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M&A会社売却で意外と要注意!「Q&A」のポイントや利用価値

2023/3/10

M&Aのプロセス

M&Aの開示資料

M&A会社売却で意外と要注意!「Q&A」のポイントや利用価値

M&A会社売却では、大半のケースで、売主が主体となって買主を探し、条件を交渉し契約を締結して対価を受領するというプロセスを経ることになります。

これらを売主本人が自らすべて実行するのは大変だし、自らの利益を守るためには専門的で複雑な判断を数多く正しく行わなければならないため、通常、M&Aアドバイザーを雇って、M&Aのプロフェッショナルとしての高度に専門的でクライアントの利益最大化に資する助言をしてもらうわけです(クライアント利益最大化【最も満足できる条件で売る】をミッションとする片手報酬のFA(Financial Advisor)タイプのM&Aアドバイザーの場合)。

M&Aアドバイザーが、買主候補を連れてくると、必ずといってよいほど、まず、テキストベース(読み書き言葉)のQ&A(質疑応答)をリクエストされることになります。

ちなみに、オーラルベース(口頭)でのQ&Aは、通常、マネジメント・インタビュートップ面談等と呼ばれ、前述Q&Aとは別枠となり、ある程度、成約可能性が見込める段階で実施されることが多いと言えます。

Q&Aは質疑応答ですので、一問一答式で受けた質問に回答することになりますが、同時に資料リクエストが実施されることも多いでしょう。これは、一問一答方式では双方が非効率になるケースも多いし、知らなければ気づき得ない問題の存在の可能性がある以上、買主が様々な資料をリクエストして閲覧・分析することで、潜在的な問題の存在に気づくチャンスを得ることを目的にするケースもあるでしょう。

M&Aプロセス全体の中で、早い段階で行われるQ&A資料リクエストは、後から行われるより包括的なDD(デューディリジェンス、企業精査)の前哨戦のような位置づけと捉えていただくとよいでしょう。包括的ではない前哨戦とはいえ、通常、買主にとっての最重要テーマに集中して繰り広げられますから、売主にとって、その対処方法を最適化する努力は非常に重要です。

ここでも、M&Aアドバイザーのクオリティは非常に重要です。買主候補を連れてくればよい、というわけではありません

  • 売却対象会社(市場、競争、事業(商品/サービス・販売・マーケティング・設備・その他)、組織、財務、法務、税務、その他)
  • ②売主ニーズ(売却金額目標、売却後の身の振り方、会社及び人材の行く末、その他)

について、深く理解していることはもちろん、

  • 買主候補の買収目的から買収後の体制や経営方針等

についても深く理解していなければ、M&Aアドバイザーという名前の仕事なのに、M&AのQ&Aにおいて適切なアドバイスをすることは絶対にできません。

これができないM&Aアドバイザーの場合、最適な買主候補に狙いを定めることも困難でしょうから、「当てずっぽうで大量の買主候補に打診する」という手法に依存するしかなくなり、運に恵まれて適した買主候補に到達できたとしても、「情報の精製と伝達」というM&A交渉の本質部分において低クオリティとなる以上、売主ニーズを実現することは極めて難しいわけです。

売主・買主の双方が相互に、M&Aの相手として一定の評価をしているものの、その確度はまだ高くない段階で、相手の評価をもう少し深め、双方がそれなりに満足できる状態になったら、さらに情報開示の範囲を拡大し、最終的な評価を固める、この拡大後の情報開示のプロセスが、DD(大量のテキストQ&Aや資料リクエスト)やマネジメント・インタビュー(口頭)と整理することができるでしょう。

もちろん、この段階でもM&Aアドバイザーのクオリティは非常に重要です。M&Aを何度も経験している売主や、M&Aの成果はどうでもよく売れればよいという売主を除き、やはり、信頼して相談できる腕の立つパートナーは不可欠と言えるでしょう。

今回は、売主の側から見た、Q&Aで回答する際の注意点や、Q&Aという買主候補との接点を有効に活用する方法をご説明したいと思います。

クイックに回答することはもちろん大事ですし、虚偽(ウソ)の回答は絶対にNGとなります。ただし、馬鹿正直に過剰に悪い評価を受けかねないような答え方をするのも愚の骨頂です。全体を鳥瞰しつつ、相手の立場に立って、どうすれば自分の利益を最大化できるかをM&Aアドバイザーと一緒に工夫することが非常に重要となります。

