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セルサイドが必ず検討すべきM&Aのスキーム

2018/1/19

M&Aのスキーム

セルサイドが必ず検討すべきM&Aのスキーム

M&Aを端的に表現すると、「セルサイド(売り手)がターゲット企業(売り手企業)の経営権をバイサイド(買い手)に売却すること」と言うことができます。そして、その経営権譲渡の「手段」が「スキーム」と呼ばれるもので、一番多く利用される株式譲渡のほかにも、合併株式交換株式移転会社分割事業譲渡、さらにそれらスキームの組み合わせ、時間軸を利用した組み合わせ、参加者の組み合わせ、金融技術の組み合わせ等のアレンジされたスキームが挙げられます。

M&Aにおける「スキーム」の位置づけ

スキーム好きな人は、ついついスキームを軸にものを考えてしまいます。パワーポイントにボックス図を沢山書きたくなる人もいますが本末転倒です。スキームの位置づけというのは、M&A戦略の全体像の中で、通常4番目です。最初に考えるものではありません。

  1.  ビジネス(事業をM&Aというツールを使ってどう変革させるか?)
  2.  ファイナンス(バリュエーションとM&Aファイナンスを駆使して、M&A当事者の資金の流れをどうするか?)
  3.  制度(法律や税務等を問題のない状態で、会計インパクトがどうなるか?)
  4.  スキーム(株式譲渡等や税務の取引手法、時間軸等を組合せることで、上記の1から3を満たすスキームは?)

とはいえ、「できないディール(取引)をできるようにする」、「不利な状況を逆転する」といったファインプレーもスキームが担当する役割です。4つの要素のすべてについて最高品質で取り組むことで、数十年の苦労の結晶を余すところなく、適正に享受できることになることも少なくないという理解をしてください。

ところで、1から4を混然一体としつつ、セルサイドというクライアントのための最適化を図るというのがセルサイドのM&Aアドバイザーの仕事の核となります。

しかも、M&Aは単独で検討できる取引ではありません。バイサイド(買い手)という交渉相手がいます。バイサイドが首を縦に振ってくれる内容にと問えなければ絵にかいた餅となります。

さらに、相対交渉(1対1で交渉)ではなくセルサイドに望ましい競争環境を維持する非相対交渉(1対多の交渉)の場合には、複数のバイサイドがそれぞれ有するニーズや制約等を配慮して、最適化を図らねばなりません。

こういう複雑を極める状態を前提として、セルサイドというクライアントのための最適化を目指すというものがセルサイドの片手FAの仕事であり、その道のりをM&Aのプロセス、その構成要素の1つがM&Aのスキームと呼ばれるわけですね。

M&Aスキームの種類

セルサイドは、できるだけ自らに有利な手段を使用すべきなのは当然のことです。

そもそもM&Aとは、Mergers and Acquisitions(合併と株式取得)の略ですから、くっける切り離すオーナーチェンジという3種類をどのような組み合わせでするかをプロが検討して実施する取引です。

くっつける: 合併
切り離しながらくっつける: 会社分割、事業譲渡
オーナーチェンジ: 株式譲渡、株式交換、株式移転

セルサイドとしては、より有利な相手より有利な条件でターゲット企業の経営権を譲渡したいわけですが、その実現可能性を高めるためにスキームを組み立てることで、勝ちパターンが見えてきます。同時に、生じる税金も変化しますので、税金面も考慮しなければなりません。

ストラクチャリングとタックスプランニング

ちなみに、スキームの組み立てのことをストラクチャリング(Structuring)、税金設計のことをタックスプランニング(Tax Planning)と呼び、投資銀行や独立系M&Aハウスでは、公認会計士や弁護士等の専門家がチームに入ることでクオリティを担保しつつ、M&A助言の通常サービス(専門家業務に関しては助言の範囲で)に含めています。

そもそもFA(Financial Adviser)とは、単に相手を探してくる仲介屋さんのことではなく、このような専門知識を駆使することを通じて、最適な相手選びと最適な交渉を具体的にサポートするM&Aのプロのことですので、FAと呼ばれるためには、法務税務にも詳しくなければならないことを意味します。

とはいえスキームは早めに考えておくべき

一般的なM&A取引では、バイサイドが決まり、価格条件等も決まってから、ようやくスキームをどうするかを検討し始めることが多いため、主にスキームを検討するのはバイサイドで、M&A案件の主導権がバイサイドに移ってからとなることが多いのが実情です。しかし、当然のことながら、条件に影響するプロセスは、主導権を渡す前から深く関与すべきですから、セルサイドもできるだけM&Aのスキームに詳しくなっておくべきでしょう。「相手選び」と値決め」が済んでからでは遅いのです。

むしろ、バイサイド候補の選考(ロングリスト作成段階)、ティーザーを用いてバイサイド候補に初期的提案をする段階(初期的提案段階)という非常に早い段階から、スキームやタックスプランニングをセルサイド自身がしっかりと可能性や選択肢として検討しておくべきでしょう。相手選びや条件交渉において、大きな影響が生じる可能性があります。

面倒臭いことほど自分でやるべきです。自分でできないなら能力を持つ味方をチームに加えるべきでしょう。なぜなら、面倒臭いことをする側、より多くを知る側がより多くを得るのが世の真理だからです。この程度の面倒のために交渉上の有利を相手に渡すのはもったいないのです。2-3週間の努力で億単位で条件が改善するなら、努力の方が遥かによいということですね。