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M&A売却交渉の最終局面:表明保証・補償(レプワラ&インデム)の留意事項

2019/6/1

M&Aの契約・法務・規制

M&A売却交渉の最終局面:表明保証・補償(レプワラ&インデム)の留意事項

今回は、準備不足だと破談にもなりかねない、M&A最終契約書の重要パーツ「表明保証と補償(レプワラ・インデム)」について、重要ポイントに絞ってご説明したいと思います。

弁護士が所属する片手タイプのM&Aバンカーを雇うか、もしくはセルサイドオーナー(売り手)が自らM&Aに詳しい弁護士を雇わない限り、バイサイド弁護士によって、セルサイドに過剰な負担を強いるレプワラ・インデム条項を、SPA(Stock Purchase Agreement)に設けられると「事実上の会社売却代金の大幅値引き」にもなりかねません(両手タイプのM&A仲介会社を雇う場合、根本的に利益相反構造があるため、バイサイド企業と完全に独立した立場にあるM&Aに詳しい弁護士から、第三者意見を得ることをお勧めします)。

「ややこしい契約の話」と敬遠せず、セルサイドオーナーとしても、納得できる範囲かどうか十分に吟味してからSPAに調印しましょう。

レプワラ・インデムとは?

M&Aの株式譲渡契約書は、ややマニアックな作りになってます。英米法で発展した契約を日本語訳したものが使用されるので、スっと頭に入ってこないこともあるかもしれません。

・「表明保証の英訳」がRepresentations and Warranties(レプリゼンテーションズ アンド ワランティーズ、略してレプワラ)。
・「補償の英訳」がIndemnification(インデムニフィケーション、略してインデム)。

いずれもSPA等のM&A最終契約で必ず設けられる条文です。

・「表明保証(レプワラ)」とは、主にセルサイドオーナー(売り手)による、バイサイド(買い手)に対する、各種情報開示で埋めきれなかったバイサイドが知っておきたい重要事項についての表明と保証(「ここに表明する内容で正しいと保証」します)のこと。
・「補償(インデム)」とは、表明保証等に違反したことを原因として将来バイサイドが損害を被った場合、セルサイドオーナーが負担するバイサイドに対する損害賠償の約束のこと。

長いので「表明保証と補償」をセットで「レプワラ・インデム」と略して言います。

レプワラ・インデムは、バイサイド(買い手)からすると「自分の責任じゃない。セルサイドオーナー時代の原因による損害なのに、なぜ自分が損害を被らなくていけないのか!」という当然の主張であり、セルサイドオーナー(売り手)からすると「もう売ったのに、後から金返せって、どうしても納得できない。あなたの責任で発生した損害かもしれないでしょ。」という、これも気持ちはわかるので、交渉が平行線になりやすく、場合によっては破談にもなりかねない重要論点です。

「数カ月以上先に考えればよい細かい話」と過少評価は禁物です。かなり早い段階から、M&Aバンカーと相談して、検討しておくべき重要論点です。レプワラ・インデムの対象事象を消滅させられるかもしれません。

レプワラ・インデムを正確に理解するには、まずはセルサイドオーナーが「もしも自分が他人の会社を買収するとしたら」と具体的に想像してみる必要があります。

ゴールを見据え、入念な準備を手伝ってくれるM&Aバンカーと一緒に入念なM&Aプランを練り上げておけば、重大な不測の事態は避けられますので、安心してください。

これもM&A助言会社選びのポイントの1つです。

今まであなたのおかげでレプワラ・インデムを軽減できたケースってどういうケースですか?守秘義務の範囲で教えてください。」という質問をしてみましょう。

では、重要ポイントの解説に入ります。

なぜレプワラ・インデムが必要なのか?

M&Aでは、セルサイドオーナーはターゲット企業(売り手企業)のことを誰よりも深く知ってますし、クロージングする直前まで、バイサイドが知らないところで何でもできてしまいます

一方、バイサイドの多くはターゲット企業について、セルサイドFAが準備したインフォメーション・メモランダムや、セルサイドへの質問、専門家DDで発見された事項に情報源が限定されます

しかし、バイサイドは、たったの数カ月で買収するかどうか、いくらでどういう条件で成約するか決断しなくてはならないのが通常です。

M&Aの大半は株式譲渡です。要するに株式の売買です。IPOで上場して投資家に売却するのも、上場株を売買するのも同じ株の売買ですが、決定的な違いがあります。

M&Aではマジョリティ(過半数の株式)が動くので、ターゲット企業の株主リスクが、セルサイドオーナーからバイサイドに移転します。他のタイプの株式売買(IPOとか上場株の売買とか)では、所詮はマイノリティ(少数株主)の移動に過ぎませんから、株主有限責任の原則の範囲で、投資額がゼロになるリスク以上の負担はありません。M&Aの場合だけ、投資額以上の損害を被るリスクがある(不祥事、追加投資、資産滅失、損害賠償、その他)点が、他の株式売買と決定的に違うのです。