Q&Aが行われるタイミング

M&Aは、一般的に次のようなプロセスを経て進行していきます。

  1. ①買主候補との間で機密保持契約を締結する
  2. ②買主候補に売却対象会社に関する初期的開示資料(IM: Information Memorandum等)を開示する
  3. ③買主候補から意向表明書等(LOI: Letter of Intent、この段階で買主候補が判断する価格や処遇等の重要条件)を受領する
  4. ④買主候補を選考する(1社に絞り込むなら相対交渉、複数社と交渉を継続するなら競争入札
  5. ⑤買主候補が企業精査(DD: Due Diligence)を実施する(売主はインタビューを受けたり、弁護士や会計士等専門家からの質問に回答する)
  6. ⑥買主候補との間で最終契約書(株式譲渡契約書等)の内容を交渉して決める
  7. ⑦最終契約を締結し、クロージング日に取引を実行する
  8. ⑧新たな資本体制の下で経営を開始(引継ぎを開始

買主候補は、次のような手段を用いて、売却対象会社の詳細や、キーパーソンの人柄、意欲、能力等について知ろうとします。

  • ■セルサイドから提示された初期的開示資料(ノンネームシート、ティーザー、インフォメーション・メモランダム等)
  • 一般公開情報(政府・業界団体による業界情報・統計情報、競合情報、売却対象会社のホームページ、店舗案内・ECモール・転職サイト等における評判等)
  • ■Q&A(Q&Aシート等を利用したもの、カテゴリ/重要度/質問日/関連資料/質問内容/回答内容等の項目が並んだエクセルファイルを往復)
  • インタビュー(トップ面談、マネジメントインタビュー)
  • ■DDベンダーによるDDレポート(資料請求、Q&Aやインタビューを弁護士や会計士が行って、専門家としての評価をレポーととしてまとめ買主候補に提出)
  • ■株式価値算定人によるバリュエーションレポート(DD資料等を基礎に、公認会計士等の価値評価の専門家が客観的な評価を実施)

Q&Aは、テキストベースで行われる質問と回答で、直接、売却対象会社の経営者に質問でき、大量の質問でも回答のための準備時間を確保できる点がメリットです。

一方、同じく直接経営者に質問できるインタビューでは、時間が限られるという点はデメリットですが、経営者の顔色や声のトーン含め五感を通じて総合的な評価をできるメリットがあります。

そのため、インタビューでは特に重要な大きな論点について質問されることが多く、Q&Aでは大小関わらず大量の質問を浴びせられることになるわけです。

Q&Aはいつ買主候補からリクエストされるのか?

早ければ、2(初期的情報開示)と3(LOI)の間で「Q&Aをしたいのですがよいですか?」というリクエストが買主から来ることがあります。意中の買主候補の関心を深めるため、セルサイドのM&Aアドバイザーが誘導するケースもあります。

これは、「意向表明書(LOI)を提出するか否か、提出するとして内容はどうするか」を評価するために実施するものと考えればよいでしょう。

Q&Aで、質量ともに大変なのが、5(DD)のタイミングです。

事業(商品サービス・販売マーケティング・組織・設備・店舗等)に係るビジネスDDのための買主候補本人(又は買主候補が雇った経営コンサルタント等)からQ&Aのリクエストが来ます。

また、会計・税務・法務等の専門領域に係る専門家DDのための会計士・税理士・弁護士等から、大量の質問が来ます。

Q&Aはいつまで続くのか?

いつまでQ&Aが続くかと言えば、制度的な決まりはない任意のものですので、買主候補が納得するまで続く、と考えておきましょう。

ただし、時間的な制約を抱える売主も少なくありませんから、売主の希望として「いついつまでにクロージングしてほしい」と強くお願いし、それを守ってくれそうな買主候補に限定して選考プロセスを継続するといった工夫も必要となる場合もあります。その場合には、Q&Aを含む情報開示をおざなりに済ますことはできませんから、いかにスムーズに高い品質の情報を精製・伝達できるかが生命線となるわけです。

買主候補やDDベンダーは、経営者からの回答やDDの結果判明した事実に接すると、次々に別の質問が浮かんでくるでしょうし、事業環境の変化が生じても、それに対する経営者の考えや売却対象会社にどういう影響が生じたかが気になるはず、さらに、買主候補が試してみたいと思っているシナジーや成長・改善施策がワークするかどうかも気がかりなはずです。

