ChatGPTは、非常に自然な回答をしてくれる人口知能(自然言語処理AI)です。急速なスピードでユーザ数を伸ばしているので、すでに試された方もたくさんいると思います。
今回は、存在感を爆発させたChatGPTが、2023年3月の段階(GPT-4)で、M&Aという専門性の高い領域について、どういう回答をしてくれるのか、どのくらい正確なのか、について検証してみたいと思います。
もちろん、漏れなくズレなく完全に正確な回答ができるようになっていないのは事実のようです。たしかに、ときどき明らかに間違った回答をしてきます。正解と真逆の事を回答することすらありますから、やはりChatGPTの基本メカニズムだけは最低限理解し、うっかり騙されないようにする必要はあります。
しかし、なかなかどうして、M&Aをこれから実行しようとする売り主オーナーさん達にとっては、まず、「M&A会社売却はどうすれば成功させられるか、落とし穴にはどんなものがあるのか、というチェックリストを作ってみる」等といった限定的な用途であれば、現時点でも非常に有益な印象を受けますし、もっと大事な視点として、中立公平な情報という印象も受けます。
ChatGPTは、インターネット上に存在する文献や公式HP等の情報から、怪しい情報を大量に削除してから機械学習を走らせているようですから、M&A業者に直接尋ねてみる際に常に気になる「営業トーク的な誘導」というリスクは、基本的に気にしないでよい、という明確な利点はあります。
まず、できるだけご自身でM&Aについて勉強してみて、それから、できるだけ良さそうなM&A助言会社、だけでなく、思い込みや偏りを避けるためにも、色々なタイプのM&A助言会社にアプローチしてみると、最高の成果を手に入れられる確率を大幅アップできるはずです。
目次
ChatGPTについて(詳しい方はスキップして下さい)
そもそもChatGPTって何?
まだ、ChatGPTについて何も知らないという方のために、ChatGPTの簡単な説明をしてみたいと思います。一番手っ取り早いのが、ChatGPTにChatGPTの説明をさせる、という方法でしょう。
こんな風に質問文(濃いグレー)を入れてみると、こんな回答(薄いグレー)が返ってきました。
ChatGPTの特徴を簡単に説明してください
ChatGPTは、大規模な自然言語処理モデルの1つであり、以下のような特徴があります。
- 1.大規模な学習データを使用することで高い性能を実現する。
ChatGPTは、膨大な量のテキストデータを使用して学習されたモデルであり、自然言語の理解や生成において高い精度を実現しています。 - 2.文脈を理解して自然な応答を生成することができる。
ChatGPTは、文脈を理解し、前後の文脈から意味を推測することができます。そのため、より自然な応答を生成することができます。 - 3.多様なタスクに対応することができる。
ChatGPTは、多様な自然言語処理タスクに対応することができます。例えば、文章生成、文書要約、機械翻訳、質問応答などのタスクに応用することができます。 - 4.ファインチューニングにより、特定のタスクに特化することができる。
ChatGPTは、ファインチューニングによって、特定のタスクに特化することができます。ファインチューニングによって、より高い性能を発揮することができます。 - 5.対話システムとして使用することができる。
ChatGPTは、自然な対話をすることができるため、対話システムとして使用することができます。例えば、カスタマーサポートやAIアシスタントなどに応用することができます。
さすがに正しいのではないでしょうか。
ChatGPTの始め方
これからChatGPTを始めようと思っている方は、次の手順を参考にしてみてください。英語サイトなのでとっつきにくいと考える方も、Youtubeなどで開始ステップを説明してくれている動画もありますので、ぜひ試してみてください。非常に簡単で数分で完了します。言語についても、質問文を投げるだけなら、日本語だけでOK(たまに英語で回答が返ってくるので、そのときは「上の文章を日本語に翻訳して」と頼めば済みます)ですし、もちろん他言語で聞くこともできます。
ChatGPTの運営会社であるOpenAI社のホームページのURLは次のとおりです。
では、ChatGPTに「ChatGPTの始め方」を聞いてみましょう。
ChatGPTを新規に始めるためには?
