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直近実績(LTM)とは?M&Aで使う計測期間について

2023/2/28

M&Aのお金(価格・税金)

M&Aの開示資料

直近実績(LTM)とは?M&Aで使う計測期間について

会社を高く売りたい売主にとって意外と大事なのに、ついないがしろにされがちなのが、会社の経理体制のクオリティです。

その重要性の一部を理解いただきたいと思います。

今回は、M&A買主候補に提示するのが不可欠なEBITDA等の業績指標の「計測期間」についてご説明したいと思います。

バリュエーション手法のおさらい

M&A会社売却において、もっとも理論的なバリュエーション(価値評価)の方法は、将来の計画数値を、時間経過と事業リスクを反映した割引率で割り引くことで現在価値化して事業価値を求め、これに事業外資産の時価評価額や有利子負債の金額を反映して株式価値を求めるというDCF法であるという点に疑いの余地はありません。

特に、次のような状況にある会社の場合、DCF法でしか公正な評価は不可能と言えます。

・急成長中の会社

・(経営者の事業意欲減退等により)大きな潜在価値が眠る会社

・大きなCAPEX(資本的支出)を予定している会社

運転資本の動きが大きい会社

調達資本(借入や資本金・新株予約権等)の構成が大きく変動する予定の会社

・リスク・リターン特性の異なる複数の事業が混在している会社

・類似性の高い上場企業が存在しない会社

・その他ユニークな特徴が存在する会社

しかし、DCF法には、事業計画数値に策定者(売主・買主それぞれ)の恣意性がどうしても入り込み易い点、計算が複雑で業務負荷がかかり客観的な評価を得るためには公認会計士等に費用を支払って評価してもらう必要がある点、割引率の設定次第で評価額が大きく変わり割引率の設定に売主サイド・買主サイドで意見が分かれ易いという課題もあります。

そこで、公正なバリュエーションを実務的に効率的に実施するため、DCF法の代替手段が必要となります。ここでは、ビジネスブローカレッジの対象となる零細企業はさておき、M&A市場に参加可能な中堅中小企業、特に継続企業・成長企業等にとっては無意味かつ有害な「純資産を基礎にした簡便性重視の評価方法」ではなく、「EBITDA倍率法(類似会社比準法の一種)」を用いて評価するケースが多くなります。

本記事において、零細案件で多用される年買法等の「純資産を基礎にした簡便性重視の評価方法」は無視しています(本来、M&A案件にとってまったく意味がない評価法で、長期間事業継続が期待できる優良企業や今後の成長が期待される優良企業にとっては安すぎる評価になるためです)。

EBITDA倍率法は、EBITDA(減価償却費加算調整後の営業利益)に一定の調整(主にオーナー経費等の過大費用や臨時異常な事由で生じた一時費用等を加減算)した上で、これに「DCF法の割引率の逆数に一定の補正を加えた概念」である「倍率(マルチプル)」を乗じて事業価値を求めます。

「計測期間」の重要性

この調整EBITDAをどのように正確に把握する(=バイサイド会計士等の偏った「買主有利の主張」に合理的に反論する、実は買主の絶対的味方の悪質BB業者や実は何も理解してない無能BB業者を正しい道筋に戻す)のか、今回は「計測期間」についてスポットライトを当て、M&A会社売却の際、売主が不利な交渉に陥らないための事前準備の内容の一部についてご説明したいと思います。

常に事業年度決算のみが「計測期間」として利用されるなら問題はないのですが、実際のM&A交渉実務の中では、実績期間についても将来期間についても、年度決算以外の色々な「計測期間」が必要となります。

例えば、商品の仕入れをする事業の場合で考えてみましょう。決算期末だけ実地棚卸している会社は非常に多いと思いますが、税務申告上はそれでもなんの問題もありません。事業年度という「計測期間」しか税務申告の世界では要求されないからです。しかし、M&Aでは、事業年度以外の計測期間の業績の開示が要求されることが頻繁にあります。つまり、貸借対照表に計上する棚卸資産を、買主候補が重要な判断を間違えない程度の正確さをもって、基本的に「月次」で評価計上しないといけないことになります。そうしないと、月次の「計測期間」や四半期の「計測期間」、一番重要な直近12か月(LTM:Last Twelve Months)の「計測期間」の売上原価、粗利益を正確に表示できませんから、買主候補が適正に売却対象会社の価値を評価することすらできなくなってしまいます。

