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他人事M&Aアドバイザーと自分事M&Aアドバイザー

2023/3/20

M&A会社売却時の心構え

M&Aのチーム管理

M&Aの関係者

他人事M&Aアドバイザーと自分事M&Aアドバイザー

M&Aアドバイザーは、金融サービスの一種と整理するのが一般的でしょうから、M&Aアドバイザーのレベニューモデルは「仲介モデル(第三者の間に立ってつなぐ、その目的が成就しやすいよう、付加価値サービスを加えることもある」と言えます。


レベニューモデルが「仲介モデル」の事業としては、金融全般(融資、証券売買、投資顧問、M&A他)、人材サービス、商社、マッチングサイト等たくさん存在しますが、ある程度成熟した経済では、「アベイラブルな場所と要素をつなぐという価値を提供するサービス」が増えていくのは既定路線と言えます。問題は、単なるマッチング屋か、それともプラス付加価値の提供があるのか、です。単なるマッチングは、とにかく大量マッチング処理ができれば、付加価値を一切提供していなくても成功事例が確率的に自動発生しますから、集客のみに全力を投じ、付加価値提供のための地道な努力を嫌う会社が生まれやすいという性質があります。低確率でも成功事例が出たら、「うちのおかげで成功した」と喧伝すればよいわけですね。


しかし、いずれはそれが市場にバレてしまうので、腰を据えて付加価値提供のための努力をする会社も一定数生まれ、そういう会社がリピート客に支持され大きく発展する、というのが、通常のリピート商売のケースです。


しかし、一生に一度しか利用しないサービスで、さらに機密保持義務を負うM&A助言サービスのようなケースでは、市場に実態がバレにくいため、すかすかサービスのマッチング屋が淘汰されず生き残りやすいという性質があると言えるでしょう。これから大事な会社を売ろうと考えているオーナーにとって、非常に重要な視点ではないでしょうか。


とにもかくにも、サービス利用者が、賢明に、事前に徹底的に比較すべきなのが、M&A助言サービスと言えるのです。補助金を制度化した中小M&Aガイドラインが、皮肉なことに、M&A助言を軽く見るにわか業者を吸い寄せてしまった以上、表面的なイメージだけで決めず、その実力を見極めることがますます重要になってきています。


結局、役に立つM&Aアドバイザーかどうかを分ける法則を1つ出してみると、「当事者意識を持っているかどうかだと思います。


単なる中抜き業者なのか、道を究めたプロなのかは、結局のところ「当事者意識」を持ち、日々学び、仕事に打ち込んでいるかどうかで決まります。


単なる中抜き業者は、他人事M&Aアドバイザーと言えるでしょう。イメージとしてはこんな感じ(下の画像)です。中抜き業者を楽に儲けさせてあげるためにクライアントがリスクを取ることになります。運用資産を減らしたのに手数料を奪っていく投資アドバイザーみたいなものです。




道を究めたプロは、自分事M&Aアドバイザーと言え、イメージとしてはこんな感じ(下の画像)。クライアントの満足を高めるために道を究めたプロが努力するわけです。当然、こっちが望ましいですね。事前の期待以上に資産を殖やしてくれた投資アドバイザーみたいなものです。



M&Aでは色々なポジションが存在し、そのポジションごとに欲望や恐怖を生み出すメカニズムが存在し、悩みを抱える生身の人間が存在します。



例えば、セルサイドFAの場合、「当事者意識」をもって、どのように考えそうか熟慮すべき対象となる人たちは次のようにたくさん存在します。

  • ■ 売却する対象会社のオーナー(売り主)
  • ■ 売却する対象会社の経営者
  • ■ 売却する対象会社の役員・幹部社員
  • ■ 売却する対象会社の一般従業員
  • ■ 売却する対象会社の顧客
  • ■ 売却する対象会社の取引先企業や関係者
  • ■ 買い主企業の経営者(買い主)
  • ■ 買い主企業の資金提供者(銀行等)
  • ■ 買い主企業のPMI(引継ぎ・統合作業)の担当者
  • ■ 買い主企業(グループ)の中でシナジー発揮を期待する役員・幹部社員
  • ■ 買い主企業に雇われるDDベンダー(会計士・税理士・弁護士・経営コンサルタント等)
  • ■ 買い主企業に雇われる株式価値算定業者(会計士等)
  • ■ 買い主に就くM&Aアドバイザー(バイサイドFA)


当事者意識を持つ」というのは言うのは簡単ですが、実行するには覚悟と能力が不可欠なんですね。
しかし、それから逃げてしまっては、価値のある助言(アドバイス)などできるわけがないのです。