つまり、最終契約の調印が済んで、クローングが滞りなく完了するまで、Q&Aが続く可能性がある、と思っておけば、覚悟を決めておいた分、負担感は減ると思います。

これをM&Aアドバイザーの効率ばかり優先し、「M&A保険でカバーできます」等と買主候補を丸め込み、低品質の情報開示で済まそうとすれば、当然のことながら、金額的な評価は一定のディスカウントが前提となるでしょう。被害と受けるのは、売主はもちろん、買主も被害者になる可能性はおおいにあります。

M&Aアドバイザーとは、大事な会社を第三者に引き継ぐという売主にとって一生に一度の重大イベントのプロモーター的な立場である以上、やはり、時間や労力がどれだけかかるとしても、手抜きせずに仕事を全うするのが、インテグリティ(誠実さ、真摯さ、高潔さ)だと思います。少なくとも10年以上昔であれば、M&Aアドバイザーというプロフェッションにとって、インテグリティは、一丁目一番地でした。

開示クオリティとQ&A負担は反比例の関係

2.の初期的情報開示のクオリティが高ければ高いほど、インタビューやQ&Aでの回答のクオリティが高ければ高いほど、買主候補は効率的に正確な評価ができる状態になるわけですから、売主のQ&A回答の負担は減るはずです。

逆に言えば、これらのクオリティが低ければ低いほど、売主のQ&A回答の負担は増えるでしょう。M&Aアドバイザーが楽をすればするだけ、売主に負担がしわ寄せされてしまう構造です。

また、同時に、これらのクオリティが低いのに、それでもM&A取引を実行したいということは、「大事なことがわからない状態でもM&Aした方がメリットが大きい」ということを意味します。

1.の段階で買主候補に提示した売却希望額やセルサイドとしてのバリュエーションが低すぎた可能性があると思って間違いないでしょう。

売却目標額とQ&A負担は比例の関係

一方、売却目標額が高いほど、Q&Aの負担は大きくなります。

買主候補がセルサイドのM&Aアドバイザーから、売却希望額やバリュエーションを示されると、この「売主が売ってくれるであろう価格」が、はたして、リスクが高くて手が出ないと感じるほどの価格なのか、リスクがほとんどないと感じる価格なのか、なんらかの心象を形成するはずです。

そして、(当然リスクがあるのでリターンもあるのですが)リスクが相当に高いという心象を形成されれば、当然のごとく、M&Aを実行する前に、慎重に情報を吟味して買収をするか否かを決断しなければならないわけです。

この場合、やはり、Q&Aの回答負担は多くなります。高い頂への道は、常に楽な道ではないわけです。リスクが相当に高いという心象を形成されて初めて、売主としての成功の入口に立てたと言っても過言ではないのです。

買主候補が、高めの価格でも取引を実行するのが合理的であると判断するには、売却対象会社が成長できるか、改善余地があるか、シナジーを実現できるか、治癒不能な重大な欠陥、目立たないが発現すると会社が傾くリスクが潜んでいないか、などを確認しなければいけないでしょう。

他方、リスクが小さい、もしくは事実上リスクゼロという心象を得た買主候補は、多くの時間を割き、多額のコストを負担して、緻密な分析・評価をする必要が少ないと考えるはずです。

そうなると、Q&Aの回答負担は小さくなります。この場合、売主は目先の負担は軽減できましたが、完全にM&A会社売却で失敗したと断言できます。

冷静に考えていただきたいのは、例えば、高い価格を目指すため1,000問の質問に回答しないといけない、低い価格で妥協するなら300問の質問に回答すればよい、として、楽に見える300問を選ぶ判断は非合理的である可能性が非常に高いという点です。

M&Aでは、M&Aアドバイザーの熱意・能力等を理由として、売却価格における2倍や3倍程度の差は普通に生じてしまいます(包括的な売却前準備に加え、最高クオリティに完全コミットする弊社の場合、中堅中小M&Aで多用されている年買法による評価額の10倍、15倍以上の価格で売却できたケースもあるほどです。2倍や3倍はノーマルの範疇です。)。

仮に、売却対象会社を楽に安く売る(300問の回答で済む)場合には、3億円での売却しか期待できないとしましょう。一方、苦労はあるが高く売る(1000問の回答が必要)の場合には、10億円での売却が期待できるとしますと、1問の回答するのに平均10分かかるとして、時給で換算すると、時給600万円の作業ということになります。

そもそもインフォメーション・メモランダムが高いクオリティで情報が網羅されていれば、1/3~1/5くらいの質問は、「インフォメーション・メモランダムの●ページをご参照ください。」と回答すれば終了です。

