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M&A助言会社の収支構造と2つの経営主義
さて、M&A助言会社選びのため、まずは、ザックリとM&A助言会社の収支構造を理解しましょう。
M&A助言会社の収支構造をモデル化すると、
{売上単価(成功報酬)-直接費用(主に賞与)}×件数(成約件数)+付帯収入(着手金・情報提供料)-間接費用(月額給与・家賃等)=会社の利益
となります。
さらに、M&A助言会社を「経営主義」で2つに分類すると「品質主義M&A助言会社」と「件数主義M&A助言会社」に分類することができます。どちらも同じ収支構造モデルで経営しているのですが、各収支パーツへの力の入れ方が全然違うということを知っておきましょう。前述のA社が品質主義、B社が件数主義ですよ。
品質主義と件数主義、2つのタイプのM&A助言会社のオーナーなり経営者の思想は、経営理念の根底の段階から明確に異なります。
前者は「プロフェッション(例:医者とか弁護士等の取返しのつかない重要な仕事をする人)」としてM&A助言という仕事を捉えてますので、件数を追わない代わりに品質・売上単価(=クライアント利益最大化)を重視し、会社の利益も必要以上に追わない一球入魂の覚悟で経営しています。
後者は「ビジネス・投資」としてM&A助言という仕事を捉えてますので、件数を増やすための仕組み(質より量)が大黒柱にあたり、従属的に人件費構造、売上単価構造、付帯収入構造を決めることで会社の利益最大化という目標を持って経営しています。
実際、品質主義の代表格である外資系投資銀行のM&A助言業務は、社内では難易度の高い花形業務として一目置かれつつも、投資銀行全体に対する利益貢献は相対的に小さく、巨額の債券やディリバティブ等の取引手数料やトレーディング等(自己資金を使った投資)等よりも存在感が薄くなりがちです。「もっと楽に金儲けする方法は周囲に沢山あるけれど、好きだからM&A助言をやっている」という人も少なからず存在しますし、M&A助言卒業後、M&A助言で培ったビジネス目利き力を駆使して自分で起業し成功する人も多いのです。金儲け重視の人も沢山いますが、M&A道の追求のその後の展開を重視する人も多いのです。
品質主義と件数主義、絶対的にどっちが良い悪いということはないと思います。重要なのは、自分を知り、相手を知り、自分に合わないタイプは絶対に選ばないことです。セルサイドオーナー様は、「ご自身に適したM&A助言会社はどのようなM&A助言会社なのか」を見極めるられるように、必要な知識を頭に入れてからM&A助言会社を選ぶべきです。
M&A助言会社を複数社呼んで具体的なM&A戦略の提案を受け、M&Aについてスタディしながら、失敗を避けるというのが一番簡単で確実な方法だと思います。
簡単にイメージしていただくため、極端な例であてはめてみますと、ユニークな強みのある面白い会社の企業価値最大化をM&Aによって実現し、適正価格で売却したいセルサイド・オーナー様は、絶対に前者の品質主義のM&A助言会社から選ぶべき、全く特徴のない会社をとにかく売りたいというセルサイド・オーナー様は後者の件数主義のM&A助言会社しか選択肢が残らないと理解しておけば、概ね間違いないと思います。
結局、ターゲット企業・セルサイドオーナー様のおかれる状況は上記極端2ケース(ユニーク×高値狙いか、平凡×成約狙いか)の間のどこかに位置するはずですし、M&A助言会社(品質主義か、件数主義)も上記の極端2タイプの間のどこかに位置します。
しっかりと情報収集し、ご自身のニーズや自社分析をしたうえで、最適なM&A助言会社を選びましょう。複数社のアイミツと徹底的な質問責めですよ。
ちなみに、中間ケースや特殊ケースも色々あります。いくつかご紹介しますと、
買収ニーズ沸騰中の業種というものが常に数業種あります。こういう業種は誰がやっても好条件を実現しやすいので、一番安い条件で受託してくれる先が正解です。複数のM&A業者からテレアポやDMが急にガンガン入るようになり、いかにもピンポイントで売り案件を探しているふしがあれば沸騰中かもしれませんよ。①市場が成長中、②安定収益構造、③規模の経済とコスト合理化で利益成長が容易という3条件がはまっていれば、低リスク高リターンが期待でき、買収合戦となって価格が高騰しやすいと覚えておきましょう。こういうケースでは、「競争入札(複数バイサイドと同時・最後まで交渉を継続)」が適している交渉方法ですが、後述の片手FAなら喜んで競争入札を組んでくれるはずです。両手M&A仲介が最近開発した「(疑似)競争入札」とは、意向表明書(LOI)まで競う一種のまがい物です。つまり前半戦限定の競争環境に過ぎず、開示情報不足でのLOIはほぼ無意味ですから、『競争入札なら片手FA、なぜならLOI直後にバイサイド1社と契約する必要がないから』と覚えておいてください。両手業者の一社相対交渉・両手報酬の弊害が頻繁に攻撃される(当然ですが)ので、対症療法として開発した曲者表現でしょうが、表示と中身に大きな乖離があると言えます。
