多くのセルサイドオーナー(会社売却を検討しているオーナー)にとって、M&Aを経験することは初めてのことだと思います。
巷で売っているM&A関連本を読んでも、複雑な仕組みやルールが書いてあり、また逆に、あたかも会社売却を簡単にできるようになったかのように書いてあったり。
当たり前のことを思い出してください。
M&Aは「手段」にすぎず、会社売却の「目的」に応じて、「手段」は難しくなったり、簡単にもなる、古今東西普遍の真理、千差万別なのは当然です。
しかし、そうなると、調べれば調べるほどに「何を信じればよいのかわからない」に陥りがちです。
また、M&Aでは、ターゲット企業(売り手企業)の様々な内部情報が、様々な外部の企業に伝わることになります。
営業機密情報も、当然にして、売却価格の根源のようなものですから、最終的には開示します。
やり方はいろいろありますが、時間の問題であって、最終的には開示せざるをえません(開示しないままだと、お宝を無料であげるような取引となるだけです。)。
しかし、情報漏洩して、競合企業に情報だけ転用され、結局、会社を売れなかった、という最悪の事態は絶対に避けたいはずです。
未知 x 失敗リスク大ということで、
多くのセルサイドオーナーは、次のような質問をされることが多いような気がします。
「普通に考えると、うちの会社はいくらで売れると思いますか?」
「今まで、うちと似ている会社はどれくらいで売れましたか?」
つまり、「常識的」になってしまうのです。
このような質問をされる原因は、深く刻まれている人間の「防衛本能」にあると思います。しかし、厳しい言い方をすればこれは「思考停止」と呼ばれるものでもあります。
「早く安心したい」という心理が働きやすいのは当然ですが、人生の中でももっとも重要な局面において、思考停止はやってはいけない事です。
重要なのは、「(実現可能で魅力的な)目的の設定」と、「(それを可能たらしめる)適した手段」の選択ですよね。
通常の事業経営となんら変わりありません。
筆者も、M&A助言の経営だけではなく、事業会社の創業経験があり、自ら商品開発をし、販売方法を考え、実践し、様々な想定外の事態を乗り越えた経験があります。
「幾十年もの苦労の結晶である自分の会社をどこかの誰かに売る」
という取引に関して、様々な心配をされるのは当然、事業経営の苦労を骨身に沁みてわかってますので、心情的には理解できます。
しかし、このような防衛本能に基づく心理は、えてして非合理的な行動につながり、ときに大きなマイナスの結果に陥りやすいという点もまた事実です。
この防衛本能は、非合理的になりやすく、一部の取引関係者にとって甘い蜜の元になりやすいからです。
もしも、次のAとBの結果が事前にわかっていたら、明らかにBの方が、Aの売り方よりもはるかに望ましい状況ですから、多くのセルサイドオーナーはBの可能性を追求するはずですね。
なのに、声をかける相手が100社という「数=安心感」に捕らわれてAの動き方を優先してしまう方が非常に多いのです。
A | B | |
---|---|---|
10億円 | 0 | 1 |
5億円 | 0 | 2 |
2-3億円 | 100 | 7 |
Aの動き方は、100社に情報漏洩しながら、結局2~3億円でしか売れない売り方です。
失うものが多く、得るものが少ないのが、この「多数に声をかける売り方」です。
この方法の利益の大半は、セルサイドには届きません。100社に声掛けするという手間をかけるのは、それ以上の旨味があるからに他なりません。
100社に声掛けする過程でM&A会社に落ちる雫が増え、M&A会社のみが、多大な労力をかけずとも、かけた労力以上の利益が、ほぼ確実に入る仕組みになっているということでしょう。
本来、同じ舟に乗って会社売却の成功を目指すべきなのですが、
着手金や成功報酬等の「会社売却成功に対する貢献度」を直接反映する報酬以外の売上獲得手段を持っているM&A会社には、この方法を選択する具体的な経済的メリットがあるわけです。
セルサイドに提供される価値は、「100社に声掛けするのなら、うちの会社が売れないということはないだろう」という「数による安心」であり、手に入る結果は「下位平均」となります。
Bの動き方は、
「10億円での買収でもある特定の経営資源を持つバイサイド(買い手)になら正当化できる事業戦略等を携え、最低でも3億円、あわよくば5億円、成功すれば10億円、もしくそれ以上での会社売却の可能性を追求し、しかも、厳選した10社への情報開示でとどめるため、情報漏洩リスクも最小化した、最適な会社売却プランの策定と実行」です。
どう考えても、10億円を提示してくれるバイサイド+10億円を正当化する事業計画を追求するべきでしょう。
ここで言う事業計画というのは、ある特定のバイサイド企業を具体的にイメージしながら、ターゲット企業を買収し、この計画を基礎に成長させれば、10億円でも十分な投資リターンが得られる事業計画ということです。
しかし、「短時間、労力なし、他と同じ」という甘い蜜は実に強力であり、Bの10億円の可能性を自ら潰してしまう事が起きやすいのです。
さらに、「従業員に負担がかかる」とか「売り逃げしたと白い目で見られる」とか「交渉は非友好的で日本人気質に合わない」とか、さまざまな説得話法を準備しているM&A会社もいるようです。
しかし、価格と従業員幸福が反比例するという合理的な説明は不可能であると思います。
低い価格でも能力の低いバイサイドが買収したら会社が業績悪化するかもしれないし、やる気ある従業員の成長機会を奪うことになるかもしれないからです。