ChatGPTを新規に始めるためには、以下の手順を実行することができます。
- 1.APIキーを取得する
OpenAIが提供するAPIキーを取得します。APIキーには、アクセス制限があるため、使用目的に応じたプランを選択する必要があります。 - 2.ライブラリをインストールする
PythonやJavaScriptなどの言語に対応したOpenAIのライブラリをインストールします。これにより、ChatGPTの利用が可能になります。 - 3.認証情報を設定する
APIキーを用いてOpenAIに認証するための認証情報を設定します。 - 4.サンプルコードを試す
ChatGPTを使って、文章生成や質問応答などのサンプルコードを実行して試してみます。これによって、ChatGPTの動作を確認することができます。 - 5.ファインチューニングを行う
ChatGPTを特定のタスクに適用するために、ファインチューニングを行います。ファインチューニングは、ChatGPTを特定のデータセットに適応することで、より高い性能を発揮することができます。
以上の手順に従って、ChatGPTを新規に始めることができます。ただし、ChatGPTは、高度な自然言語処理技術を利用するため、適切な知識と技術が必要です。
ChatGPTの回答の正確性について
ChatGPTは間違った回答をすることがあります。どのような工夫をしてより正しい回答ができるようにしているのでしょうか?これも聞いてみましょう。
ChatGPTの回答が正しくなるようにどういう工夫をしてますか?
私は、可能な限り正確で信頼性の高い回答を提供するために、以下のような工夫をしています。
1.信頼性の高い情報源からの情報を参照しています。
私は、信頼できる情報源からの情報を参照して、最新かつ正確な情報を提供するようにしています。情報源には、学術論文、専門家の見解、公式ウェブサイトなどが含まれます。
2.関連する背景知識を理解しています。
私は、特定のトピックに関連する背景知識を理解しています。これにより、質問に適切に回答し、関連する情報を提供することができます。
3.論理的に分析し、正確で明確な言葉で回答します。
私は、質問を論理的に分析し、正確で明確な言葉で回答するようにしています。また、簡潔でわかりやすい回答を提供することにも注意しています。
4.継続的な学習と改善を行っています。
私は、継続的な学習と改善を行っています。新しい情報やトピックについて常に学び、常に自分自身を改善するように努めています。
これらの方法を使用して、私は正確で信頼性の高い回答を提供することを目指しています。ただし、私が誤った回答を提供した場合は、いつでも修正するようにしています。
このように「理解しています」と堂々と嘘をつくこともあります(笑)。回答を読む人間が「正しいと感じる確率の高い文章のパ-ツ」を集めて、文章として整えているだけのはずなので、さすがに「理解」はしてません。同じ質問をすると、微妙に異なった回答が返ってきます。「確率」でパーツを拾ってきて、「整頓」しているからだと思います。
しかし、用途を選べば、非常に有益なツールであることは間違いなさそうですので、コンテンツのネタ作り、広告クリエイティブ作り、チェックリスト作り、文章のドラフト作り、プログラムのプロトバージョン作りなど、使える場面はたくさんありそうです。
ChatGPTに聞いてみた「M&A売り主の心配事」
ChatGPTの回答
こんな風に聞いてみました。
M&Aの売主(Seller)が一般に心配することを10個挙げてください
回答はこんな感じで返ってきました。
- 1.評価額の低下:
売主は、M&Aが進行するにつれて、評価額が低下することを心配するかもしれません。これは、買い手が提出したオファーが低い場合、またはマーケット環境が変化し、評価額が低下する場合に起こります。 - 2.取引の中断:
M&Aプロセスは、予期しない問題によって中断されることがあります。売主は、このようなリスクについて心配するかもしれません。この場合、売主は、買い手の検証手続きが不十分であったり、買い手の財務的な問題が原因で中断することがあります。 - 3.機密性の侵害:
売主は、取引が機密情報を含む場合、情報漏洩のリスクを心配するかもしれません。これは、買い手や第三者が機密情報を公開することによって発生する可能性があります。 - 4.ブランドイメージの悪影響:
売主は、取引が自社ブランドイメージに悪影響を与える可能性があることを心配するかもしれません。これは、買い手が問題を抱えた企業であった場合、または買収後に変更が行われた場合に起こります。 - 5.従業員の影響:
M&Aプロセスが従業員に与える影響について、売主は心配するかもしれません。これは、買い手が従業員を解雇することがあるためです。また、買収後の文化の変化によって、従業員が離職する可能性があります。 - 6.法的問題:
売主は、M&Aが法的問題を引き起こす可能性があることを心配するかもしれません。これは、契約の違反、知的財産権の問題、または不正行為の問題が原因で起こることがあります。 - 7.税金:
売主は、取引が課税されることを心配するかもしれません。これは、取引の構造によって異なりますが、課税される可能性があるためです。 - 8.資金の流動性:
売主は、取引が完了するまでの間、資金の流動性について心配するかもしれません。M&Aプロセスには多くの時間がかかるため、売主が即座に現金を得ることができない場合があります。 - 9.規制当局の承認:
売主は、M&A取引が規制当局によって承認されない可能性があることを心配するかもしれません。これは、反トラスト法や国家安全保障上の問題に関連している場合があります。 - 10.事業の将来:
売主は、取引後の事業の将来について心配するかもしれません。買い手が事業を変更したり、運営方法を変更したりする場合、売主の影響力が減少する可能性があります。また、売主が事業を離れた後、事業が継続的に成長するかどうかについても心配するかもしれません。
ChatGPTの回答の検証
1.評価額の低下
- 1.評価額の低下:
売主は、M&Aが進行するにつれて、評価額が低下することを心配するかもしれません。これは、買い手が提出したオファーが低い場合、またはマーケット環境が変化し、評価額が低下する場合に起こります。
M&A売主の心配事のトップは、やはりというか「評価額」でした。大事な大事な会社がいくらで評価されるのかは、ある意味でオーナー社長の人生の通信簿みたいなものですから当然ですね。
ChatGPTの回答は、評価額が低いという「水準」の話だけではなく、プロセス中の低下という「変動」について言及している点で秀逸です。
最初だけ高い「水準」を提示しておきながら、後から合理的な理由もなしに安い価格に「変動」されては売主としては金融詐欺に遭ったような気になるはずです。この手口は決しても珍しいものではないことをChatGPTが暗に示している点でも非常に有益です。買主にとっても、効率重視のM&A助言会社(特に両手報酬タイプ)にとっても、これで万事OKなのです。安く買えた買主は変動分丸儲けですし、安く買えた買主から成功報酬をたんまり貰えばよいからです。
M&Aの評価額は、色々なタイミングで、色々な評価者が実施します。
きわめて典型的なプロセス、つまり、売主が、①M&A助言会社に相談し、②M&A助言会社が買主候補に打診して、③買主候補が真剣にDDやバリュエーションを実施し、④最終契約をまとめ、⑤クロージングを迎えるという流れとすれば、実に、①、②、③、④で金額が変化する可能性があるわけですね。
そして、①ではM&A助言会社が契約を獲得するために根拠もなく高めの金額を提示し、その後ガタガタと評価額が落ちていくという「変動」を賢明なM&A売り主は心配するのだ、と言っています。
これを回避するにはどうしたらよいでしょうか?