原価率や粗利率等の超重要な経営管理上の重要情報も、月ごとに異常な動きを示すことになり、原価率が改善してるのか悪化してるのか、場合によっては業績を粉飾(業績を良く見せることを目的に売上原価を小さくするため棚卸資産を過大計上しているのか、逆に、脱税するため売上原価を大きくするため棚卸資産を過少計上)しているのか、という疑いの目で見られてしまうリスクもあります。こうなってしまうと、余計なDD対応の負担が生じ、条件交渉にマイナスにしかなりません。

そこまで疑われなくて済んだとしても、別の形の問題が頻繁に発生します。一定規模以上の優良企業を売却するM&A案件の場合、その買主候補には必ずと言っていいほど上場会社や投資ファンドが登場します。つまり、スポンサー(一般投資家、機関投資家、LP出資スポンサー等)に対してディスクロージャーの義務を負う買主候補から見られたとき、月次決算や四半期決算といった最低限の経営管理の土台ができていない会社、バックオフィスに重大な欠陥、改善余地がある会社と評価されてしまえば、想定外の株式価値のマイナスの価格調整(数千万円単位、時に億円単位)を受け入れなければ買ってもらえない状況に陥るリスクが高まります。「計測期間」を単なる事務と扱い、経営レベルでは関係ない、と甘く見てはいけないのは、こういう理由があるからです。

棚卸資産だけ月次にすればよい、というわけではありません。対象企業ごとに様々な要素が複雑に影響します。会社毎に、経営管理上、外部報告上、支障のないレベルまで経理体制を改善しておかないと、色々な面で売主が不利な状況に追い込まれてしまうのです。

EBITDA倍率法の倍率と計測期間の関係

EBITDA倍率法は、その名の通り、売却対象会社の「EBITDA」に上場類似会社の「EBITDA倍率」を掛け算して算定し、一定の調整を加えるバリュエーション手法です。簡単なようで、意外と奥が深いため、何十何百とDCF法とEBITDA倍率法を両方使って評価した経験のない人が使うと、ミスリード(高すぎる、安すぎるため意味のない)のリスクがある評価手法です。

「EBITDA倍率」は、上場類似会社の事業価値をEBITDAで割り算して得られる個別の類似会社の倍率を複数用意し、異常な株価・業績の類似会社を除外するなどの調整を施したのち、算術平均中央値等の統計処理をした数値です。

倍率に掛ける売却対象会社のEBITDAは、大きく2つのケース(過去実績(確定値)を使うケースと、翌期の計画値を使うケース)があります。それぞれのケース毎に、上場類似会社のEBITDA倍率も期間対応しておかないと、意味のない単なる掛け算になってしまいます。売主に有利に働き、買主が見逃してくれるならラッキーなのですが、M&A案件の場合、金額が大きくなるので簡単には通りません。

過去実績のケースでは、上場類似会社の「過去実績EBITDA」と「今の時価総額」から求められる事業価値との関係を「倍率」として採用し、翌期計画値のケースでは、上場会社の「翌期計画EBITDA」と「今の時価総額」から求められる事業価値との関係を「倍率」として採用することで、バリュエーション上の期間対応を実現するわけです。

基本的に上場会社は、半期毎に翌期計画値をアップデートして情報公開してますので、この数値を利用することで、売却対象会社の翌期計画値に掛け算する「倍率」も取得できるわけです。

この「倍率」には、例外的な事象がある場合は使いにくいケースもあるのですが、安定的で例外的な事象がない場合においては、「DCF法のエッセンス」が詰まっているので、DCF法評価を習熟している評価者が使う限り、正しい評価を比較的容易に把握できる便利な評価手法と言えるでしょう。

ここで、過去実績の計測期間が、「事業年度の決算期間」だけを指すわけではない、という点が今回の「計測期間」のテーマの最重要ポイントとなります。評価をする時点と、業績を固める時点がズレるので、そのズレを買主有利に利用されないよう、売主有利に利用できるよう、売却準備が重要です。