対象会社において今までに起きた事実、ついさっき発生した事実、これから起きそうな事実、これらについて、各ポジションの当事者になったつもりで、売り主の利益につながるかどうか、損害を最小化できるかシミュレーションして、適切な対処方法を考案・助言し、対処方法の実行サポートをしてくれるのが優れたセルサイドFAです。



当事者意識」を持つセルサイドFAは、狙いを定めた優れた買い主を高い確率で口説き落とします。なぜそれが可能かと言えば、買い主にとっても満足できる状況を作り出しているから、「当事者意識」を持ち、魅力を増し、懸念を減らし、それらを適時適切に情報伝達しているから、です。



自分事で仕事をするM&A道を究めたプロに依頼した方が、望む成果が得やすいわけです。



どういうM&Aアドバイザーが「当事者意識」を持っているのか、今回の記事で判別できるようになっていただければと思います。


M&Aアドバイザーには、いくつかの呼び方があります。

  • 1.M&A助言業者(M&Aアドバイザー)
  • 2.ファイナンシャル・アドバイザー(財務アドバイザー、略称FA)
  • 3.M&A仲介業者
  • 4.ビジネス・ブローカー(略称BB)

今回の記事では、これらの違いを改めて整理します。



そして、「当事者意識」が欠如する、または具備される背景、及び「当事者意識」の欠如が生む悲劇、「当事者意識」の具備が生むベネフィットについても整理したいと思います。



当事者意識」を持つM&Aアドバイザーかどうか、雇う前に判別しないと取り返しがつかなくなりますから、雇う前にどうやってチェックすればよいかについてもヒントを記載したいと思います。

1.M&Aアドバイザーの呼称とその違い

1-1.M&A助言業者(M&Aアドバイザー)

狭義のM&Aアドバイザーという呼称は、1-2.FAのうちの専業FAと1-3.M&A仲介業者のうちの一部(優良M&A仲介)をまとめた呼び方と言ってよいでしょう。


広義のM&Aアドバイザーという呼称は、2.FA(臨時FA含む)と3.M&A仲介業者の全て、さらに4.ビジネスブローカーを含みます。


この呼び方だけですと、「当事者意識」が具備されているのか、欠如しているのか、役に立つのかどうか、さっぱりわかりません。

1-2.ファイナンシャル・アドバイザー(財務アドバイザー、略称FA)


そもそも、欧米では「M&Aアドバイザーと言えば、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)」の事を指します。
ファイナンシャル・アドバイザー(FA、財務アドバイザー)という呼び方は、リーガル・アドバイザー(LA、法務アドバイザー)との対比表現にすぎず、法務しか担当しない弁護士に対し、財務「を含む」M&A関連全般に関してクライアントのために働くのが財務アドバイザー、と理解してもらえると、本来のFAの役割を理解してもらいやすいかと思います。



財務アドバイザー(FA)だけど、社内にM&Aに知見の深い弁護士も在籍していて、そこらへんの法律事務所よりも専門的なM&A法務サービスを受けられるケースもあるくらいです。経営コンサルタントや起業の経験を積んだうえでFAの門を叩くケースも多く、事業についての知見が深い人が多いのもFAの特徴でしょう。



つまり、FAの最低限の仕事としては、事業全般と財務・税務・法務に関する深い理解、それを元にした企業価値評価(バリュエーション)、クライアントニーズを実現しうるM&Aの相手の探索、ストラクチャーの考案、開示資料の作成、および案件を進めるための各種手続きの執行(エグゼキューション)といったところになります。



「あんた、本当によくうちの会社の事わかってくれてるね。」「実はうちの会社〇〇なんだよね。これってM&A取引にとってどうなのかな?」



クライアントから深い信頼を得なければ、事業や財務等に関して深い理解を得ることができませんから、優れたFAは、本音の相談、そこから始まる深い情報収集が極めて大きな価値を秘めていることを知っています。そのため、強い「当事者意識」を備え、最重要ミッションとして「クライアントからの信頼獲得」を挙げます。



当事者意識」を持ち、クライアントの利益に忠実に仕事をするには、自動的にハードワークになりますから、1人の担当者が同時に何件もハシゴすることはありません。



欧米でM&Aアドバイザー(= FA)になるためには、幅広く高度な専門性を身に着ける必要があります。金融機関の仕事の中でも最難関と位置付けられるのがM&Aアドバイザー(FA)という仕事です。



注意したいのは、通常はM&A仲介業(簡易業務、件数重視、両手報酬)していながら、案件ごとに「FAもできます(片手報酬だけで我慢できます)」という業者(臨時FA)もいる点です。FA「専業」ではないので、中身はM&A仲介のまま、仕事内容はマッチング限定なので、結果の満足度は期待しにくいでしょう。