形式面と実質面の両面から心配を払拭するとよいでしょう。
まず形式面では、買い主の味方((特定の)買い主から(継続的に)報酬を貰う立場のM&A助言会社)を雇わないこと、でしょう。
次に実質面では、①や②の初期的段階の評価額をクロージングまで守ってもらう、できれば状況次第で①や②を上回る評価額を獲得するために、M&A助言会社としてどういうサポートをし、どういう特有の工夫をしているのか、をしっかりとヒアリングして比較すること、でしょう。
2.取引の中断
2.取引の中断:
M&Aプロセスは、予期しない問題によって中断されることがあります。売主は、このようなリスクについて心配するかもしれません。この場合、売主は、買い手の検証手続きが不十分であったり、買い手の財務的な問題が原因で中断することがあります。
個人的には意外な気がしました。実は、1位か2位には「相手がみつかるのか(売れるのか)」がランクインすると思っていたからです。
しかし、この「取引中断リスク」を甘く見てはいけません。
売却対象会社の詳細、買い主企業の詳細について、しっかり理解した上で深いコミュニケーションを促進してくれるようなM&A助言会社が担当していないと、プロセスが進めば進むほど、大きな誤解の存在が明るみに出て、「やっぱりいらない」という判断に傾くことは実際に少なくないと思います。
また、自身の時間効率のことばかり考えているM&A助言会社に勧められるがまま、買主企業を絞り込んだ結果、結局、買主企業は買収資金が不足していることが判明、売り主としては、価格を妥協するとか、キャッシュではなく買主企業の株式で我慢する、なんて事態も決して珍しくありません。
ChatGPTの回答では触れられていませんが、買主候補企業が実は不誠実であることが判明した場合、勇気をもって「売り主から交渉中断」を申し入れるべきケースもあります。
このような場合に、M&A助言会社がラウンド2での成功に向けて最善を尽くしてくれる誠実さを持っているのか、も大事なチェックポイントでしょう。
また、「取引中断リスク」が気にならない状況とは、すなわち「ほかにも買主候補がたくさんいる」状況です。これは、実は「良い交渉」ができていない可能性が高いのです。
つまり、たくさん寄ってくるということは、打診している価格レベルが安すぎる可能性が高いことを示しています。
本当に最高の条件を目指していたならば、せいぜい2~3社程度しか買主候補は残りません。取引中断リスクは大きくなります。取引中断リスクと価格リスクは表裏一体の関係にあると言っても過言ではないでしょう。
セルサイドFAのM&A助言のミッションとは、価格の高みを目指しつつ、取引を確実にまとめる、と言い換えることもできるでしょう。絶妙なバランスが要求されるわけです。
3. 機密性の侵害
3.機密性の侵害:
売主は、取引が機密情報を含む場合、情報漏洩のリスクを心配するかもしれません。これは、買い手や第三者が機密情報を公開することによって発生する可能性があります。
顧客情報、業務上のノウハウ、秘密にしている知的財産、特に新商品情報などは、M&A交渉で納得できる条件を引き出すためには積極的に開示すべき情報です。
しかし、M&Aの交渉相手には、競合企業が含まれるケースも多いですから、おいそれと無制限に情報開示をするべきではありません。また、買主企業の役員・従業員だけでなく、買主が雇用した弁護士、会計士、税理士、経営コンサルタントがもしかしたら漏洩することで利益を得るかもしれません(あってはならない事ですが)。買主企業を退職した役員・従業員が競合企業に有利な条件で転職するためのお土産替わりに持参するリスクだってゼロではないのです。
たしかに、機密保持契約等の最低限の対策を打つとはいえ、現実に機密が漏洩して、相手に補償を求めるとしても、証拠を集め、裁判で勝ち、支払請求するまでに、事業が大きな痛手を受けてしまっては、おそらく被害回復は不十分です。
100%確実に会社が売れるとは限りませんから、売れなかった場合のことも心配するのは当然ですし、売れたとしても経営者として会社に残りたいというケースの場合、機密漏洩を極力回避したいと思うのは当然です。
漏洩すると困る情報ほど、開示しないと公正な評価を得られない、という困った関係性が存在します。では、どうしましょう、ということになります。
この問題も、M&A助言会社ごとに大きな差があると思います。
一番数が多いと思われる件数重視のM&A仲介の場合、そもそも充実した情報開示をしませんから、逆に安心だったりします。しかし、アピール不足のため、せっかくのお宝を(実はM&A的にお宝であることに気づきもせず)二束三文で売ってしまうリスクも高くなります。