EBITDA倍率法で使用するEBITDAの計測期間

過去実績でも将来計画値でも、EBITDA倍率法で使用することが可能なので、EBITDAの計測期間としては、
1.過去実績
  1-1.決算期間の確定値
  1-2.実績LTM(評価時点から12か月遡った期間の確定値)
2.将来予測
  2-1.翌決算期間の計画値
  2-2.進行期の評価基準月末までの月次累計確定値 + 評価基準月末後で進行期決算期末までの予測期間の計画値
という4パターンが理論上存在します。

例えば、対象企業の決算期が3月、確定値が出来ている時点(評価基準日)が9月であれば、
1-1. 今年の3月までの12か月の決算期の確定値
1-2. 前年10月から今年の9月の12か月の実績LTM
2-1. 来年4月から再来年3月までの計画値
2-2. 今年3月から9月までの確定値+今年10月から来年3月までの計画値
となります。2-2は着地見通しとも呼びます。

現実には、決算期とM&A交渉時期はズレる方が多いので、実績LTM(1-2)や着地見通し(2-2)を使う方が多いのです。悩ましいのは、この微妙な時期のズレによって大きな評価の差になってしまうケースです。

このうち、2.将来予測のEBITDA(2-1、2-2)は、DCF法の課題と同じ課題を含みます。評価者の恣意性が入り、評価を受領する取引相手方にから見て客観性に問題があるとみなされるリスクがあるわけです。

そのため、過去実績では売主に不利な評価となってしまう場合、やはり将来予測を利用するしかないため、「売主として恣意性のない評価をしている事」を取引相手方に理解してもらえるよう、丁寧に情報開示するしかないわけです。

例外的な状況としてはこのようなケースが考えられます。
1.業績が急成長中で、EBITDAが急激に伸びているケース
 例えば、過去実績とその翌期の予測を比較し2倍にEBITDAが伸びる予測が合理的である場合、過去実績に上場類似会社の倍率(平均すると落ち着いた伸びしか見込まない倍率)を掛けると、結果として公正な評価の半額(50%)の評価になってしまいます。評価手法の選択ミスだけで50%もディスカウントされるのと同じです。
2.現オーナー社長が頭の中では構想があるものの、意欲の問題、資金の問題等で手を付けていない重要な成長施策があるケース
 例えば、もし成長施策を実行したら、翌期にEBITDAが2倍になると合理的に予測できるなら、同様に、そのまま過去実績を使用すると半額(50%)の評価になってしまいます。

「数十年の苦労が半分蒸発してしまうのを、わずか数か月の準備で回避できるなら」という着想があるかないかで後の人生が大きく変わるわけです。「面倒くさい」「みんなと同じが安心」は重要な意思決定ではマイナスにしかなりません。慎重に選んで逆を張る、差別化こそが重要であり、起業や経営と同じではないでしょうか?

上記は1年分で半分(50%)というやや極端なケースですが、長期的な成長や改善等を勘案するともっと大きな差が生まれるケースも少なくありません。そのような場合、やはりDCF法による評価しか公正な価値を評価する方法はありません。しかし、そこまで極端でないが、翌期にこそ重要なエッセンスが含まれる場合、翌期計画値を使用すれば、公正と言える範囲に収まる可能性は高いと言えます。

以上より、特に何も特殊事情のない多くのケースでは「1-2.過去実績LTMの調整EBITDA」を用いて評価するわけです。特殊要因のあるケースでは「2-2.評価時点までの確定値+以降は計画値の調整EBITDA」を用いる、またはDCF法で評価するわけです。年買法はM&A案件では登場しません(意味がないので)。

過去実績の計測期間のうち、決算期間の確定値については問題は生じにくいと言えるでしょう。いくら何でも(税務会計しかしていない多くの非上場オーナー系企業であっても)、決算の数字はそれなりにしっかりと固めているはずだからです(ただし、税務署100点、税理士100点を付けている決算書でも、厳格な経営管理をする買主から赤点評価になるケース(財務会計や管理会計が手つかず)も)。

ちなみに、売主を有利にしてくれるEBITDAの調整額を正確に把握する事が困難な状況にある会社もしばしば存在します。今回は「調整額」の話(費用額に含まれるオーナー経費等の問題)ではなく、「計測期間」の話(時間軸の変化に伴う業績レベルの変化の問題)です。「調整額」に関する説明は別の記事で詳細に説明してますので、そちらをご参照いただければと思います。

