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M&A会社売却失敗パターン:買い手市場で顧客ニーズを知らずにマーケするのと同じ愚

2018/1/22

M&Aのプロセス

M&A会社売却失敗パターン:買い手市場で顧客ニーズを知らずにマーケするのと同じ愚

M&Aで会社を売却するとことを特別な取引と考えすぎる方が多いようです。

筆者は、事業会社を自ら立ち上げ、商品開発からマーケティングの土台の設計・実行を経験した珍しいM&Aバンカーなのですが、M&Aの取引(会社の売却)も普通のマーケティング(商品・サービスの販売)と、一部例外を除けば同じことと捉えるべきと思っています。

通常のマーケティング活動との比較

通常、会社商品顧客により販売するためのマーケティング活動に励んでいるはずです。

同じようにM&A取引は、このように捉えることができます。
商品=ターゲット企業(売り手企業)
顧客=バイサイド(買い手)
会社=セルサイド(売り手)

マーケティングが、会社売却の失敗原因の1つ

日本のM&A市場では、数多くのターゲット企業が、せっかくの潜在価値がありながら、最適ではないバイサイドに、最適ではない方法で提案されるがため、過小評価の条件で売却されてしまうケースが多いようです。その原因の1つとして、セルサイドが「須らく売却取引に内包されるマーケティングの基本」の重要性に気づかず、M&A業者に丸投げしてしまっていることが挙げられます。

経営者が、自社商品を売ろうと思ったら、徹底的に顧客競合を分析し、商品も顧客ニーズに適応したものに設計し、少しでも多く、少しでも高く、売上の最大化を図るはずです。M&A取引では、売却代金最大化を、セルサイドとM&A助言会社が協力して実行するわけですが、能力不足のM&A助言会社に依頼してしまったり、必要な準備をセルサイドが怠ると、売れない、売れても条件が悪いということになってしまいます。

マーケティングには費用がかかりますし、売上を獲得するためならマーケティングコストを負担することを躊躇う経営者は少ないと思います。しかし、M&Aではマーケティングコストを負担せずに売上を欲しがるケースが多いのは、M&Aという取引の本質について勘違いしているからだと思います。

広告費フリーの影響

着手金無料」に釣られるセルサイドは、広告費を1円も払わないことで「費用が減って良かった」と考える経営者と同じです。「売上が減り、広告費削減以上に、利益が大きく減った」ことを喜ぶようでは経営者失格です。

売上とマーケティングコストは相対的に評価するものです。無料M&A業者は、無料であるがゆえに、商品=ターゲット企業の魅力を伝えるための膨大な作業を請け負ってくれません。大事なのは、広告費の少なさではなく、粗利から広告費を引いた利益の大きさのはずです。つまり、広告費の最適利用と利益最大化のはずです。

セルサイドにとってのM&A売上

セルサイドにとっての売上は、株式売却価格であり、株式の価格に極めて大きな幅がありうることを知らないセルサイドオーナーの盲点を、無料業者に上手に突かれているとも言えるでしょう。M&Aでは、特にユニークな強みを持つ面白いターゲット企業の場合には、何割どころか、倍以上の差が頻繁に生じます(弊社の場合、無料M&A仲介が提示した想定売却額の10倍以上で売却することに成功したこともあります)。通常の商品販売では、売ってみたら5倍の値段で売れたなんてことはありえませんよね。でも、会社はモノではなくイキモノなので、このような差がしばしば生じます。

それくらい、2社の結合により新しい価値が創造されるM&Aでは、取引価格は容易に決まらず、周到な準備や適切な戦略によって結果が大きく左右されるのです。つまり、適切なマーケティングの準備と実行が極めて重要であるということです。

M&Aでのマーケティング活動とは?

理解を深めていただくため、自分が逆の立場、つまりM&Aのバイサイド(買い手)であると真剣に想像してみてください。いらない会社を買収しますか?絶対にしないはずです。不要なビジネスリソースに多額の資金を出す経営者はいないからです。いらない会社はむしろ邪魔なくらいでしょう。しかし、もし、目からうろこの活用方法魅力ある価値増大ストーリーを提案されれば買収したかもしれません。もし、M&A助言会社から説明を受けたターゲット企業の潜在価値の実現方法について、自分の方が知っていたら、その状況を活用し、安め価格で買収しようとしませんか?

入社1年目の営業マンによる練られていない営業トークで提案されても買う気が起こりません。「知らない人」が「より知らない人」に売るという営業手法でも成り立つ業界はあり、M&Aの場合は、「知らない人」が「より知らない人」から仕入れて売るというスタイルが多いようです。「知っている人」が「よく知っている人」と組んで売るのがM&Aの場合の正解です。

ところで、M&A市場は基本的に買い手市場です。お金を持っている方が最終的に強いのは世の常です。例外は、規模の拡大が最重要な業界でM&Aが過熱している業界の場合だけです。過熱した買収合戦となるので、売り手市場となります。あなたの会社がそのようなM&A過熱市場の業種に属してなければ、あなたの会社を売買する市場は、間違いなく、時間が経っても、相手を変えても、買い手市場です。買い手市場では、正しくマーケティングをしなければ、ほしい成果は得られません

買い手市場なので、商品(ターゲット企業)を、顧客(バイサイド候補)に「欲しい」と思ってもらうため、綿密に準備しなければなりません。様々な顧客のタイプを想定し、それぞれの顧客候補を深く理解し、顧客にとっての商品の魅力を考え抜いて、その魅力を伝えきる。さらに、その顧客についても千差万別のニーズがあるので、その顧客毎に丁寧に商品の魅力の伝え方を変えていく、こういう丁寧なマーケティングをしなければいけないのが、M&Aによる会社売却という取引です。

ターゲット顧客のイメージができていない状態では商品は売れるはずもありません。安直なマーケティングプロセスでは、最適な条件にたどり着くはずがありません。100社等の多数のバイサイド候補を並べてみても、高い金額を出すかどうかに大きな影響はないのです。「欲しいかどうか」、「欲しいとしていくら出すか」を決めるのは、買い手市場では、常に買い手(バイサイド)だからです。打診社数による成果に期待するのは楽観的すぎるということです。

顧客ニーズを徹底的に分析していますか?
商品の魅力が顧客に伝わるように準備していますか?
■ 顧客が魅力的な価格提示できるように必要情報を伝えきれていますか?

M&A取引も通常のマーケティングと同じように、緻密に準備し、実行しきることが、最高の成果への近道なのです。