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共同経営パートナーとの絶縁…売却後に関係を壊さない秘訣

2024/12/17

M&A会社売却時の心構え

M&Aのチーム管理

M&Aの関係者

共同経営パートナーとの絶縁…売却後に関係を壊さない秘訣

お互いに株式を持って一緒に経営する「共同経営」は、経営者同士の信頼関係が土台となる非常に重要なパートナーシップです。しかし、M&Aによる会社売却の際、その信頼関係が揺らいで崩れることで、売却中の大トラブルに発展したり、売却後に絶縁状態となる悲しいケースは少なくありません。このような状況を避けるためには、慎重な準備と誠実な対応が求められます。

例えば開発トップと販売トップが組んで起業するとか、途中から古い友人を呼ぶとか、非常に貢献してくれたので社長に引上げとか、共同経営にも色々なスタイルやバックグラウンドがあると思います。株式を持ってもらうことを信頼の証にしたり、業績向上のインセンティブにしたりすることもあるでしょう。問題は、大金が動くM&Aというタイミングでの、共同経営パートナーの急な変化です。

この記事では、共同経営パートナーとの人間関係を壊さずに会社売却に成功するための具体的な方法と注意点を解説します。この話は、非株主社長を雇っている純粋オーナー(経営しない社主・ファンド)にも有益な部分がある(依存度が高いためより重要な場合も多い)と思います。

M&AプロセスM&AスキームM&A契約は複雑な面もある上、M&Aバリュエーションは算定者次第、十人十色ですし、M&Aアドバイザーの職業倫理や腕次第で提案内容や交渉結果は大きく変わります。売主オーナーは、数か月から数年という緊張感を保つには長すぎる期間、買主や買主サイド専門家に注意を払うのは当然のこと、M&Aアドバイザーとの信頼関係でもしばしば神経を削るはずです。共同経営パートナーがいる場合、その人(たち)との人間関係にも細心の注意を払い続ける必要があります。ある意味、会社のハンドルを握る人(たち)ですから、会社の価値を直接変動させる能力を持っています。一番神経を使わねばならないかもしれません。彼らの利益と売主オーナーの利益が完全一致していればよいのですが、さまざまな理由でさまざまな部分で利害が不一致となってしまう。しかも利害衝突の大きさが人生最大級になってしまう。これがM&Aの怖いところです。

売却時に人間関係が壊れる原因とは?

会社売却に伴う共同経営パートナーとの人間関係の悪化は、多くの場合、以下のような要因から発生します。

情報共有の不足

売却交渉が進む中で、パートナーが重要な情報から排除されると、不信感を抱くことがあります。特に、意向表明書インタビュー(オーナー単独で買主から聞いたこと等)・デュー・ディリジェンスの進捗・基本合意最終契約などの内容が十分に共有されてないと感じられた場合、「裏で何かが進んでいる」と疑心暗鬼になるリスクが高まります。隠すためにウソをつくと矛盾が矛盾を呼び収拾がつかなくなります。もちろんパートナーとも利害関係があるので、常に全てを包み隠さずに共有すべきではありません。隠し過ぎることによるダメージの想定とコントロール、どこまで伝えどこは隠すかの判断が重要です。

利益配分の不透明さ

売却益の配分について、明確な取り決めがない場合、後になって「不公平だ」と感じられることがあります。株式保有数で明確なので問題なし、とはいかない場合もあります。売却時の株式売却代金をオーナーが全額受領し、各株主に費用を控除してから配分することもあれば、売却後の業績によって2回目の株式売却をしたり、アーンアウト条項によって追加の株主売却対価を得られる場合もあり、その配分方法が曖昧だと、トラブルの種となり得ます。公平感をいかに醸成してダメージを避けながら、自らの利益を最大限確保するか、という対パートナー戦略も重要となります。どれだけ貢献してくれたか、どれだけ報いてあげたいか、など、事前にじっくりと考えておくとよいでしょう。優良M&Aアドバイザーと早めに相談すれば、納得できるM&Aスキームや契約文言を考案してくれるはずです。

