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社長がいないと売れない会社、社長がいなくても売れる会社

2022/2/25

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社長がいないと売れない会社、社長がいなくても売れる会社

環境変化の激しい現在、事業におけるリーダーの重要性はますます高まっています。舵取り一つで会社の浮き沈みが切り替わってしまうからです。

また、多くのケースでオーナー社長は対象会社株式の大半を保有しています。M&Aをすれば、株、つまり、対象会社を自由に経営できる権利が、多額のキャッシュに変わります。

さらに、多くの創業オーナー社長は、自分の経営能力にプライドを持っていて、他人から箸の上げ下げまで指示を出され、それに従って失敗したり、責任を取りたくない、と思っています。

もしくは、会社を売却する動機が、自分の健康や年齢の問題が、経営の継続を困難にしていて、社内に適切な後継者がいないから、かもしれません。

つまり、多くのオーナー社長は、会社を売ったら当然引退するものと考え、「会社売却後、引継ぎが済んだら速やかに引退を希望」となるのです。

とはいえ、仮にM&Aで会社を引き継いだ買い手が対象会社と同業であっても、別の会社である以上企業文化から戦略戦術まであちこち異なり、異業種であれば経営ノウハウが存在しないため、現社長に当面の間、続投いただきたいと思っているケースは多いものです。

結果として、会社を譲り受ける買い手の最大の悩みの一つが「対象会社の後継社長をどうするか」となるわけです。
優れた現社長がモチベーション高く続投してくれれば、会社を高く売るハードルが低くなるのは事実です。しかし、本当にそうでしょうか?社長がいなくても高く売れるケースは存在しないのでしょうか?

ある条件に当てはまる場合、適切なM&A戦略を打ち立て、しっかり実行すれば、社長がすぐ引退する場合でも高く売れます。もちろん、高く売れるというのは、純資産ベースに3年分の営業利益を加算した価格ではなく、純資産ベースの価格よりも圧倒的に高い価格という意味です。

ある条件とは

  • 現社長を引き継げる条件を明確に提示できるようにする
  • 現社長の一部だけでも最終責任者の心構えで担当できる経営幹部を準備しておく
  • 社長がいなくても概ね問題なく経営が回る状態(仕組み化&IT化&マニュアル整備等)にしてから売る


です。少なくともいずれかに該当すればチャンスがあります。

適切なM&A戦略とは

  • 同業・頻繁に買収する買い手(一般に安値狙い)中心のばら撒き型の浅薄な打診でなく、投資ファンド、異業種や一度も買収したことのない優良企業にも目を向けて丁寧に探索・提案・交渉する
  • 100%株式譲渡以外のM&Aスキームを駆使して、最大効率・リスク回避を実現する(要M&A専門家)
  • 大企業を売る場合と比較して遜色ない情報開示によって、対象会社の強みや弱み対策等の「見える化」を徹底する

です。

社長がいないと売れない会社(売れにくい会社)

  • 社長が商品そのもの(社長が変わればジ・エンド)
  • 社長がいないと販路が消滅(社長が変わればジ・エンド)
  • 社長が司令塔だから組織が機能(社長が変わればジ・エンド)

会社を因数分解すると、商品(プロダクト)・販路(セールス)・管理(マネジメント)という重要因子に分解できますが、これら重要因子を社長個人が担っている場合、買い手は非常に心配します。

  • 社長が会社の株を売って引退したら、会社の価値がなくなるのではないか
  • 社長が会社の株を売って大金を手にしたら、やる気がなくなるのではないか

という心配です。

最低でもしっかり引継ぎをしたり、残務処理をしてもらわねばならないのに、それが期待できないなら、怖くて会社は買えない、買えてもバーゲン価格でないと買えない、となってしまいます。

つまり、こういう会社には見えないように準備しておかないといけないということです。

社長がいなくても高く売れる条件

現社長を引き継げる条件を明確に提示できるようにする

社長の役割は会社ごとに千差万別です。

なかには、成長・改善・運営の仕組み化が完了していて、部下に最低限の指示を時々出すだけで半自動的に成長していく会社もあります。

なかには、社長が成長・改善・運営の重要な役割を担っている会社もあります。こういう会社は中堅・中小ならノーマルと言えるでしょう。その方が社長としても安心だったりします。

それぞれの会社ごとに、後継社長の条件は大きく異なりますが、買い手の立場に立って考えてみれば、「社長が不在でよい会社」なんてあるはずない、と思わてしまいがちですので、後継社長の条件が少なく、ハードルが低いものばかりであったとしても、逆に、条件が多く、ハードルが高いものであればさらに、後継社長を社内外から選別する条件が何なのかを整理しておくことは重要です。