また、「悪貨は良貨を駆逐する」は、M&A業界でも観察されます。本来片手FAサービスしかできないはずの金融機関等でも、数年前は高いクオリティでサービス提供していたのに、今やM&A仲介業者(=BB業者)と同レベルで、マッチングしかしない、できない業者が増えています。形式的にはFAでも中身はBBという自称M&Aアドバイザーは場所を問わず増殖しています。



「特別早く売らずともよい」「少しの努力は必要と理解している」「できるだけ高く売りたい」というオーナーは、専業FA一択です。



当社の代表は、大手金融機関で働きながら公認会計士試験を突破した苦労人なのですが、彼が云うには「一流のM&Aアドバイザーになる苦労は、仕事しながら公認会計士になる苦労の10倍」とのことです。仕事しながら年間4000時間の学習が推奨される公認会計士試験の勉強をする事の10倍となると、とても2-3年で到達できるレベルではないはずです。



欧米では、FAとしての一人前を示すタイトル(ディレクター以上)で採用されるためには、最低7年の経験が必要とされているのも頷けます。

1-3.M&A仲介業者


日本でガラパゴス的に発展した特殊な形態がM&A仲介業者です。日本では10年前ごろを境に逆転していて「M&Aアドバイザーと言えばM&A仲介業者」になってしまっているのが現状です。



FAと異なり、M&A仲介業者は売り主・買い主の双方から報酬を受け取るため、「利益相反の構造問題」を抱えるとともに、「中立の立場から成約を目指す」というエクスキューズを使うケースが多いので、クライアントの利益に忠実な「助言(アドバイス)」はしようともせず、利害対立している両極のクライアントに価値のある助言をすることも不可能です。



成功ではなく成約のための、助言を装った誘導」をするのがM&A仲介業者と言えるでしょう。



表面上似ていても、行動は真逆になることが多いのが、FAとM&A仲介です。誠実なFAは「ここには売らない方が良い。なぜなら〇〇だから」と合理的根拠とともにクライアントに具体的に助言できますが、悪質なM&A仲介業者は「ここが最高の相手です。経験上間違いありません。」と言ってきます。合理的な根拠がないのが特徴です。わかってないので根拠を形成できません。合理的な根拠とは、ファクトとロジックに基づきますから、わかってない人は根拠を示すことができないのです。



M&A仲介業者は「当事者意識」が生まれにくい構造を抱えていると言えます。



そもそも日本では、誰でも簡単になれてしまうのがM&A仲介業者です。「当事者意識を持つ」「高度な専門性を蓄積する」「事業に関わる多くの経験を積む」という意欲も能力もない人が大半です。



当事者意識」がない以上、相手を見つけて「誘導」するだけ、つまり「マッチング」だけ、他の作業は雑務なので、メッセンジャーボーイに徹し、自分にとって大事な方(多くのケースでリピーターになりうる買い主)を向く、向いていても役には立たず、買い主にとっても重大事実を隠されたまま買わされる(騙される)リスクは残る、安値誘導のみに(買い主にとっての)価値がある、ということになります。売り主と買い主双方との間でトラブルが頻発するのも、こういう構造問題があるからでしょう。



すべてのM&A会社は、問題のないサービスを提供できるようになるための努力をしてから開業する選択もできたはずです。



片手報酬なのに高い専門性や誠実さを要求される専業FAを選ばなかった理由、専門性不要なのに両手報酬のM&A仲介を選んだ理由があるはずです。



M&A仲介業者を選択した理由は、ほぼ例外なく「効率的に金儲けできるから」であり、正当化する理屈が「小さな会社のM&Aでは両手で報酬を貰わないとビジネス的に成立しないから」です。



当事者意識」の当然の帰結として要求される「クライアントに忠実なハードワークと専門性の蓄積」は、所属するM&A会社の短期利益最大化方針に反するため、「そんな余計な事をしてる暇があったら、大量の案件を処理せよ、それをしたくないなら明日から来なくていいよ」と言われるはずです。



しかし、日本だけの特殊な形態とはいえ、これだけ発展したのにもなんらかの理由があるはずです。



楽して儲かる仕組み」は外部から資金を集めやすく、コツコツ頑張るFAでは不可能な規模で、広告等の集客コストを投入でき、人海戦術人材(テレアポ要員やWebマーケ担当者)を大量に雇用することで、M&A取引を大量にすばやく成立させる能力を高めやすく、その成約実績に釣られて数多くのオーナー社長がM&A仲介業者に依頼するという「循環」となっているからです。



事実、上場しているM&A会社はほぼ例外なくM&A仲介です。クライアント利益を実現する能力が優れているから、ではなく、案件を大量処理する能力が高いから、少ない株式出資で大きな利益を生み出すから、上場できているのです。上場時に新規株式発行することでさらに大規模な集客コストを負担でき、「循環」を大規模化できるわけですね。