売却目標額を高めにしたいと思うのは、売主の当然の欲求であり、むしろ売主の義務でもあります。

高く売りたい、でも効率的に進めたい、という当然のニーズを持たれる売主が取るべき行動として最重要なものが、「クオリティの高い仕事」をしてくれそうなM&Aアドバイザーを探す、です。「早い、安い、多い」ではなく「クオリティが高い」M&Aアドバイザーを探せるかどうか、です。

Q&Aで回答する際の注意点

Q&Aで回答する際、売主は、ネガティブな評価をされたくない立場にいるがため、ついつい悪い情報を隠し、良い情報を過剰にアピールしたいという悪魔の囁きと戦わねばならない場面に遭遇するでしょう。

もちろん、良い情報を十分にアピールせず、悪い情報を悪い様に誤解される内容で伝えてしまい、評価が大幅に悪化するよりはましかもしれませんが、やはり、質問者の質問意図を正確に読み取ったうえで、誠実に正確に事実(ファクト)と論理(ロジック)に基づき、回答することが望ましいと言えます。

そもそも、この時点で、悪い情報を隠したくなるくらいなら、売却活動を開始する前に、欠陥を治癒しておけばよいわけですし、良い情報を過剰にアピールせずとも済むように本当に売上・利益を潜在能力に近づける努力をしておけばよいはずです(そのため、弊社はココまでサポートしているわけです)。

とにかく、虚偽(ウソ)は厳禁です。

レプワラ・インデム(表明保証と補償)という仕組みで、売主による虚偽の情報開示によって、起こるはずのない損害を被った買主は、売主に対して損害賠償請求できるからです。

結局、売主は誠実に正確に情報を伝えるべき、とにかく嘘は厳禁、でも書き方や内容は必死に考えるべき、と言えるわけです。

早期成約させて成功報酬を受領してしまえば、もう関係ない、という無責任なM&Aアドバイザーは、クライアントがレプワラ違反で損害賠償請求をされるリスクを小さく説明したり、そもそも説明せずに通り抜けようとしますが、インテグリティを重視する多くのまともなM&Aアドバイザーは、虚偽(ウソ)をできるだけ避けるよう、丁寧に説明し、故意だけでなく過失も含め、後から虚偽と言われないよう常時目を光らせるものです。

Q&Aは実は、売主にとっても大いに利用価値がある

通常、買主候補が質問者で、売主が回答者という関係で、延々と質問と回答を繰り返すわけです。

表面的には、単なる無機質で事務的な作業と映るかもしれません。

しかし、このQ&Aの質問を行間も含めて読み解くと、実は、買主候補に関する様々な情報が詰まっています。単なる事務的な作業と軽く見るべきではありません。

常々、弊社のクライアントさんには説明している事の1つですが、「実は、正しく質問するのは本当に難しい。M&Aの現場でも質問力が乏しい人は頻繁に登場する。正しく質問できる人は意欲が高く優秀である可能性が高い、正しく質問できない人は意欲がないか優秀でない可能性が高い」という事です。

質問者は、何らかの目的(質問主旨)を持ち、手元にすでにある情報だけでは評価を固められないからこそ、回答者に対して質問をするわけです。

「質問文」をよく読めば、質問者がどんな期待・不安・疑念等を持っているのか推測できるケースが多いですし、相手への配慮をできてチームプレーが可能な質問者の場合、質問文の随所に様々な配慮が感じられる素晴らしい質問者もいます。この人がいるこの相手に売りたい、となる瞬間だったりします。

他方、回答者の負担への配慮も一切なく、開示済み資料に書いてある内容、すでに回答した内容、何を確認したいのか意味がわからない文章で質問してくる人も残念ながら時々います。M&Aに慣れていないだけのケースも多いでしょうが、そもそも買収目的がゼロサムゲームで奪うことだけ、というケースも少なからずあるのが現実です。そのような意図がバレると売ってくれないので、必死に隠しますが、やはり、随所ににじみ出るものがあるわけで、それを嗅ぎ取るM&Aアドバイザーの能力が試される局面ともいえます。こういう時に信頼できるのが片手報酬のM&Aアドバイザーであることは説明するまでもないでしょう。

もし、売主がオーナー社長で、経営者として継続したい場合、クロージング後の処遇や関係について困難さを感じてしまうでしょうし、引退を希望している場合には、引継ぎ期間中の相手の態度が心配になってしまうでしょう。