感情的なすれ違い

オーナー社長とパートナーが重要視する領域が異なることも多いはずです。売却交渉が進む中で、経営者としての価値観や優先事項の違いが浮き彫りになることがあります。たとえば「ここは買主の希望通り改革してもらって構わない」VS「築いてきた経営理念や企業文化が壊されるのではないか」とか「俺はすぐに引退したい、引継ぎはよろしく!今までの恩もあるし頑張れるよね?」VS「あなたがいなくなるなら私も速やかに会社から身を引きたい。なんで1人で苦労を背負わないといけないの?」といった感情的な衝突が起こることもあるでしょう。また売却タイミングについても「今すぐキャッシュがほしい、俺の持ち株数ならこれで十分」VS「来年成功確実視の新規プロジェクトの結果を待ってから売るべき、私の持ち株数だと全然足りない」など、それぞれが同じことに違う反応を示すのは珍しいことではありません。優秀で信頼してきたパートナーであればあるほど、リスクも高まってしまうのです。

売却後に関係を壊さないための具体的なステップ

初期段階での透明性を確保する

売却を検討し始めた段階から、パートナーに対して可能な範囲でできるだけ率直に真意を伝えることが重要です。目標売却額やその他の売却条件についてもしっかり話し合いの場(必要に応じ複数回)を持ち、売却のメリットやリスクを共有しましょう。Go基準、No Go基準について合意(必要に応じ第三者を交えて説得)しておくと、後から想定外の衝突が生じるリスクを軽減できるはずです。基本的に「隠す」ではなく「共有する」方が良い結果を生むと思います。

明確なルールを設定する

将来部分を含む株式売却対価の分配や、M&A交渉中やM&A実行後の役割分担について、パートナーとの間で書面で取り決めを行うことも有益です。SPA(株式譲渡契約書)株主間契約のドラフトをM&Aアドバイザーに用意してもらって、早めに両者が納得できる条件を明記しておきましょう。

第三者を活用する

感情的な対立を防ぐために、第三者の専門家を間に挟むことが効果的です。FA(ファイナンシャル・アドバイザー)LA(リーガル・アドバイザー)などのM&Aに精通した専門家を交えた話し合いを進めることで、感情ではなく事実に基づく決定を行うことができます。売主オーナーはM&A初心者の方が多いので、M&Aの実態について疑問に思う事が多いはずです。通常、パートナーの方はもっと知識が少ないので、過剰な期待や過剰な心配をしている場合も多いものです。誠実で能力の高いM&Aのプロを間に置いて、気になることを徹底的に質問してもらうことで、漠然とした不安を払拭し現実的な目標に向かって一致団結しやすくなるはずです。

売却後に訪れる最悪シナリオとその回避策

【例1】共同経営パートナーによる訴訟

売却に成功した後「契約通りの義務を履行しなかった」「契約内容が不透明だった」等として、元パートナーから訴訟を起こされるケースがあります。これを防ぐには、売却プロセスを通じ、上記「関係を壊さないステップ」重視で進めることが肝心です。

【例2】コミュニティー内での悪評

売却後、パートナーとの不仲が公になり、共通する大事な所属コミュニティー内での評判が悪化することがあります。このような事態を避けるためには、「両者が納得できる仕組み」を作ってから売却することです。元パートナーとの人間関係が売却後も重要な場合には、特に慎重に準備しましょう。M&Aの売却準備活動の中の重要項目として加えるべきかもしれません。

【例3】新たなビジネスでの協力機会を失う

売却後にパートナーとの信頼が壊れると、次の事業での協力やネットワークを活用するチャンスを失う可能性があります。M&A会社売却で得た資金を元手に、パートナーと一緒に再度起業しようと目論んでいるなら、その可能性が消滅してしまいます。「この人と共同経営しても、自分のことばかり優先するからな」と思われてしまっては次の成功ストーリーがとん挫してしまいます。事あるごとにパートナーの意見に耳を傾け、パートナーの満足度を確認しながら交渉を進めると、そういう誤解を回避できるでしょう。

最後に

共同経営パートナーとの関係は、売却後も続く可能性があります。M&Aを「人間関係の終了」ではなく「新たな協力関係の始まり」と捉えることが、成功への鍵となるでしょう。誠実な態度と慎重な準備を怠らず、売却プロセスを進めてください。