当事者意識」がなく、ビジネスを深く理解しませんから、M&A取引の相手との間で深いディスカッションもすることは不可能です。しかし、そもそも簡易パターン計算式(年買法など)で会社の価値を決め打ちするので、深いディスカッションをする必要もない、とにかく早く大量に成約させることが目的なのがM&A仲介業者です。



つまり、「早く売りたい」「楽に売りたい」「安くても構わない(安い方が気が楽でよい)」というオーナーは、M&A仲介業者を積極的に選ぶべきです。FAは仕事に誇りを持ってますから、早・楽・安を頼んでもやってくれないリスクがあるからです。



「本当はFAに依頼したいけどサイズが小さい会社なので相手をしてくれない場合は消極的にM&A仲介業者を選ぶしかない」という残念な状況になります。サイズを大きくしてからFAに依頼する等の発想の転換も大事かもしれません。(弊社は、サイズは少し不足感があるとしても、売上・利益の増加基調をトレンド化させることができれば、公正価値での売却が可能になる、という発想で、売却前の総合的なコンサルティングを提供していますので、よろしければご検討ください。)

1-4.ビジネス・ブローカー(BB)


上記のM&A仲介業者のような業務範囲が限定的で付加価値の低い仕事を無制限に許容すると、潜在的な成長力を持つ優れた会社が、潜在能力を発掘されることもなく、最適な相手ではない相手に不当な条件で売られてしまい、売り主であるオーナーが大きな経済的損害を受ける危険がありますし、買い主企業にも不測の損害を負ってしまう危険が高まります。



そのため、欧米では、一定金額(例えば100万ドル未満、1億円未満)のサイズまでの案件だけ両手報酬のBB業者でも仲介することを許容し、それ以上のサイズの案件では、FA専業業者のみにサービス提供を許容するという形で、サイズによる棲み分け・線引きを設けているようです。



日本でM&Aアドバイザーと呼ばれる人の多く、特に中堅以下のサイズにおいては圧倒的多数が、M&A仲介業者でありますので、欧米ではM&Aアドバイザーと呼ばれません。ビジネス・ブローカー(BB)と呼ばれます。


ちなみに、面白い話として、社名に「M&A」という機微ワードを入れているのは、集客の効率重視(テレアポやDM)、クライアントや見込み客の迷惑を軽視した姿勢の表れですので、ほぼ例外なく、実はBB業者です。本物のM&Aアドバイザーの世界の暗黙の了解ですが、社名や組織名に「M&A」という機微ワードを入れるのは、ご法度なのです。名刺や封筒を見た秘書・総務担当の人が、社内で情報を拡散したりするリスクがあるからです。大手金融機関や投資銀行のM&Aアドバイザーは、企業情報部とか意味不明な組織名にしていますよ。



イメージとしては、レストラン1~2店舗を経営しているオーナーが頼るのがBB(日本ではM&A仲介)、レストラン5店舗以上を経営しているオーナーが頼るのが専業FA(M&Aアドバイザー)という感じでよいと思います。


事実、BB業者のターゲットは、不動産にスタッフ数名というケースが多いので、日本で不動産仲介をするための資格(宅建)に近い資格取得をBBに要求しているようです。



日本では、M&A仲介が引き起こすトラブルを問題視して、「中小M&Aガイドライン」というものが作られました。しかし、精読していただけばおわかりのとおり、これは「零細BBガイドライン」と名付けるのが実態に合っています。



事実、外資系投資銀行や一流のM&Aブティックハウス(当然にしてFA専業)の多くは、中小M&Aガイドラインを遵守する支援機関として登録すらしていません。BBじゃないから、100万円程度の補助金が関係ないからではないでしょうか。



これは零細案件でも案件化できるよう補助金を貰うための仕組みであって、超悪質な行為を禁止したもの(罰則は補助金が貰えなくなることのみ)にすぎないからです。中小M&Aガイドラインを遵守するのは簡単です。しかし、M&Aアドバイザーとしての能力を充足していることを証明するには、ガイドライン遵守だけではあまりにも大きな不足感があります。

2.「当事者意識」が欠如する背景と具備される背景


2-1.「当事者意識」が欠如する背景


大半のM&A仲介業者は実質的にBB業者であり、「当事者意識」など持つわけがないのですが、すべてのM&A仲介業者が「当事者意識」を持っていない、というわけでもないと思います。



しかし、圧倒的多数は「当事者意識」を持つ意思すらないし、持ちたいと思っても、準備をしてないので、そういうレベルで思考や行動をすることはできないはずです。



なぜ、「当事者意識」の欠如した自称M&Aアドバイザーが大量発生しているか、ですが、これには、M&A会社の問題、そこに採用される個人の問題、が絡み合っていると考えられます。