一方、品質重視のFAの場合、どのように高評価狙いと機密保護の両立を図るのか、はそれぞれの会社ごとに独自ノウハウがあると思います。担当者ごとの力量も、大きな差が生まれやすい領域でしょう。
ぜひ、いろいろなM&A助言会社に話を聞いてみてください。
4.ブランドイメージの悪影響
4.ブランドイメージの悪影響:
売主は、取引が自社ブランドイメージに悪影響を与える可能性があることを心配するかもしれません。これは、買い手が問題を抱えた企業であった場合、または買収後に変更が行われた場合に起こります。
買主企業が、法令違反をしているとか、会計不正をしているとか、顧客に不誠実な商いをしているとか、個人情報の大規模な漏洩をしたとか、いわゆる重大な不祥事を起こしたことがある、これから起こしそうな会社であって、そこに自分の会社を売るしかない状況に陥ったらどうしよう、ということでしょう。
これは、そもそも、そういう信用レベルの買主企業に打診したM&A助言会社の責任である可能性もあります。調査す
ればわかる場合、高い予見可能性がある場合には、M&A助言会社の責任と言ってよいと思います。
やはり、M&A助言会社は、M&A取引の成約を導くという重責を改めて強く認識し、過度の効率主義はクライントの利益を害する危険があることを肝に銘じるべきだと思います。問題が起きたら裁判すればよいとか、M&A保険でカバーされるなどの言い訳で逃げてはいけません。他人事ではなく自分事のように真剣に問題に向き合う姿勢が大事なのですね。
打診したある買主企業から強い関心が示されたとしても、その後の調査によって問題のある企業であることが判明したら、勇気をもってお断りする必要があるわけですから、M&A助言会社としては、「ここに売らない方が良い」「別の先は条件が少し低いがこっちにしましょう」とか「少し時間を置いて再度トライしましょう。時間を有効活用すればもっと良い条件を獲得できますよ」などと助言できないといけないと思います。
そういう意味でも、時間的に切迫してからM&Aにトライすると、こういう問題に遭遇した際に、選択肢が少なくなってしまいます。できるだけ早めに相談することが大事なのですね。
5.従業員の影響
5.従業員の影響:
M&Aプロセスが従業員に与える影響について、売主は心配するかもしれません。これは、買い手が従業員を解雇することがあるためです。また、買収後の文化の変化によって、従業員が離職する可能性があります。
会社売却後も希望する従業員が一人残らず継続して雇用されることを願うオーナー社長は非常に多いと思います。
もし、雇用の維持を強く願うのであれば、M&A助言会社に早い段階で注文を出すべきでしょう。「雇用継続を約束してくれる買主のみとしか交渉しない」と。
売主と買主の間で契約をすることで雇用継続の義務を買主に負わせることは可能です。しかし、未来永劫雇用継続の義務を課すことは不可能ですので、1年から2年程度が一般的ではないかと思います。問題は、この義務の期間が終了した後の話です。
買主企業の買収目的を正確に把握して、なぜ対象会社を買収するのか、従業員を解雇してその目的を達成できるのか、解雇した方が目的を達成しやすい事情はないか、などをできるだけ正確に把握したうえで合理的に判断するしかないでしょう。
成約さえすれば成功報酬が入ってくるM&A助言会社にとって、成約後の売主のニーズを充足するため、追加的な努力をする直接的なインセンティブはありません。これは、まさしく、インテグリティ(職業的誠実性)を具備しているか否かという問題となります。M&A助言を単なる「簡単に大金を稼げるマッチング業」と捉えるか、「企業と企業の結合により新たな価値を生み出す価値創造業」と捉えているか、の違いでもあります。
また、次のような視点も大事だと思います。
従業員の雇用を保護する必要の程度について、冷静に検討してますか?という視点です。
たしかに、自分だけ大金を手にして、従業員が大量解雇されたりすれば、良い気分はしないでしょう。つまり、嫌われたくないから従業員の雇用継続を過剰に要求してませんか?という視点です。
不当な解雇を回避する権利もあるでしょうが、退職や転職も、従業員の当然の権利です。
そもそも、日本の正社員の解雇は先進諸国の中でもかなり厳格に規制されています。簡単に解雇できるものではありません。
また、対象会社で勤務してきた従業員は、市場で求められるスキルを身に着けていると思いますか?
スキルを身に着けている従業員にとって対象会社がベストな場所と思いますか?