評価基準時点から見て、つい最近に決算が締まった場合は、決算期間の実績EBITDAを用いてもなんの問題もありません。しかし、決算が締まるまでのタイムラグは通常2か月ありますし、評価基準時点が前決算日から半年以上1年近く経過しているケースも非常によくある話です。そこで、M&Aの世界でよく利用されるのが、LTM(Last Twelve Months)という直近12か月の過去実績という計測期間になります。

例えば、直近決算期が2024/3末の会社で、M&Aの株式価値の評価基準日が2024/9末となる対象企業の場合、直近決算期ですと半年以上の時間のズレが生じています。掛け算する倍率は、9月までの12か月の期間に対応したEBEITDA倍率を用いますので、半年ズレたEBITDAに倍率を掛け算することになってしまうと、理論上、説明が難しい数字が算出されてしまうわけです。こういう場合、交渉パワーの強い方が有利になりますので、引く手あまたの対象企業を売る状況でない限り、基本から逸脱しない方が無難でしょう。

そこでLTMの登場となります。

この場合、評価基準時点が2024/9末ですので、2023/10/1から2024/9/30までの12か月をLTM期間とし、当該期間内の月次決算数値を合計する等してLTMの実績数値を求めます。

つまり、LTMのEBITDAを把握するには「月次決算が(年度決算レベルとまではいかなくとも)公正な評価と言える範囲の正確性を伴って実施されている」または「決算レベルまでの追加手続きが容易に可能な体制を構築している」必要がある事を意味します。

正確なLTMのEBITDAを把握できる体制になっていない会社は多い

「LTMのEBITDAを買主サイドに情報開示できる体制にあるか否か」という論点は、実は、株式価値評価で使う数字が把握できるというだけではなく、バックオフィスの整備状況の評価を通じた株式価値評価のディスカウントにも影響します。

これを甘く見てはいけません。特に上場買主企業や投資ファンドから「インフラ整備が大変過ぎる」と悲鳴に近い声をよく聞きます。「まあその分の3倍は安く買ったけどね」とも言われるわけですが。
ビジネスブローカレッジで会社を売る場合、バックオフィス未整備を前提とした買主にとって安心な抑え目価格になりますが、M&Aで会社を売る場合には、バックオフィス整備を前提とした合理的な評価で売れる道筋があるわけですので、わずかな努力の差が大きな価格の差になりかねないわけです。

例えば、上場会社や上場を見込む未上場会社もしくは投資ファンド等の「M&A案件の優良な買主候補」は、業績管理を軸として経営管理を精緻に行い、多様なステークホルダーに情報開示をする義務を負っています。

月次決算がまともにできていない(税務会計ならOK、でも財務会計としては落第点の)会社を買収する場合が非常に多く、この場合、買主は、買収してから急いでバックオフィスを整備するわけですが、これには新たに経理人材や経営管理人材を雇用して、システム対応等も含め、多くの労力を割き、コストを負担することになるでしょう。

この手間がM&Aプロセス中の情報開示で不透明だったりすると、ますますディスカウント幅が広がってしまいます。5000万円から1-2億円程度の評価減の原因になる事も決して珍しくありません。数年分のCFOや経理担当者の増強コストはあっという間に千万円単位で膨らんでいきますので。場合によってはディールブレイクになるリスクすらあります。買主企業のCFO等が猛反対、買主企業のサラリーマン社長が社内評価リスクを嫌って手を引く、などです。

月次決算は、PLだけ整備すればよいわけではない点も重要です。

仕入、棚卸資産等、BSを正確に評価しないとPLも正確に測定できない事業形態は非常に多いですし、BSの売掛金等の売上債権や事業関連の負債なども発生主義で正確に評価計上していないとディスカウントの対象になっても仕方ありません。なぜなら、そのM&Aで上場会社の倍率を利用した評価をしてもらう以上、上場会社並みとは言わないまでも、なんとか耐えられるレベルまで一気にレベルアップさせるための作業は、買主がコストを負担して実行するからです。

しかし、安心してください。ちゃんと対策すれば問題ありません。

自分でやれば安く済むのに、交渉相手に丸投げするとゴッソリ抜かれる、だけの話です。

SCAは売却前準備の一環としてバックオフィスのレベルアップを全面サポートします

「ユニークな会社を高く売る」のキャッチコピーを謳う弊社は、このような明らかにディスカウントされてしまいがちな原因を消滅させるべく、事前準備を全面的にサポートしています。