圧倒的多数のM&A助言会社は、その実態はBB業者ですので、BB業者の本質である、効率的な大量マッチングが、それと真っ向対立する「当事者意識」を、邪魔ものと見做すことになります。



投資銀行等で道を究めるプロのM&Aアドバイザーを目指したいなら、広範囲の専門性の身に着け、狭き門をくぐる必要があります。99%の人はその門をくぐることができません。



しかし、BBなら粘着性の高い営業力テレアポ耐久力などを証明できさえすれば、とりあえず採用してもらえますし、運が良ければ、最低の仕事の結果でも両手報酬なので、それなりの高額ボーナスを手に入れることができます。どんな人でも一攫千金の夢を見られる、一種のゴールドラッシュなのが、今の日本の中小零細M&A市場(=日本BB市場)なのです。



M&A助言という仕事にBB業者に入社してからで初めて触れた、という大半の人は、「当事者意識」の必要性や有用性を意識したことがないはずです。



そもそも、クライアントのために全力を尽くし喜んでもらいたい、ではなく、手っ取り早く稼ぎたい、が動機でM&A業界(BB業界)に入ってきた人は、「当事者意識」という発想すら浮かばないのではないでしょうか。

2-2.「当事者意識」が具備される背景


まず、「当事者意識」を持つということは、圧倒的に大変であるという事実を理解してください。


対象会社のホームページに書いてあることや会社案内の内容を読んで、決算書の売上・営業利益・純資産を見て、わかったふりをするだけでは、「当事者意識」を持って仕事をしたことにはなりません。



当事者意識」を持ってさまざまなポジションの人の立場にたって、調査し、分析し、経営課題に関するアドバイスをして、M&A戦略に反映し、開示先の関心事にフィットした形で見える化し、説明し、説得するのは、大きな労力が生じるのです。


当事者意識」を持つM&Aアドバイザーになるためには、まず、それを推奨し、許容してくれる環境に身を置くことが大前提となります。



当事者意識」を持つM&Aアドバイザーの仕事が長期的に利益になると信じるトップがいるM&A会社に身を置かなければ、目先の利益のための大量効率処理に終始せざるを得なくなります。



また、M&Aアドバイザリーという仕事の持つ社会的意義について、誇りを持ち、自分が精いっぱい努力して、クライアントに大きな幸福をもたらすことにやりがいを感じるタイプの個人であることも必要不可欠です。



当事者意識」は、勘違いレベルでは役に立ちません。「当事者意識」を持つには、M&A専門分野の専門家であるのは当然のことですが、売り主や買い主等のM&A取引の主要ポジションの人たちと近い知識・経験を自分も持っておくことが推奨されます。



バットを一度も振ったことがない人は、野球チームの優れたコーチになることはできません。優れたコーチになるために必ずしもトップ選手であった経歴は不要でしょうが、少なくともバットを振る技術やフィジカルについて徹底的に考え抜いて自分でも試した蓄積が「当事者意識」として開花するはずです。



そのため、(とくに欧米で)優れたM&Aアドバイザーになるために推奨される道筋には、MBAや公認会計士等の関連する高度な知識の習得に加え、自分でビジネスアイデアを考案し、起業し、家賃・人件費・広告費を支払い、システム開発をしたり、マーケティングで苦労を重ね、確定申告・納税をして、資金調達をする、といったリアルな経営経験を持つこと、が含まれるのです。



中堅中小零細M&Aにおける売り主の多くは、オーナーであるとともに社長でもあります。つまり、経営のプロです。そのプロに「経営の結果である企業価値を実現化させるためのアドバイス」をするのがM&Aアドバイザーです。



プロは当然プライドを持ってますから、プロに「こいつ、やるな」と思ってもらわないと、何を言っても耳を傾けてくれません。



ゴルフのレッスンプロがツアープロにアドバイスする、みたいな関係です。ツアープロが自分で気づかない癖を見抜き、ツアープロが一目置く球筋で打つから、ツアープロもレッスンプロの言葉に耳を傾けてくれるのです。



プロとして生き抜く辛さ、トップの孤独、成功した時の喜びを共有できる真のパートナーだからこそ、本音で相談してくれる、という関係です。完全なるサラリーマンだとなかなかこの境地に達することはできません。

3.「当事者意識」が欠如することによる悲劇と具備が生むベネフィット


3-1.「当事者意識」が欠如することによる悲劇


当事者意識」が欠けた自称M&Aアドバイザーには、誰も本音で相談しないでしょう。私ならそうします。大事な事は様子を見ながら話しますし、自分の損になるかもしれない事実は隠してしまうかもしれません。もしかしたら自分の得になるかもしれないことも全然理解してくれそうもなければ、話しても無駄なので話しません。