スキルが身についていないならこの会社で今後も働き続ける方が従業員にとって酷なのではないですか?
という視点も大事なのです。余計なお世話の可能性だってあるのですから。
売主としては、盲目的に従業員の雇用継続を求めるべきか、を冷静に検討すべきでしょう。
一般的に、同業の度合いが高い買主企業ほど、買収で欲しがるリソースは一部にとどまり(大半は買主企業が既に持っている)、異業種の度合いが高い買い主企業ほど、欲しくないリソースはない、という関係にあります。
つまり、顧客だけ欲しい他は不要、という同業の買主に売ると、従業員の大半は価値を生み出さないコストと見做されてしまいますから、当然、大半の従業員がリストラ対象になるでしょう。逆に、全部ないと困るという異業種、例えば成長重視の投資ファンドに売れば、従業員に辞められると困るので、雇用継続を本当に守ってくれる可能性が高いと言えます。
同業の度合いが高いほど、無能なM&A助言会社でも成約に導くことが容易となります。つまり、無能なM&A助言会社を選ぶと、同業を重視されやすくなり、従業員は解雇されやすいという関係にある、大量解雇が嫌なら安く売りなさい、という安売りパターンに陥ります。これがM&A助言会社にとっては一番簡単確実な成約方法です。
バリュエーションとの関係も重要です。従業員を解雇することで浮く分が株式価値に算入されているとすれば、雇用継続を求めると株式価値は下がります。お金で従業員の生活の安定を売ったのか?というと、その通りという状況ですね。
インテグリティを具備するM&A助言会社と早めに相談して、雇用維持の程度を含む「どうしても譲れない一線」を制約条件として設定しておくことで、現実的に達成可能な最大満足を得られるゴールを設定することが可能になると思います。
6.法的問題
6.法的問題:
売主は、M&Aが法的問題を引き起こす可能性があることを心配するかもしれません。これは、契約の違反、知的財産権の問題、または不正行為の問題が原因で起こることがあります。
ChatGPTの回答が抽象的な表現なので、もう少し具体的に聞いてみたいところです。ChatGPTは、まるで人間を相手にしているみたいに、前の回答の続きとして質問をすることができますので。
こんな風に聞き返してみました。
6.法的問題について、誰の契約の違反なのか、どこの知的財産権の問題なのか、誰の不正行為の問題なのか、について、もう少し具体的に教えてください。
M&Aの過程で法的問題が発生する可能性があります。以下は、一般的な問題の例です。
- ■契約違反:
売主が契約を違反している場合、買い手は取引後にその責任を負う可能性があります。例えば、売主が製品に対する保証期間を守らず、買い手がその後製品に問題が発生した場合、買い手は製品を修理するための費用を負担する必要があります。 - ■知的財産権の問題:
売主が知的財産権に関する問題を抱えている場合、買い手はその責任を負う可能性があります。例えば、売主が特許を侵害している場合、買い手は特許権者から損害賠償を請求される可能性があります。 - ■不正行為の問題:
売主が不正行為を行っている場合、買い手は取引後にその責任を負う可能性があります。例えば、売主が税務申告を不正に行っていた場合、買い手はその税金の支払いを負担する必要があります。
これらの問題は、デューデリジェンス(事前調査)の過程で特定される場合があります。取引当事者は、法的な問題がある場合、それらを解決するための方法を検討する必要があります。また、取引の条件に関する契約書を適切に作成することが重要です。契約書は、売買代金の支払い方法、保証期間、法的責任などを明確に定義する必要があります。
なるほど、売主サイドの法的問題が、M&A取引の途中または後で発覚し、売主がその責任を負うことになることを、売主が心配することがある、ということですね。
例えば、弊社のように買主候補への提案を開始する前段階で、丁寧に分析するならば、M&A取引上問題になりうる大半の法的問題を具体的に把握できますので、上記のように買主によるDDで初めて発覚するという体たらくには陥らないのですが、大半のM&A助言会社が採用する効率重視のM&Aプロセスでは、丁寧な分析を経ずにプロセスを前に進めようとしますから、たしかにそういう深刻な問題が、相手が決まってからようやく認識できる、という事態も珍しくないと思います。