社長の仕事の棚卸と整理をしておかねば、買い手の心配は解消されず、心配が続く前提での売却条件となってしまうでしょう。

棚卸と整理をしておけば、
①現状でも対策できること
②M&A交渉中またはM&A後に買い手に解決を任すべきこと
に峻別することができるようになります。


現社長の一部だけでも最終責任者の心構えで担当できる経営幹部を準備しておく

棚卸と整理の結果、意外なほど、社内にいる経営幹部や幹部候補生の中に、社長の仕事の一部だけでも実行する能力がある人がいることは少なくありません。

そういう人を次期経営者候補として育成しておくと、M&A交渉においてプラスとなります。

問題は、サラリーマンとリスクを背負うオーナー社長では、仕事に対する姿勢が通常全く違う点です。

ある程度の時間がかかるのが通常ですが、それに見合うだけのリターンが見込める準備作業ですので、しっかりと準備してからM&A売却活動を開始すべきでしょう。

全ての仕事を数名の次期経営者候補に完全に分担させることができなくても、残ったピースだけ買い手に任せればよいので、買い手の心配はかなり減少されるはずです。弊社はこういった支援もご提供しますが、思いのほか次期後継者候補はやる気になってくれるものです。ただし、事前の伝え方は慎重に。

社長がいなくても概ね問題なく経営が回る状態(仕組み化&IT化)にしてから売る

問題は、組織のスリム化が進み過ぎていて社内に次期経営者候補が存在しない場合です。

こういうスリムな組織体制の会社もテクノロジーの進歩とともに増えています。

厳しい解雇規制、賃金アップの圧力、不要不急な雇用ではなくIT技術やアウトソースで回せばよい、という考え方に基づくものでしょう。経営者としては当然の判断だと言えるでしょう。

テクノロジーを活用すれば、事業の仕組み化のかなりの部分を半自動化できる部分は見つかるものです。同じ仕事なのに、かたや3人で1ヵ月かけていて、かたや1人で1日で完了、といった業務のDXは会社毎にレベルが大きく異なります。今はIT技術もお金をかけなくてもできることは増えてますので、過去の常識にとらわれずに分析してみると大きな発見があるかもしれません。

どのような会社であったとしても、人的資源への過度の依存を排除しておく準備はしておいた方がよいわけです。今の会社に不要不急な人的資源は買い手にとっても不要不急かもしれません。首切り等のいやな仕事は買い手に任せたい気持ちも痛いほどわかりますが、いやな仕事を請負う立場に立ってみれば、いやな分だけご褒美(価格のディスカウント)がほしくなるのが人情ではないでしょうか。

社長の仕事の棚卸の延長線上には、部下による重要業務の棚卸がありますので、一緒に棚卸をして、重要業務の半自動化の余地を探し、積年の非効率の根源を断ち切ってから会社を売ると望外の評価に結びつくはずです。

社長がいなくても高く売るためのM&A戦略

同業中心・頻繁に買収する買い手(一般に安値狙い)へのばら撒き提案でなく、投資ファンド、異業種や一度も買収したことのない優良企業にも目を向けて丁寧に提案する

社長がいなくなっても買い手が心配せずに買ってくれるケースは存在します。典型的には同業の買い手に売ることです。

しかし、同業が買い手になる場合、いわゆる「Make or Buy」という買い手が持つ選択肢を真剣に考えてみないといけません。

自分で作るよりも楽だからお金を出して買うのです。楽でなければ買いません。

特に買収で成長しようという利益を積み上げてきた同業の場合、時間とコストをかければ自分でもできるので、自分でやるコストより安くなければ買収メリットがなくなってしまいます。メリットがなければM&Aは面倒なだけです。

こういうニーズが圧倒的に多いこと、同業のマッチングは(M&A業者にとって)圧倒的に楽なことから、巷の中小・零細M&Aは同業マッチングを最優先する傾向がありますが、果たして売り手にとって良いことばかりなのでしょうか?

同業が欲しいのは、もしかすると顧客リストだけかもしれません。その場合、M&Aが成立したとしても、M&Aによって会社を存続できた、と喜んでよいのか疑問です。顧客リスト以外は「不要な付属品」と買い手の目に映っているかもしれないからです。

会社の安売り従業員の切り捨ても許容範囲の売り手オーナーなら問題はありません。しかし、許容範囲外の売り手オーナーの場合、安易な道(社長がいなくても心配しない同業の買い手)だけでなく、「社長がいないと心配な買い手」へも視線を向ける必要が高まります。

たしかに、同業以外の買い手の場合、対象会社の内容、対象会社を買収するメリットや対象会社を引き継いでも問題が生じない理由を説明するのは大変になりますが、会社を有機的一体の経営組織として見てくれはずですので、結果として、パーツとしての評価(純資産ベース価格)でなく、会社としての評価(DCF法やEBITDA倍率法)をしてもらいやすくなります。つまり評価が高まり、高く売れます。

DCF法やEBITDA倍率法は、有機的一体の経営組織の評価にフィットします。今後も力強く存続・改善・成長することが期待できるから、将来のキャッシュフロー見込みとそのリスクに応じた倍率(割引率)で計算するのです。こちらが本物のM&Aの評価手法です。

安値売却の象徴でもある年買法などの純資産ベース価格は、顧客リストだけ、などの無機的な経営資源パーツの評価にフィットします。だから倒産企業のバラ売り価格の純資産を基礎とするのです。倒産案件や再生案件で使用されるのが本来の使い道です。