さらに、ほぼすべてのM&A売り主は、M&A初心者であって、そもそもM&A取引にとってプラスになりうるのか、マイナスになりうるのか、正確に判断できないのがノーマルです。まったくもって仕方ありません。個別性が高く、案件によっては非常に複雑な構造になりやすいのがM&A取引の持つ基本的な性質です。



つまり、勝手な思い込みで、アピールすべき事実を自分で意図的に隠してしまったり、ルーティンに埋没し頭の中に眠る価値あるアイデアを伝え忘れたり、対処しておけばよいだけの軽微な欠陥を放置したまま売却交渉を進めてしまうわけです。「当事者意識」を持つ優れたM&Aアドバイザーは、これらを引き出し、対処し、有効に活用する方法を考え抜きます。



M&A会社売却を成功させるには、売却対象会社の成長可能性などの「魅力」を十二分に引き出し、「リスク」についても万全に対処しておくか、容易に対処可能であることを説明し、買い主企業に正確に理解してもらうことが最低限必要です。



買い主企業の立場に立ってみれば、十分な情報開示がないのであれば、不測の損害リスクを考慮し、価格ディスカウント等の保険を打つに決まっています。



M&A交渉とは、すなわち「情報の精製と伝達」です。情報が洩れ、ズレていれば、望む成果は得られないのです。それを引き起こす最大の原因として、M&Aアドバイザーの「当事者意識の欠如」が挙げられるでしょう。そもそもわかってない人は、情報を精製することも伝達することもできないのです。



M&Aアドバイザー(セルサイドFA)に「当事者意識」がないと、売り主が本来受け取ることのできたはずの対価を得ることができないという悲劇が待っているのです。本来の最適な買主企業に提案されない等の残念な状況も生み出しますから、買い主企業側にとっても悲劇になります。



また、M&Aアドバイザー(バイサイドFA)に「当事者意識」がなくても、買い主は不測の損害を受けるリスクがあります。買い主は「当事者意識」のないバイサイドFAを本当の意味で信頼しませんから、売り主の心配に応じた適切なリアクションを買い主から引き出すことができず、案件がブレイク(破談)になるリスクが高まりますし、買収に成功しても買収目的からズレた対象会社を買収してしまった事を後から気づくかもしれません。

3-2.「当事者意識」が具備されることによるベネフィット


当事者意識」を持つM&Aアドバイザーが担当してくれた場合、「情報の精製と伝達」がスムーズに、かつ的確に実行される可能性が高まります。



売り主には、M&Aをする目的があります。買い主にもM&Aをする目的があります。同様に、できるだけ双方ともに避けたいリスクの危険も感じています。それらは、典型的なものもあれば、個性の強いものもあります。



間に立つM&Aアドバイザーによる、売り主と買い主双方のニーズ懸念を正確に理解した上での「情報の精製と伝達」によってのみ、クライアントのニーズを満たし、懸念を解消させることが可能なわけですが、それにはM&Aアドバイザーの「当事者意識」が必要不可欠なのです。



当事者意識」が生み出すベネフィットとは、売り主もハッピー、買い主もハッピーという望ましい状態に到達する可能性が大幅アップするという点です。



売り主にとってのハッピーとは、典型的には、価格が適正に評価される、安値売却を避けられる、が最大のものでしょうが、他にも引退希望のオーナー社長が希望通りのタイミング、引継ぎ負担感で引退できる、というニーズも典型的なものでしょう。経営を続けたい方の場合、希望通りの権限や処遇を確保できることが重要でしょう。対象会社の行く末が希望の方向に沿った形になりそうで、残る役員・従業員の将来に希望が持てる、というものも典型的です。ただし、希望は自由ですから、どんな些細な事でもM&Aアドバイザーに注文しておくとよいでしょう。



買い主にとってのハッピーとは、典型的には、適正価格の範囲内で買収できる、買収目的(成長やシナジー等)が達成できる、というニーズが挙げられます。余計なリスクや負担を背負わない、というのも重要でしょう。



また、M&Aの交渉プロセスは数日で完了するものではなく、通常数か月以上かかります。



そのプロセスの中で、売り主は、買い主候補者の中から最終的に1社を選び譲渡するのですが、その選考プロセスにおいて、最適と思われる買い主かどうかを判定するのが難しいケースは少なくありません。



売り主から見て、買い主企業が既知の会社であれば別ですが、多くのケースで初めて名前を聞いたという先も存在します。



M&Aアドバイザーが、買い主企業に関する情報を収集・分析することができなければ、売り主は確信をもって1社に絞り込むことができません。「当事者意識」が欠けていれば「情報の精製と伝達」が難しくなるからです。