かなりの割合が、後ろ向きの姿勢からのリスクの所在、リスクの程度についての質問です。これらに対しては、誠実に正確に回答すればよいと言えます。

一方、一定割合の質問は、前向きな姿勢からの将来の成長可能性についての質問も来るでしょう。

こういう質問が来たならば、買主候補がこの領域について強い関心を持っていることを推測できるでしょうから、売主としては、買主候補の買収意欲を高めるべく、最大限の力を尽くし、適切な対処をすることが得策です。

Q&AにおけるM&Aアドバイザーの役割

さて、M&AアドバイザーはQ&Aにおいて、どんな役割を担ってくれるのでしょうか?回答負担の大きな売主としては気になるところだと思います。滞りなく業務を執行しつつ、無理やり作った時間でQ&A等に対応しないといけない立場にあるのが売主です。

質問者は、当然のことながら売主本人に回答してもらわねば意味がありませんし、売主は回答が将来的な損害賠償責任を生む以上、第三者に勝手に回答されてはたまったものではないでしょうから、ここでM&Aアドバイザーが代筆するような事はあってはならないことでしょう。

しかし、誠実なM&Aアドバイザーとしては、クライアントである売主の満足を最大化するため、できるだけのサポートはしてあげたい、という微妙な立場にいます。

こういうQ&Aの際、M&Aアドバイザーがどんな役割を持つのかは、千差万別なのが現状です。

例えば、弊社のように売却対象会社を深く理解するために、徹底的な調査・分析をするタイプのM&Aアドバイザーの場合、質問が来たら次のような作業をします。

  • ■質問が理解できる内容か確認し、質問主旨が不明・不明瞭である場合、特に回答に相当の労力が必要と判断される場合、回答者に質問を投げる前に質問者に質問主旨を確認し、質問文を加筆・修正してもらう
  • ■開示資料と矛盾があると問題なので、回答する際に一緒に確認しておくべき開示資料の該当ページ等を回答者に伝える
  • ■回答者が必要を感じる都度、電話やWeb会議等を活用して、質問一つ一つにどう回答すると質問者が納得してくれそうか相談に乗る(質問主旨を説明したり、M&A取引のリスクの観点も踏まえ、回答の文例を挙げる等して回答のガイドを務める)
  • ■回答を質問者に返す前に、回答の内容を確認し、質問主旨に合致しているか、不要な誤解を受ける言い回しがないか、誤字脱字がないか等を確認し、必要に応じ回答を加筆・修正してもらう

こういうサポートができるのは、売却対象会社を深く理解する努力を惜しまない、非効率上等のM&Aアドバイザーだけです。

一方、極端に効率重視のM&Aアドバイザー(最近非常に増えているタイプ)の場合、そもそも売却対象会社について表面的な理解しかしてないケースが多くなるのは当然です。

そうなると、誤字脱字チェックくらいはしてくれるでしょうが、その他は質問と回答の運搬するメッセンジャーボーイのような役割しか担ってくれないため、結果として、いつまでも質問者の疑問が解消せず何度も質問・回答が往復したり、質問者に余計な疑念を抱かせたりといった売主にとって望ましくない状況に陥る可能性は小さくないはずです。

Q&Aシートの流用問題

Q&Aは質問する方も相当の労力を要しますし、M&Aアドバイザーも複数の買主候補との間をメッセンジャーボーイをするだけでも相当の労力を要します。

そこで、M&Aに慣れている買主候補や、効率重視のM&Aアドバイザーは、すでに回答済みのQ&Aシートを、別の買主候補に開示するケースが存在ます。

これは、効率の観点で言うと非常に有効な手段と言えます。

しかし、本来は極秘であるはずのM&Aに関する情報を、第三者に開示するという行動に、リスクがないとは言い切れません。

仮に、流用するとしても次のような事のないように注意しなければならないと思います。

  • 他の買主候補がいるのかいないのか、何社くらいいるのか、が流用先の買主候補にわかってしまう(売主にとってプラスにもマイナスにもなるM&A取引上の機密情報)
  • 別の買主候補が知恵と工夫でたどり着いたビジネスアイデアが、なんの苦労もしていない流用先の買主候補に漏洩してしまう(一種の機密保持義務違反)
  • Q&Aシートはエクセルファイルであるのが通常ですので、エクセルファイルの作成者(元の質問者がどの会社で担当者が誰なのか)がわかってしまう(一種の機密保持義務違反)

ちなみに、特別な理由がない限り、弊社はQ&Aシートの流用をしませんのでご安心ください。