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中小企業M&A売却の失敗パラドックス:「後継経営者の不在」

2019/12/21

M&A会社売却時の心構え

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中小企業M&A売却の失敗パラドックス:「後継経営者の不在」

M&Aで会社を売却する側(セルサイド)にとっても、M&Aで会社を買収する側(バイサイド)にとっても、市場・競争・事業に問題がない限りにおいて、残る大事な課題は、対象会社の後継経営者をどうするか、に集約されます。

意欲的で能力の高い後継経営者さえいてくれれば、安心して買収できるし、適正評価で買収してくれるはずですから、セルサイドも「安値売りしなくて済む」ということになります。

ところで、多くのM&Aケースでは、『オーナー社長が引退したい⇒後継者が社内にいない⇒だからM&A』という構造になっているはずです。

しかし、『後継社長がみつからない or 後継社長の能力に不安⇒だから安値買い』という構造にもなっているわけです。

M&A会社売却をせざるをえない背景、M&A会社売却が失敗(安値売り)の原因、これらが同じ「後継経営者の不在」にある。

さて、これから自分の会社を売却しようとするセルサイド(売り手)は、このパラドックスに対して、どう対処すればよいでしょうか?

序論

多くのケースでM&Aが失敗に終わっている(よく言われるのはM&Aの7割が失敗)と集計・分析されており、これを問題視する学者等が「M&A失敗原因が何なのか」について日夜研究しているわけです。

失敗原因は、「高値掴みをしてしまったから」と集計されるケースが多いようです。ちなみに、ほぼ全ての研究対象は「買い手のM&A失敗原因の究明」に限られますので、「売り手の失敗回避」のためには、無益どころか有害の場合もあります。

日本で中堅中小企業をM&Aで売却する際、高値掴みさせようとしても簡単ではなく、いかにバーゲンセール(安値売り)を回避するかが問題になります。

アンケートに回答しているのは、M&Aの最終意思決定をした上司に責任が及ばないように忖度する部下でしょうから、他人のせいにしておきたくなる気持ちもわからなくはありません。

しかし、『高値掴みは、真の失敗原因ではない(断る権利が最後まであって、精査した上で買収したはずなので)。後継経営者の不在こそが、真の失敗原因。』このように考える方が建設的ではないでしょうか(例外はあるとは思いますが)。

もちろん、売り手とM&Aアドバイザーが共謀し、開示すべき重要情報を隠蔽したり、改ざんした場合、買い手の責任ではなく、売り手やM&Aアドバイザーの責任です。

しかし、これはM&A契約書の中(レプワラ・インデム)で、損害賠償できるようになっているはずですから、やはり経営能力の問題です。

どうやって後継経営者を用意すべきでしょうか?

主に3つの方法が考えられます。

1. バイサイドが用意する

2. 外部人材から調達する

3. セルサイドが用意する

バイサイドが後継経営者を用意する

バイサイドにとって安心なのは、対象会社の歴史や文化に習熟している生え抜きの後継経営者が、対象会社の中にいる状態で、会社経営権(過半株式)を引き継ぐことでしょう。

しかし、大半のケースで、セルサイドが後継者不在であるためにM&Aを検討しているわけで、対象会社内の後継経営者の存在を期待しづらい以上、第一義にバイサイドが後継経営者を用意するしかない、となりがちです。

ただし、業容が大きく、インフラが整って、会社の看板が立派、資金力もある会社で、新卒入社してから何十年も同じ会社で育った人材は、その会社の内部では優秀でも、外部では優秀ではなくなるケースも多いのが現実です。

ましてや、M&Aで買収する会社が、中堅中小会社で、バイサイド企業とはあらゆる面で決定的な違いがあるケースも多く、後継経営者のやることが山積となると、気が遠くなるわけです。

大企業を安定維持するのは「優秀な管理者」の仕事ですが、中堅中小企業の業績を向上させるには「優秀な経営者」でなければ難しいのです。

常に、調査分析、仮設設定、手段模索、仮設検証、改善再検証を高速で回していく必要があります。

大企業のノリで座布団に座っていると、瞬く間に企業価値は目減りしていきます。

しかも、B toB 同業を吸収合併する場合ならいざ知らず、バイサイドの看板や資金力がそのまま役に立つとも限りません。

だから、「価格が十分に安い場合だけM&Aに手を出す」という判断に傾きがちなのです。

つまり、そうなると困るセルサイドとしては、相手との規模が大きく違う場合は特に、バイサイド内部に後継経営者がいると期待しては危険、と言えるわけです。

プロ経営者を外部から調達する

最近、このような事情を反映して、いくつもの会社を経営者として渡ってきたプロ経営者人材紹介マーケットを通じて調達しやすくなってきました。

しかし、この手法は非常にに左右されます。

経営者候補人材の面接は、一般的な中途採用の面接と比べ、回数も多く、チェック項目も多岐に亘ります。

しかし、そもそも適した人材がいないいても来てくれない要求される高額年俸を用意できないなどのミスマッチは起こりやすいものです。

また、人材紹介マーケットには、「面接突破だけは得意、でも通常勤務になった途端に態度が豹変するタイプ」「上司のごますりは上手、でも現場から認められないタイプ」も紛れ込んでます。