SCAの売却前の事前準備のメニューは非常に広範囲に及び、ケースバイケースで対応していますが、経理体制という観点に絞ってどのようなメニューが典型的なものかというと、
1.発生主義会計への移行
2.月次決算への移行
3.税務会計のみの最低レベルから財務会計管理会計までカバーした経理体制
4.極力省力化するため、容易に扱える範囲のDX化(VBAで手間のかかる仕訳をシステム的に出力し、会計ソフトに一括入力することで、経理業務の負担を従来の半分以下に軽量化)
等を含みます。

残念ながら、そこまでやっておいても安く買える事に慣れた一部の買主候補から、根拠のないディスカウント要請が来るケースもあります。巷にあふれる悪質・無能ビジネスブローカーの影響です。

しかし、有能な買主候補であればあるほど、ちゃんと評価してくれます。不合理なディスカウントを避けられ、公正な評価をしてもらえます。有能なのでシナジー、成長、改善といったリターンを生み出せる自信があるからですね。

そのため、不合理なディスカウント要請をしてくる買主候補は、売主サイドから強気でこう言うことができるようになっておくことが重要です。

「残念ですが今回は見送りで結構です。公正な評価をしていただける買主さんに売りますので。」

一見面倒でしょうが、ちゃんとサポートしてくれる優良M&Aアドバイザーに依頼すれば、こういう問題を超低コストで解決してくれるはずです。マッチングしかしない効率重視・件数重視の自称M&A助言会社の場合は、マッチング以外の専門的な作業をお願いすると「アドバイザーを別途付けてください」などと言われてしまいますので、最初のM&Aアドバイザー選びが肝心です。とにかく「M&A市場で売れるなら、ビジネスブローカーに依頼してはいけない」ということです。

顧問税理士はM&Aの専門家ではない

圧倒的多数の未上場オーナー系企業は、顧問税理士に記帳代行や決算処理を委託しているので、「会計はバッチリ」と思い込んでいますが、とんでもない誤解です。

顧問税理士は、そもそも税務の専門家ではありますが、財務会計や管理会計は専門外ですし、そもそも「税金を安く済ましてあげる」「税務署から怒られないようにする」という業務目標を持っている多くの顧問税理士は、「M&Aで高く売る」という遥かに大きな目標の妨げになってしまうケースも多いのです。「利益を小さく見せて税金を安くしてあげる」と「利益を大きく見せて株式価値を高くする」は真逆の方向なのです。

オーナー経費の計上に甘い顧問税理士の場合は特に、EBITDAの調整額が膨らみ、調整額の合理性を説明して買主に納得してもらう手続きが難航することがしばしばです。

税務署の調査をクリアできればよい、という目標にとどまる税務会計では、月次の業績は公正な会計処理がなされてなくとも問題ないため、いつまでもレベルの低いバックオフィスが放置され続けてしまいます。

税務会計も重要ですが、実はもっと遥かに重要なのが管理会計(経営管理に資する財務データ、業務データと連動した生きた数字)です。しかし、管理会計等は、未上場会社の経営者からも顧問税理士からも、無用の長物とみなされがちです。しかし、買主から見れば、今後、最適な経営をしていくために一番価値のあるデータの宝庫となります。

こういう財務会計・管理会計・税務会計の3つの会計が整っていて、月次決算も十分に状況を正確に把握できる水準で整っていれば、さまざまな経営管理レポートを用意しないといけない買主の買収担当者からも高い評価をしてもらえるでしょう。

効率的な業績管理体制がある会社だけ調整EBITDAをパっと出せます。「LTMの調整EBITDAがパっと出る会社」は、バックオフィスの不備を理由としてディスカウントされる可能性が非常に低くなるわけです。

もちろん、バックオフィスには、経理・税務以外の論点もありますので、業種・事業内容に鑑みて、問題の早期発見、予防、発生時の対処、もしくは、詳細な業務データから違和感を感じ取って、ライバルに先んじた成長施策を立案・実行、このような競争優位性を生み出してくれるのが、バックオフィスの機能です。