多くのケースで、1社に絞り込むタイミングは、買い主がDDを実行する前の段階ですから、買い主は、売り主から提示された初期的開示資料セルサイドFAを通じ提供された情報及び自ら獲得した情報から、意向表明書(LOI)によって条件提示をし、受け取った売り主は、それを基礎に1社に絞り込むわけです。



ここで重要なのが、意向表明書の「確からしさ」です。



意向表明書は、DDプロセスという企業精査の前段階で提示されますから、意向表明書は法的拘束力のないものであるのが通常です。つまり、「DDで発見された新事実」を合理的根拠として、意向表明書で提示した条件は反故にされる危険が内包されています。意図的にだらだらと長期間DDを実施して、売り主を疲弊させたうえで、弁護士等を通じ、意味不明な理由しか示さず、値段大幅ダウン、という手を打つ悪質な買い主も残念ながら存在します。



しかし、セルサイドFAが、万全の初期的情報開示をしていれば、DDプロセスでネガティブな情報が発見されることもなくなりますし、買い主の誠実性を様々な方法で事前チェックしてくれるのであれば、意向表明書の「確からしさ」は非常に高いと評価でき、安心して1社を選ぶことができるでしょう。


多数のM&A会社を比較してから弊社にご依頼いただいたクライアント様が、SCAを選んでよかった、と思っていただけたシーンの1つが、こういうシーンのようです。比較時点では「こんなに不安が募るとは思わなかった」そうですが、「安心して決断することができた」とおっしゃっていただくことがしばしばです。こういうお言葉をいただけた瞬間、「丁寧な仕事が報われた」とうれしくなってしまいます。



つまり、「当事者意識」をもつM&Aアドバイザーを起用するこということは、M&A交渉の本質である「情報の精製と伝達」のクオリティが格段に向上することを通じ、納得できるM&A交渉プロセスを経ることができ、その結果もより満足のいくものになる可能性が劇的に高まる、ということを意味します。



「当事者意識」をもつM&Aアドバイザーは、1件1件にコミットし、激務をこなしますので、サービスの無料提供はせず、通常、着手金などの最低限のコストが発生します。



はたして数百万円程度のコストと、上記のベネフィットを比較して、どちらが大きいかは、売り主オーナーの置かれる状況によって変わるでしょうから、完全成功報酬=無料業者(ほぼ全てBB業者)にするか、着手金が必要な本物のM&Aアドバイザーにするか、冷静に検討して、選べばよいと考えます(ちなみに、着手金が必要なら本物のM&Aアドバイザー、という事では全然ありませんのでご注意を。)



常にベネフィットの方がコストより大きいとは限りません。しかし、一定のサイズがある会社を、多少の努力をしてでも好条件で売り、実現可能な最大の満足を得たいと考えるなら、おそらくベネフィットの方が圧倒的に大きいはずです。BB業者に任せたときの想定売却額(=表面的な財務データのみを基礎とする年買法等)が、本物のM&Aアドバイザーの想定売却額(ビジネスの潜在価値を反映したDCF法やEBITDA倍率法等)の数分の一というお粗末事態は頻繁に発生していますので。

4.「当事者意識」を具備しているかどうかを判定する方法


大量効率処理を経営目標に掲げるM&A会社は、(人件費が安い)専門性のない人材を採用して短期間でそれらしく育成します。その際、ロールプレイによって、「こう聞かれたらこう答える」を反復練習する会社も多くなっているようです。



つまり、みんなが一様に考えるような想定しやすい質問に対しては、それらしい回答をして、まず契約を締結し、契約でがんじがらめにしてしまう、という戦法が採用されています。



逆に言えば、想定されにくい質問に対しては無防備なので、本当に「当事者意識」を具備して仕事をしているのかを判定できてしまうわけです。



個別具体的な経営課題や専門性の高い分野の懸念事項等について、M&A売却で成功するためにはどういう相手、どういう方法で売るのが良いかを即答できるか、アドバイスが的確で正しいか、答えを隠し持ちながらわざと聞いてみて判定するという方法です。



圧倒的多数の自称M&Aアドバイザーは、短期成約してボーナスを貰うことしか考えていませんから、個別具体的な経営課題や専門性の高い領域については即答できず、「そういう問題は、弊社の会計士が後ほど」「顧問の弁護士が後ほど」「経験上、大丈夫です」など、わかりやすく逃げます。



しかし、M&A交渉の現場では、その瞬間、その場所で、即答で的確に、ファクトに基づき、ロジカルに説明して、相手の懸念を緩和し「ぜひ欲しい」と思わせなければなりませんから、「後ほど」は、高みを目指すことを放棄しているのと同義です。