前者の評価を得るためには、社長がいなくなっても大丈夫という安心感が必要不可欠ですので、前述の社長がいなくても高く売れる条件1~3をなんとかするしかないわけです。

100%株式譲渡以外のスキームを駆使して、最大効率・リスク回避を実現する

社長がすぐにいなくなる、しかし、その後が心配、だから、買うなら安い価格で。リスクをディスカウントしなれば旨味が残らないし、不安だ。

これは、買い手の鉄板心理です。失敗を許さない日本の風土が下支えしているので、仕方がないものとして諦め、こういう思考回路になっていない知恵と勇気を併せ持つ真に優れた買い手を探して買ってもらうしかないわけです。

できるだけ社長不在リスクディスカウントされにくくする準備も重要ですが、もしディスカウントされてしまっても別のアプローチで売却金額を高める方法を模索すれば、帳消しにできるかもしれません。

楽なのは100%株式譲渡です。複雑なスキームのM&Aでは契約書は数十ページ(時に3桁ページ)になりますが、100%株式譲渡の楽々プランなら契約書2ページで済ますこともできます(ただし、潜在リスクの合理的な分配が定められないまま成約させてしまうと、立場の弱い売り手が辛すぎる事態に陥るリスクが残るのでしっかりとした契約を締結しておくべきです)。

個別案件毎の特殊事情、売り手のニーズ、買い手のニーズなどを考慮に入れ、絶妙にバランスの取れたスキームが構築できると、100%株式譲渡をする事が馬鹿々々しく感じられることもあります。

対象会社と買い手企業の状況と可能性をしっかり頭に入れたM&Aアドバイザーであれば、重要なすべての要素についてプラスが最大、マイナスが最小になる絶妙なスキームを考案してくれるはずです。一見して非効率な作業ですし、成功する可能性も100%ではない作業ですが、伝統的なM&Aアドバイザーであれば当然の仕事として必死に頭を捻ってくれるでしょう。だから伝統的なM&AアドバイザーはFA: Financial Advisorと呼ばれるのです。

大企業を売る場合の情報開示と比較しても遜色のない情報開示によって、対象会社の強みや弱み対策等の「見える化」を徹底する

せっかく社長がいなくても回る仕組みを構築できていても、伝わらなければ無いのと同じです。

アピールポイント適時にしっかりアピールしておかないと全てが無駄になってしまうリスクがあります。

なぜ適時と強調しているかと言うと、アピールできる期間は実は短いということです。

DD中にアピールすればよいという考えは絶対に止めましょう。DDを受ける前に紙(意向表明書等)1枚を受け取りますが、この紙を受け取る「前」にアピールしておかねば遅いのです。

たしかにDD中にアピールすることはできますし、そのアピールポイントに基づき条件を改善する交渉をすることも可能ですが、DD後にアピールすべきはDD開始後に発生した新事実についてが原則です。

紙に書いてある買収条件を売り手が飲んだ形で、コストや手間をかけて買い手がDDを進めているので、買い手としては「なぜ、紙を受け取る前に主張しなかったのですか?逆にマイナス面も隠されているのではないですか?」という疑心暗鬼を生んでしまうかもしれません。

DDを受けてもマイナス面は発見されない、プラス面の伝え残しもない、という状態が理想的なDD開始前の情報伝達状況です。

必要十分な情報が買い手に伝達されているからこそ、紙に書かれた価格には深い意味が刻まれます。もし誠実な買い手に提案しているなら、DD後の強烈なディスカウント宣告を受けずに済むはずです。逆に、もしDDで重要なマイナス情報が次々発見されたら。買い手の立場で考えてみましょう。

M&Aは、本来、情報開示と条件交渉がメインとなります。

しかし、日本の中堅以下のM&Aでは、相手探しの効率化がメインとなりがちです。ようやく政府も本格規制の一歩手前のガイドラインを用意しましたが、抜け穴だらけのもので、さらなるバージョンアップが求められます。

適正価格で売ることも難しいのが日本の中堅以下M&Aですので、アピールすべきはアピールし、心配かけそうなポイントは安心させられるよう、「会社のあれこれ見える化」が重要となります。売り手の常識は社外では常識ではないので、丁寧に誤解されないように伝えねばなりません。

また、買い手は通常1人で買収を決めるわけではありません。組織的な意思決定が必要なケースがほとんどです。

そのため、M&Aの見える化では資料形式が必要です。

伝統的なM&Aアドバイザーであれば、ティーザー(簡易匿名開示資料)やインフォメーション・メモランダム(詳細開示資料)やデータルーム(ありとあらゆる会社やオーナー関連の資料ソフトコピー等)を用意するサポートをしてくれます。M&A助言会社の専門能力やクライアントに対する姿勢が端的に表れるのが開示資料です。結果重視なのか効率重視なのかが一発でわかります。開示資料サンプルを見せてもらって比較してみるとよいでしょう。