーさえ見込めれば、広範囲の業種でも真剣に検討してくれやすいのも、PEファンドならではです。

事業会社ですと、合理性だけでは交渉が進みにくい面があります。つまり、事業会社の場合、自分の得意分野の外を検討してくれるケースは少なく、異業種M&Aは検討できる先が非常に限定されてしまいます。

これは、事業会社の経営者が保守と革新のいずれを向いているかで変わってきます。しかし、失われた20年の間に、挑戦よりも保身を重視し、余剰キャッシュは将来の備えとして使わずに銀行預金に預けておくという流れが定着しており、この流れが変わるには長い時間がかかる可能性があります(もちろん、一部には、今後の環境変化を見据え、リスクを取らない方がリスクであるという思想を持ち、適切な投資機会と評価できたら、果敢にリスクを取るタイプの経営者も少数派かもしれませんが実際に存在し、そういった経営者は、M&Aも重要な成長手段の1つとして、常に優良案件を探しているものです。)

誰に売るかを検討したら、誰にそれを実現してもらうか

バイヤーの種類はさまざまで相手選びは千差万別です。

さらに、スキームシナジー改善施策成長施策などを考慮し尽くした、提案内容についても、千差万別なのがM&Aの醍醐味です。

もし、ユニークな会社を売却しようとしていて、多くの選択肢が見込めるのであれば、次のうちの後者のタイプのM&A助言会社に依頼すべきです。

1:効率重視の件数主義M&A助言会社

事前準備は少なく、受託直後から数多くの買い手候補、とくに対象会社(売り手企業)についての説明が省略できる同業を中心に打診を重ね、運よく関心を引き出せた買い手の主導で交渉をします。多くが両手タイプなので、多少結果が悪くても2倍の助言手数料が入ってくるため、効率重視がM&A助言会社の経営上の正解となります。ユニークな強みを持つ会社を売却する際にはオススメできません。逆に、全国のどこかに買い手がいるかもしれない零細企業・中小企業を売却するには、このタイプの方が早く結果を出せるメリットがあります。

2:結果重視の品質主義M&A助言会社

事前準備を入念に、あらゆる選択肢の中から、もっともオーナー様の思いを実現できそうな選択肢を絞り込み、その実現のためにあらゆる工夫を重ね、狙い打ちで、売り手主導の交渉をします。このタイプは、伝統的な投資銀行タイプのM&A助言をしてくれますが、着手金が発生したり、一定以上の規模がないと受託してくれない場合があります。しかし、ユニークな強みを持ち、一定の規模(現在、将来の期待)があれば、このタイプに任せる方がより好ましい結果を獲得できる可能性が高まるでしょう。