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AI(人口知能)をM&A助言業務に適用すると何が改善するのか?

2019/12/24

M&Aのチーム管理

M&Aのマーケティング

M&AのITテクノロジー

AI(人口知能)をM&A助言業務に適用すると何が改善するのか?

一般に、AI(人口知能)を始めとする画期的な新テクノロジーを導入すると、低付加価値人材の仕事が機械に置き換わる言われています。

ところで、M&A助言業界は、低付加価値人材による仕事が急増していると言われています。

その背景は、大きく2つに整理できます。

1. M&A会社売却サービスの需要サイド:

団塊世代の引退や起業家イグジットによるM&A会社売却ニーズの激増

2. M&A会社売却サービスの供給サイド:

M&Aバンカーの人手不足(修行に最低7年かかる)と素人M&A仲介業者の激増

です。

案件数が増え、プロ人材は決定的に不足しているので、

・おのずと「効率」を最も重視、「」は軽視の流れ

・この流れは当面変わらない(むしろ強化されるリスクが高い)

と整理することができます。

この流れの中で、昨今、AI(人口知能)が着実に存在感を示してきています。

この『M&A助言においてAIを活用する動きが、セルサイドにとって、どのような影響を及ぼすのか』について、検証してみたいと思います。

プラス面もあれば、マイナス面もありますので、上手く活用していただければと思っています。

セルサイドが関心を払うべきこと

まず、セルサイド(売り手)にとっては、M&A市場全体の効率性はどうでも良い話であり、M&A助言会社の仕事が効率的になっても、結果を左右する「仕事の質」は軽視され、不適切な相手、安すぎる価格、取返しのつかない雑な売り方で会社を売られてしまっては、むしろ大迷惑でしょう。

結局のところ、「仕事の質」が上がるなら良い話、下がるなら悪い話です。

AI活用の最高ケースは、「現状の高い仕事の質がさらに上がり、効率化を反映して報酬は下がる」です。

AI活用の最悪ケースは、「現状の低い仕事の質からさらに下がる、でもコストが転嫁され報酬は上がる」です。

セルサイドにとって大事なことは、「客観的に、ご自分の会社(売却しようと考えている対象会社)を評価し、最高の結果を出すための方法を探して、実行すること」です。

仕事の質と結果を重視するプロのM&Aバンカーは少数派になりつつも存在していますが、仕事量が効率重視のM&A助言会社の比ではないため、受託基準を設けている場合が多いです。

簡単に受託する姿勢のM&A助言会社ほど、件数と効率重視で、仕事の質を軽視する傾向にある、と言えます。

特に、一定規模がある会社ユニークな強みがある会社急成長市場に属する会社を売却しようとする場合、質重視のM&A助言会社を選ぶことが重要です。

M&A助言業者にやってもらうべきこと

M&Aバンカーがすべき仕事を簡単にまとめると、

「対象会社の事業や巡る環境を正しく理解し、成長・改善につながるベストな相手との間で、成長・改善につながるベストな経営戦略に基づく、企業結合の導きをすること」です。

M&A助言会社は、高額な報酬を受領するに足る、具体的貢献をするための専門能力を、維持・向上する義務があるわけです。

ところで「売却相手を探すこと」は、質を重視するM&Aバンカーの仕事量のうち、1割程度です(弊社のケース)。

「戦略・戦術の立案準備、会社の状態、後継者の状態等」が、会社売却の成否を大きく分けるため、質を重視するM&A助言会社ほど、「案件受託後いきなり買い手リストを作って、とにかく提案しまくる」という動き方は絶対にしません。

会社売却の提案は、セルサイド(会社オーナー個人)を危機に陥れるリスクもはらむ行為である上、たとえ簡単に買ってくれそうな相手が見つかっても、適正評価の株式対価を払ってもらうためには、相応の魅力や根拠を示さねば無理ですから、質重視のM&A助言会社は、ゴールから逆算し、魅力や根拠を積み上げ、厳選バイサイド候補に丁寧に提案することになります。結果として、適正評価で売却できるわけです。

件数・効率重視のM&A助言会社は、分析等は最小限にとどめ、買ってくれそうな会社をリストアップし、効率重視の打診活動を即座に開始します。このタイプにとっては「売却相手を探すこと」がほぼ全てです。適正評価で売却できるケースが稀なのは、真に提案すべき相手には提案していない、提案していても魅力や根拠の説明が不足しているからです。