また、「誘導尋問」という手法で「当事者意識」を持っているのかを判定する方法もあります。



多くの中抜き業者タイプは、早く・楽にM&A案件を成約させる方向に誘導したいがため、ロールプレイを反復練習しています。売り主オーナーご自身が「早く・楽にM&A案件を成約させることが一番大事」であると思っているかのように振る舞い、「丁寧に・頑張って・高みを目指すM&Aプロセスを否定」するような発言をして、それに対する反応を探る、という方法です。



この方法は、単なる中抜き業者っぽいM&Aアドバイザーにも、道を究めたプロであろうと思われるM&Aアドバイザーにも有効です。



前者(中抜き業者)の場合、早く・楽に、というニーズを持っているかのような発言をしたら、その方針でいく場合のリスクや可能性を喪失するデメリットを説明してくれないはずです。そもそも、それしか知らないので、大事な事を確認されていることにも全く気付かないでしょう。



後者(道を究めたプロ)の場合、早く・楽に、というニーズに対し、一定の理解を示しながらも、その方針でいく場合のリスクや可能性を喪失するデメリットを丁寧に説明し、そうではない方針で進めた場合に到達できる可能性を説明してくれるはずです。



誠実なM&Aアドバイザーであれば、早く・楽に、がクライアントの真のニーズであると確認でき、他の目標に向けて努力するよりも総合的に満足度が高く(=頑張っても高く売れない)なると判断されれば、そうするための方法を考案し、もしくは自分以外の適した業者を紹介してくれるはずです。



M&A会社のトップの経歴を確認する方法も非常に有効です。



前者(中抜き業者)は、ほぼ間違いなく、投資銀行等でM&Aアドバイザーの経験を築いたことのない人がトップになっています。どこかの業界の営業マン、Webマーケティング担当、Web制作担当、BtoBネットワーク豊富な会社出身の場合、そもそも「当事者意識」をトップ自身が持っていませんから、そこの人材も中抜き(マッチング限定サービス)しかできない可能性が高いでしょう。



後者(道を究めたプロ)の場合、ほぼ間違いなく、投資銀行等でM&Aアドバイザーの経験を積み上げた上で独立している人がトップになっています。このようなタイプのトップは、M&A助言という幅広い領域で付加価値の高い助言をするには「当事者意識」が大前提であることを知っています。そういうトップが経営しているM&A会社の場合、人材にも「当事者意識」を持って、丁寧に分析し、ソリューションをクリエイトするなど、高付加価値サービスを提供するよう指導している可能性が高いでしょう。



M&Aアドバイザーの能力、誠実性などを簡単に推測できてしまう方法ですので、ぜひ活用してみてください。



Webマーケティングを実施されている法人のオーナー社長であればご存じと思いますが、Webコンサルタントと称する人の一定割合が、ほぼ詐欺レベルのサービス(とにかくロールプレイで磨いた説得話法を駆使して契約を取り、あとは運任せ、成功したときは自分のおかげ、失敗したら客か環境のせい)を提供しています。



このスタンスと、多くのM&A会社のスタンスはかなり似通っていると思っておいた方がよく、依頼する前に、懐疑的に検証しておくことは非常に重要なのです。



多くのM&A会社の成約率は10%程度です。特に中抜き業者の場合、大量受託、確率成約、実に90%は売れていないけれど、1000件受託できれば、100件の成約を導いた一流M&A会社と自称できてしまうのです。



そういう意味では、M&A会社の実力を確認するため、成約件数だけではなく、成約率(=成約件数÷受託件数)や成約の質(年買法などの簡易評価の何倍で売れているか)を確認するとともに、「当事者意識」が成約率や成約の質にどのように影響してきたかを聞いてみるのも一興です。



前者 (中抜き業者) は、計算してないからわからない、などと回答をはぐらかすはずです。「当事者意識」と聞かれてもポカンとしていることでしょう。



後者 (道を究めたプロ) は、かなり高い成約率、かなり高い金額での成約を積み上げています。「当事者意識」と聞かれたら、ニヤリとしながら「社長もなかなか抑えどころわかってますね」という感じになると思います。



ちなみに弊社(SCA)の場合、着手金を受領して本格的に関与した案件に限定すれば、成約率は100%(2023/3/20時点)、平均的に年買法の3倍以上(最高は20倍程度)で売却できています。もちろん、無造作に受託することはせず、ポテンシャルが秘められたユニークな強みを持つ会社の売却案件に絞ったうえで、膨大な労力を割いてポテンシャルを実現化するサポートをして、さらに見える化し、ポテンシャルを最大限に実現してくれそうな買い主企業を絞り込み、「お買い得」と思ってもらえるよう丁寧に説明しているから実現できた数字、常に「当事者意識」を忘れずに仕事に没頭したから実現できた数字である、と自負しています。