一方で、Bの方法は、「長時間、労力あり、他と違う」です。頑張って他との違いを打ち出す。だからこそ、売却額が「増える」のですが、ややこしいし、大変なのに結局増えないかもしれないなら楽な方がよい、という思考に陥りやすいのかもしれません。
たしかに、すべての会社には当てはまりませんが、Bのようなケースは、頻繁に確認できるのも事実です。
弊社SCAは、業界初のセルサイド特化型FAであり、「ユニークな会社を高く売る」というキャッチコピーを採用しています。
バイサイド(10社の買い手候補等)から情報提供料等は一切いただかず、最終的な買収者からも1円もいただきません。
しかも、「もしバイサイドからお金をいただいたら、セルサイドからの成功報酬を放棄する」という条項を入れた契約を基本としていますので、
あくまでも、
「厳選したバイサイド候補に対し、最もフィットして優れた事業計画等の開示情報とともに、最高の成果を目指すこと」
にのみ集中する独自のスタイルを採用しています。
「会社を高く売る」という目的は、
「M&Aというマネーゲームの巧妙な技術を駆使して、買い手を騙して高値掴みをさせる」という方法によっても、偶然、もしくはバイサイドの無知を利用して実現できることはあるでしょうが、
弊社は、「M&A取引に含まれるコーポレート・ファイナンスの技術や、税務面の技術等」は活用しますが、これらはオマケという立場ですし、
あくまでも、「本筋は、事業の規模拡大 x 収益性向上 + リスク管理手法の高度化による、本業の事業価値の増大」によって高い価格を実現するための努力をします。
だから、能力のある優秀なバイサイドさんから恨まれることは絶対にありません。
では、「このようなM&A取引をリードできる人」というのはどういう人か、となりますが、
ズバリ最重要なのが、
・起業経験があって事業をジャンプアップさせるアイデアと外部への説明力・説得力を持っていること
が絶対的必要条件となります。
次に、
・M&A、ファイナンス、会計・税務・法務等にも精通していること
というこの業界でご飯を食べるための最低限の条件を具備していること、となります。
「2-3億円と10億円なんて差が生じることなんて、あるはずない。」と、思われる方もいらっしゃるでしょう。
これが常識とされています。
しかし、実は、本来の事業の性質を考慮すれば、頻繁に起こりうることであることを理解いただけると思います。
実際に、弊社は同時期に別のM&A助言会社が提示した「予想会社売却額」の10倍で売却する支援をさせていただいたこともあります。
より明瞭にイメージいただくために、隣接市場で常時起こっている事象と比較してみます。
ベンチャー企業の資金調達では、売上もない、純資産もない状態で、巨額の資金を集めることがあります。
ターゲット企業の株式を売るという意味で、M&Aと同じです。
しかし、「M&Aは純資産ベース」、「ベンチャーとか資金調達はM&Aとは別物」という捉え方をしている方が圧倒的多数です。
むしろ、M&Aの方が、すでに存在している事業と、別のすでに存在している事業を組み合わせるという点で、
やり方次第で、より高みを目指すチャンスもあり、より成功可能性を引き上げることもできるという言い方も可能です。
M&Aは完成した会社をそのまま売る取引、
ベンチャーの資金調達は、これから作られていく会社の成長ストーリーを信じてくれる投資家からお金を調達する取引
という常識的な考え方から一度離れてみてください。
「常識を疑うこと」が成功のはじめの一歩ですので。
もしも、前者のM&Aを「ユニークな強みを最大限に生かし切る、最適な相手と最適な戦略を組み込むための資本取引」と定義するならば、
前者のM&Aにおいて最重要なのが「ベンチャー魂」と言えると思います。
「M&Aで売却する会社が、バイサイド企業の事業基盤の上で、第二の創業をする事が、理想的な会社の売り方である」と捉えていただくと、
常識的な会社の売り方が、いかにもったいないのかを理解していただけるかと思います。
何が言いたいのかと言うと、「M&A会社売却で非常識な成果を出したいなら、会社売却を第二の創業として捉えていただきたい」ということなのです。
たしかに少し大変な準備が必要ですが、時給換算するととてつもない時給になるのが、M&A準備という作業です。
ベンチャーは、いかにして、市場に存在する課題を、新しい着眼点で突破するか、にかかっています。
つまり、「常識を疑って、新しい解決方法をお客様に届けること」によってしか、大きな成功はありえません。
M&Aにおいて、大きな企業価値向上は、この「常識を疑って新しい解決策を実現すること」によって実現されます。
違いは、「すでに存在するターゲット企業」と、「すでに存在するバイサイド企業」の「結合」によって、
今までにない顧客の課題を解決する解決策を生むという点だけです。
ご自身の会社を最大限に伸ばす方法を、「経営資源の制約なく」全方面的に可能性を追求されることを強くお勧めします。
ターゲット企業をこれからどうやったら成長させられるか、という話を、
これから雇うつもりのM&Aアドバイザーに話してみて、
「即座にピーンときてくれ、建設的なアイデアを一緒に議論したくなる企業価値向上のサポート役」なのか、
「表向き、相槌を打ってはくれるけど、本気で会社の将来を考えてくれない、目先報酬重視の営業マン」なのか、
この2人のうち、どちらを選ぶかで、
ターゲット企業の将来が事実上決定し、その果実である「会社売却価格」が上下に大きく動いてしまうわけです。
セルサイドオーナーが頭に入れておくべき大事なポイントの1つとなります。