では、このような状況下で、AIはどのように役に立つのか、を検証してみたいと思います。

AIができること、できないこと

AIによる高付加価値化や人手不足解消の流れが本格化しており、数十年後(2045年頃)には、AIが人間の知能を凌駕するとまで言われています。

しかし、次のような事実を踏まえると、2045年になっても、付加価値の高いM&A助言サービスをAIによって代替することは不可能と考えられます。

・AIはデータがないとただのプログラムに過ぎない

・AIはプログラムを組む人間の能力(知識やセンス)に計算結果が大きく左右される

・AIの計算結果は因果関係を検証しにくい(プロセスを飛ばし結果だけが出てくるブラックボックス)

・AIは過去の成功事例のあてはめを超えない

つまり、

・対象企業の詳細情報に加え、膨大なバイサイド候補の「あらゆる内部情報」が不可欠だが、永久に手に入らない

・AIのアルゴリズムを構築できる人の中に、事業、金融、M&Aの知恵・知識を全て持つ人がほぼ皆無

・AI計算結果を、バイサイド意思決定者(役員クラス以上)に説明する人間がAI依存では、相手は説得されるはずがない

・日々環境変化する現代において、過去データのあてはめ結果は、時代遅れの可能性も高い(10年ひと昔⇒3年ひと昔⇒1年ひと昔になっていく)

結論的に、M&A助言において、AIはバイサイド候補を洗い出す作業という、M&Aバンカーとしては若手が担う作業を効率化する程度の効果しか期待できないということになります。

つまり、若手の数日の業務時間をAIに代替できるだけで、これによって、売却条件が向上する、成功報酬料率が下がる、とは考えにくいと思います。

AIがM&A助言業務に与える影響

本当は「M&Aを通じて経営をどう変えると、財務成果がどう変わるか」をAIに教えてもらいたいのです。

なぜなら、もっとも高いパフォーマンスを期待できる相手に、Win-Winとなる条件で打診することこそが、最高の条件が手に入る確率が高いわけですが、この最適解にたどり着くのが実に至難の道だからです。

もし、この水準が実現できるならば、複数の企業結合の成果分析より、はるかに単純なはずの1社の企業経営全般はAIに全てを任せられる時代になっているはずです。

つまり、現時点では、本当に知りたいことをAIは教えてくれません。

当面の間、AIにできるのは、「過去同様の条件でM&A案件が成立したことがあるので、類似しているこの会社をあの会社が買いたがるかもしれない」レベルにとどまります。

実は、これだけでも、仕事の質が改善する件数・効率主義のM&A業者も存在することは想像に難くありません。

それくらい日本のM&A助言市場の質の悪化は急速かつ大幅で、プロのM&A買い手(フリークエントバイヤーや投資ファンド)も、昨今、苦言を呈されています。

また、AIの機能的限界を知っていながら、先行投資をしているM&A助言会社が多数生まれているのですから、多くの件数を効率的にさばきたいニーズを持っているM&A助言会社が多くいることは間違いありません。

また、この件数・効率主義タイプに依頼するしか道がない、零細規模で、特徴のない、平凡な会社を売却したいセルサイドも多数存在しています。

全体として、AIは日本のM&A助言市場の悪化ペースを緩める役割は期待できる、と評価できます。

しかし、ユニークな強みを持つ会社や、成長著しいスタートアップ企業の売却案件においては、セルサイドから見れば、AIは何の役にも立ちません。

「事業・金融・制度・M&A市場における需要サイド・供給サイドの動きを掴む努力」を継続しているプロのM&Aバンカーが必死になって捻りだすバイサイド候補と売却戦略の組み合わせの方が、AIの単純な過去あてはめ候補よりも、セルサイドにとって圧倒的に有益だからです。

それ以前に、あらゆる情報を頭に入れ、あらゆる角度から様々なシミュレーションをしたからこそ、最適解にたどり着くわけで、AIにバイサイド候補を探させるというのは、場合によってはマイナスにもなりかねません。

M&A助言業界内での、能力格差は今後ますます拡大していくはずです。

一番大きな被害を被るリスクのあるセルサイドは、必要な知識を十分に集め、色々なタイプの業者を比較した上で、会社売却に挑戦してほしいと思います。