紹介の手数料が欲しい人材紹介会社は、本当のことを知っていてもなかなか教えてくれないし、そもそも普段の仕事ぶりは知るよしもありません。

面接をして、経営者(取締役)に任命する株主の責任、社長(代表取締役)に任命する取締役会(株主総会)の責任というわけです。

自己責任原則は、M&Aでも、人材紹介でも同じです。

大事なのは情報開示(この場合は面接の機会の提供)であり、重要な情報を取得できる環境が提供されている限り、自己責任です。

しかも、昨今の人手不足環境を受け、人材紹介会社に支払う成功報酬はうなぎのぼりです。失敗に気づいても簡単に入れ替えられません。

つまり、このような外部プロ経営人材の調達という手段を採用してもよいかどうかは、さまざまな要因が絡み合います。

大成功するかもしれないけれど、失敗した場合の痛手が大きいのも、この見ず知らずの外部人材をいきなりトップに据えるケースです。

セルサイドが後継経営者を用意する

セルサイドが何も対策を取らないとするならば、「後継経営者が見つからない」という理由で、「売却相手が永久に見つからない」「適正価格を大幅に下回る価格で売却せざるを得ない」リスクを背負いつつ、M&A検討をしなければならないことになります。

大半のオーナー社長が勘違いしているのが、以下の考え方です。

社長とは全責任を負う存在である。借入の保証、従業員雇用や給与について、社長が責任を持つべきだ。

これが大きな間違いです。

所有経営はそもそも別の概念です。

オーナーは所有者、社長は経営者です。オーナー社長はたまたま別の役割を1人で担ってきた例外に過ぎません。

後継経営者は、株主と協議した方針の範囲で、最適な経営を努力すればよいのです。

しかも、1人で全経営を担う必要もなく、分業も可能です。つまり、経営チームの一員として割り振られた役割を全うすればよいのです。

この考え方に基づくと、かなり楽になります。

仮に経営の全てを運営できるチームメンバー全員をセルサイドが用意できなくても、経営の重要な一部を全うする人材だけ用意できれば、バイサイドとしては、その残る一部のみ、①バイサイド社内から適任者を探す、②探して見つからない場合だけ適任者を外部調達する、という形でよくなり、グっとハードルが下がることになります。

結果として、セルサイドとしては、「売却できる可能性が上がる」「売却条件が改善する」ことになります。

セルサイドがやっておくべき会社売却の事前準備(後継経営者準備編)

一般のM&A助言会社がセルサイド(売り手)に提供するサービスの中には、後継者育成サポートのような非効率で専門性の高い業務は含まれません。

いかに多くの事業承継難案件を成功報酬に変換するか、相手を見つけるマッチング機能の効率化に集中してますので、仕方がないのです。

あるとしても、太客バイサイドの味方になりやすい両手仲介タイプが、成約後のバイサイド向けサポート(PMIサービス)として提供するにとどまります。

お金を取りやすいのは、バイサイドだからです。

しかし、これではセルサイドは丸損です。

弊社SCAは、セルサイド特化型の片手FAであり、単なるマッチングではなく、徹底的な事業分析に基づく事前の改善、最適な情報開示による最高の結果の追求とリスクの回避に集中しております。

ご希望に応じ、事前の改善サポート(企業価値向上コンサルティング)には、後継経営者候補の育成サポートも含まれます。

重要なのは、M&Aの共通言語である「企業価値評価」という主柱をドシっと中心に据え置き、その向上のため、どのような生え抜き人材をどのように短期間で育成するかになります。

ところで、経営者育成は簡単ではありません。

おそらく、税制、規制、マスコミ、教育、文化、価値観まで関係してくる重い課題だと思います。

ただし、弊社の経験上、経営チームの一員であれば、十分に有能な後継経営者を、生え抜き人材の中から用意できるケースは非常に多いものです。

ただし、経営人材育成には、どうしても多少の時間がかかります。早め早めにご相談ください。

繰り返しとなりますが、重要なのは、今までのオーナー社長の思い込みや成功体験は一旦忘れ、「企業価値評価という共通言語の上で、有能な経営チーム(の一部)がいる状態にすること」です。

「企業価値評価上、何が重要で、何がそれほどでもないか」を客観的・定量的に評価した上で、合理的に必要な経営人材像を把握し、打つべき手を打つことが大変重要です。