一方で、セルサイドオーナーは、開示情報を自分でコントロールできる立場にいます。セルサイドオーナーにとって都合の悪い情報を隠して売ることもできてしまうわけです。

各種専門家が、バイサイドのためにDD(企業精査)をして、バイサイドに不測の損害が生じないように精査しますが、あくまでも「セルサイドから入手した情報と一般公開情報の限りにおいて」という断りを入れた限定的な専門家意見(Agreed Upon Procedure)にすぎません。

また、バイサイドの多くは、1人の判断でM&Aを決断する立場にいません。絶対君主のオーナーが買収意思決定者でない限り、石橋を叩く慎重派がいる組織体で意思決定をするのが通常です。

バイサイドの意思決定者は、バイサイドの株主をはじめ、従業員、取引先、取引金融機関といったステークホルダーに対して、健全な経営を継続する責任(受託者責任(Fiduciary Duty))を負っています。

そのため、意図的であるかどうかにかかわらず、「セルサイドが提出した情報が完全ではない可能性、それによって不測の損害を被るリスクを、慎重に検討する義務」を負っています。逆に言えば、理論上、「ターゲット企業を買収することで企業価値を増大できると判断できるならば、積極的に買収し、成長させ、企業価値増大に励むべき責任」も負っています。

これが、企業の経営者が負う受託者責任というものです。事業会社投資ファンドも同じです。そのため、バイサイドは、「会社を買収する前に、できるだけあらゆる情報を知りたい」のです。

しかし、ここで問題です。

企業価値とは、将来キャッシュフローとそのリスク量で算定されますが、将来に起こる可能性について事前に判断するために役に立つ情報は、際限なく、広く・深いという点です。

もし、厳密にあらゆるリスクを排除してから、安心して買収するべき、となってしまうと、ありとあらゆるターゲット企業の将来に影響しうる情報をバイサイドに伝えるため、セルサイドオーナーや重役が、過去数年、数十年において行ったあらゆる意思決定とアクション、重役の自宅に何か隠してないか、誰か外部者との想定外の約束をしていないか、想定外のリスクを秘めた契約がないか、想定外の約束をしてしまった従業員がいないか等など、あらゆるリスク発生原因を調べ上げねばなりません。

当然、そんなことは不可能です。「ないことを証明すること」ほど難しいことはないからです。

そのため、合理的な範囲で質問や資料リクエストをして、合理的な範囲で結論を出すしかないわけです。そこで、合理的に想定されるリスクについて、セルサイドが原因と合理的に考えられるものは、バイサイドに生じた損害の賠償をしてもらう義務をセルサイドに課す、ということになります。

これを具体的に記載した条文が、レプワラ・インデムです。

これがないのに会社は買えない。これがないなら、価格以前にM&A実行することが不可能、もしくは、ものすごく安い買収金額でなければ無理、となってしまうわけです。

セルサイドオーナーからして、契約交渉が楽に進んでいるということは、実は、悲しいお知らせです。おそらく、過剰に安い価格で話が進んでいて、セルサイドオーナーにとって不利な状況だからです。

どうすればセルサイドはレプワラ・インデムの負担を減らせるか?

レプワラ・インデムが入っているならM&A会社売却したくない」という方は、「M&Aによる公正価値(フェアバリュー)でのEXIT」という選択肢はあきらめましょう。M&Aとレプワラ・インデムは切っても切れない関係にあるからです。

とはいえ、やはり、M&Aでまとまったキャッシュを数カ月で手に入れ、第二の人生を謳歌したいのであれば、M&Aは非常に魅力的なツールであることに間違いありません。

日本の30年先を行く米国で、IPOが衰退し、M&Aが隆盛なのは理由があるのです。

要するに「バイサイドに安心してもらえばよい」わけです。誠実なバイサイドを選んでいれば、基本的に、合理的な範囲の要求しかされませんし、不合理な要求をしてくるバイサイドは、こちらからお断りすればよいだけです。

大事なのは、まず第一に、しっかりとした情報開示をすることです。中途半端に小出しにすると「まだまだ他にも色々隠しているのでは?」という疑心暗鬼を生じさせます。M&Aとは「情報の精製と伝達」です。情報開示は、バイサイドの関心事、バイサイドのDDベンダーの関心事、バイサイドの取引先金融機関の関心事等が網羅されている必要があるわけです。

また、同等に大事なのは、完全な相対交渉は絶対しないということです。競争環境を必ず作る、最後まで残しておくことが重要です。他にバイサイド候補がいないことがバイサイド候補に伝わっていると、レプワラ・インデムが猛威をふるう余地を提供することになります。最悪は、事実上の価格引き下げ条項を入れられても、そのバイサイド候補に売らないといけない状況に至っていることがバレているので、悪化した条件を飲むしかなくなります。

また、レプワラ・インデムリスクを最小化するための情報とは、魅力的なM&Aストーリーといった「攻めの情報開示」とは異なる、「守りの情報開示」と言えます。
バイサイドDDの経験者(弁護士、公認会計士、税理士)
(・融資の経験者)
が、セルサイドFAチームに加わっていることが望ましいでしょう。