いずれも、法律を守らないことで利益を得ていたわけですから、それ相応のペナルティは覚悟すべきでしょうが、過大なペナルティを払うことのないよう、最低限のペナルティで収まるよう、事前に対策をしておくべきです。
買主サイドとしては、ある意味で絶好のディスカウント交渉のチャンスですので、売主が疲弊した頃合いで、ガツンと評価額を下げてくるかもしれません。そうなってしまうと、一から相手探しをし直すか、無念の妥協をするかの二択となります。
このような法的問題は、M&A取引では「欠陥」と呼ばれます。買主は、買収後にこの「欠陥」を「治癒」する必要があり、望む状態に治癒できるかどうかのリスク、治癒するためのコストという不確実な負担を負うことになりますから、買収の検討を中断したり、ディスカウントするのは合理的です。
このようなことのないように、どう準備しておくか、が大事なのです。
7.税金
7.税金:
売主は、取引が課税されることを心配するかもしれません。これは、取引の構造によって異なりますが、課税される可能性があるためです。
これは、もちろん課税されます(笑)。無税で取引できるケースもありますが例外的で、第三者間でキャッシュのやり取りがあれば課税対象になると考えておきましょう。
つまり、株式譲渡(株式とキャッシュを交換する取引)であれば、売主が個人なら所得税、法人なら法人税等が課税されます。
おそらくChatGPTは、特に大規模なM&A取引で利用される新規性の高いM&Aストラクチャーが、どのような税務ポジションを形成するかについて、売主は心配するということを言いたいのでしょう。
実際、日本の中堅中小M&Aでも、複雑なストラクチャーを駆使することで、売主と買主の双方のニーズを実現しやすくなるケースは多いですから、弊社でもできる限り工夫してストラクチャーを考案することがありますし、その際の税務ポジションについては細心の注意を払っています。
そもそも、専門的なM&A助言サービスを提供する人がFA(Financial Advisor)と呼ばれるのは、株式譲渡や事業譲渡といった単純なスキーム以外にも、オーダーメイドでクライアントの要求に応えられるメニューを臨機応変にご用意するからです。その際の会計や税務上のインパクトを試算し、バリュエーションにどう影響するかを計算できるからFinancial Advisorなのです。
むしろ、多くの中堅中小M&Aの売主が心配する税金の問題は、今までの節税がM&A後に税務当局から指摘され、それが売主にどう責任が及ぶのか、でしょう。「6.不正行為の問題」に含まれているようですが。
これは、最終契約に定められるレプワラ(表明保証)とインデム(補償)によって、会社を売るまでの期間に生じた原因に起因する追徴に応じる責任は売主に帰属し、売った後の責任は買主に帰属する、という形で整理されることが多いですから、その追徴が生じる可能性と金額を最小限に抑制するため、どのような準備や交渉をするか、によって、ものすごい差が生じる場合があります。
もし、節税を頑張ってきたというオーナーさんは、M&A助言会社選びの際、慎重に比較すべきでしょう。最終の手取りが10倍違うなんてこともザラにありえる世界ですので。
8.資金の流動性
8.資金の流動性:
売主は、取引が完了するまでの間、資金の流動性について心配するかもしれません。M&Aプロセスには多くの時間がかかるため、売主が即座に現金を得ることができない場合があります。
これは、典型的には、グループ親企業が子会社(または一部事業)を資金捻出のためにM&Aで売却するケースのことでしょう。
この場合、いつまでにいくらM&Aで資金を作る必要があるかをM&A助言会社に正確に伝え、確実に期限と金額を守った形で成約に導いてくれそうな先と契約することが重要です。
ただし、M&A取引は相手がいる取引であり、相手にも色々な事情がありますから、100%確実に期限と金額を守ることはできないケースもあるでしょう。
期限が重要なら金額面で妥協するとか、金額が重要なら他の資金調達手段も並行して検討しておくとのバックアッププランも大事になると思います。誠実なM&A助言会社であれば、バックアッププランについてもちゃんと相談に乗ってくれます。
この心配事に限らず、少し余裕をもってM&Aの相談や準備を開始するのが非常に大事だと思います。時間を優先すると買主から「足許を見られます」ので。
9.規制当局の承認
9.規制当局の承認:
売主は、M&A取引が規制当局によって承認されない可能性があることを心配するかもしれません。これは、反トラスト法や国家安全保障上の問題に関連している場合があります。
独占禁止法や外資規制の対象となり、当局から取引の承認が出ない場合があることを指しているのでしょう。
ほぼすべての中堅中小企業のM&Aでは影響がありません。
しかし、例えば、海外子会社を売却するケースなどでは、国際政治の状況次第では、競争環境維持という名目で、所在国がなかなか承認しない等の妨害に遭うことはありえますから、事業内容を精査した上で適切なプロセスを踏むことが重要です。所在国の外資規制もさることながら、それを回避するためのストラクチャーがどのような税務ポジションを形成するかも非常に重要な論点となります。
いずれにしても、早めの相談によって選択肢を狭めることのないようにすることが大事です。
10.事業の将来
10.事業の将来:
売主は、取引後の事業の将来について心配するかもしれません。買い手が事業を変更したり、運営方法を変更したりする場合、売主の影響力が減少する可能性があります。また、売主が事業を離れた後、事業が継続的に成長するかどうかについても心配するかもしれません。
特に売主が創業オーナー社長であれば、手塩に育てた対象会社の行く末を気にしない方はいないと思います。そうでなくとも、やはり非常に気になるのがノーマルだと思います。
特に、売却後も経営に携わるケースでは、買主との間で、当初の約束通りの事業展開が許容されるのかは心配せざるをえないでしょう。そもそも、(マジョリティ売却)M&A後は、買主企業が新しいオーナーになりますから、取締役を選任・解任できる立場になります。買主企業サイドでも時間の経過とともに経営戦略はアップデートされるでしょうから、永久に当初の約束が守られると信じることはできないのです。
この重大問題に対する対策としては、いくつか考えられますが、状況次第で適用できる/できないが変わってきます。
売った以上、買った人の自由になる、はある意味で原理原則ですから、そこに売主から買主に制約を課すのであれば、その自由を損なう分だけ価格を下げてあげなければ、公正取引とは言えなくなるでしょう。
買主企業が今後どのような経営戦略を採用し、そのグランドデザインの中で、対象会社がどのように位置付けられそうかについては、買主企業にヒアリングするとともに、M&A助言会社に見解を聞いてみることをお勧めします。つまり、この心配事は、相手選び次第ということです。安易に買ってくれそうな先を優先するか、高い価格を優先するか、望みの経営の方向性が期待できそうな先を優先するか、色々な視点で買主候補をリストアップして、最適な先に売却することで心配を最小化できると思います。
買主候補を探索・選定するプロセスで、どういう基準を設けるか、が大事なのだと思います。
まとめ
以上のようにChatGPTを用いることで、検討の手がかりを得ることができそうです。
回答内容は完全なものではありませんが、それなりのクオリティです。M&A会社売却は非常に個別性の高い取引ですから、たったの10個の心配事で売主の心配事がすべて網羅されるわけはありません。
しかし、M&Aの検討開始時点、M&A助言会社の選定時点、M&Aプロセス中の経営判断、M&A取引条件の交渉中、M&A取引後など、色々なタイミングで利用してみると、落とし穴を事前に回避できるかもしれませんよ。
無料のセカンドオピニオンとも言えるでしょう。ぜひ、活用してみてください。M&A助言会社が誠実か能力を備えているか等を識別するためにも有益でしょう。M&A助言会社に質問するリストを作成し、その回答が妥当かどうかテストすればよいわけですので。ChatGPTは、所詮はインターネット上に存在するテキスト情報を組み合わせたものに過ぎません。優れたM&A助言会社は、自社のノウハウをすべてインターネットに公開しませんから、ChatGPT以上の回答ができるか、その根拠を明瞭に説明できるか、によって簡単にテストできてしまうのです。