他にも、考え足らずで動きまくると企業価値が棄損してしまうリスクが高い会社(機密漏えいリスクが高い会社等)なら、今度はバイサイドをピンポイント狙い撃ちが良い。逆に、とにかく動きまくらなければ買ってくる会社を見つけられない、活動量による提案先確保がモノを言うケースもあるでしょう。
状況次第、ケースバイケースです。
M&A助言会社が置かれる環境と誘惑
元々のM&A助言は、当然のことながら片手FAです。海外の人に日本の両手仲介や料率体系を説明すると、ビックリされます。なぜ、本来のM&A助言モデルである片手FAモデルではない、日本独自モデルのM&A助言会社が増えてきたのでしょうか?事業環境を把握してみましょう。
1. M&A助言会社は、セルサイド企業からの売却の相談等を受け、バイサイド企業に買収等のM&A取引をしてもらうと、案件成約となって「成功報酬」がもらえる。これが貢献と報酬の基本関係。
2. しかし、成功の程度に大きな幅があり、実質的には失敗(適正評価より安値での売却)でも案件が成約してくれさえすれば多額の成功報酬をもらえる。
3. M&Aの成約は不確実性が高い(10件に1件しか成約できない助言会社、それ以下の会社もいる)。買収プレイヤーが少なかった昔は不動産仲介と同様「千三つ」ともよばれていた。
4. 本格的なM&A助言を提供するには高度専門人材をそろえ、多くの時間や労力がかかる。つまり、多額の人件費や賃料等の固定費(維持費)がかかる。
日本独自のM&A助言モデル
■ やる仕事はマッチングのみ、
■ セルサイドから5%、バイサイドから5%、合計10%の成功報酬をもらう両手モデルを基本とし、
■ 高度な専門業務、実際にM&Aの成功に貢献する有益なサポート業務を提供しないのに、ネットワーク利用料の名目等で着手金・中間報酬を受領(無料業者もいる)
■ さらに、複数、ときに多数のバイサイド候補から情報提供料を受領(無料業者もいる)
■ できるだけ数をこなし、質は捨てる。一件に時間をかけない。
■ 高度専門人材ではなく、人当りの良さ等を重視して月額給与を抑えられるM&A初心者を中心に人材採用。
つまり、ビジネスとしての売上成長、利益成長を最重視するとこういうモデルに到達するということです。売却案件集め、簡単成約の仕組み、営業マン集め、セルサイドへの安値誘導が生命線になります。
そして、このモデルが浸透したのは、肝心要のセルサイド(売り手)が、M&A初心者であり、知らない事が多すぎるからでしょう。
品質重視でM&A助言会社の王道を守るビジネスモデル
■ M&Aの成功のために有益な全ての業務を提供。
■ 高度な専門知識、豊富な業務経験、ネットワークが必要なM&Aのプロとしての業務を片手報酬ですべて提供。
■ M&Aの成功に具体的に貢献する有益業務の提供コストに見合う程度の着手金を受領。
■ セルサイドFA、バイサイドFAともに具体的貢献のない報酬は一切受領しない。
つまり、プロフェッションとして、クライアント利益最大化を目指すと、とても大変な仕事になるということです。深くビジネスに関与することで得られる知識・経験が「次への糧」となりますので、これをご褒美として頑張る人が多いと言えるでしょう。
あと、これも覚えておいてください。『セルサイド(売り手)によるアピールや証明がなければ、バイサイド(買い手)は自分で値段を上げるわけないので、「潜在的な強みはないものとして評価されてしまう」という点』『バイサイド(多くが大企業、投資ファンド)は中小企業オーナーと言語が違う(直感 vs 組織論/ファイナンス脳)ので、思った以上に伝わらないという点』です。ユニークな強みも、伝わっていなければないのと同じです。だから、ユニークな会社のオーナーは、味方になる片手FA、その中でも、大企業の意思決定やファイナンス脳を理解できる片手FAに依頼するべきという点です。通訳みたいな役割も持っているのが片手FAです。
日本独自のM&A仲介モデルが増えた理由と存在意義
筆者は、両手M&A仲介モデルがこれだけ浸透した背景として、上記のほか、大量の団塊世代経営者の引退問題に対応する必要性、失業大量発生を回避したい政府意向としての許容性がタイミング的に合致したことが大きいと考えています。
とにかく存続というニーズのオーナーが所有している特徴の少ない零細・中小企業にとっては、日本独自モデルは有益な存在と評価しています。ダメ元でも打診数をこなしてくれる両手M&A仲介マンが存在しなくなると、大量の廃業・倒産、失業者急増につながり、日本社会は今よりも不安定になっていたことでしょう(変革の伴わない「存続」は、社会全体の変革の「先送り」を助長するという弊害に目をつぶればですが)。
一方で、今後の日本を左右する新たな起業、新産業の創造は、先輩の背中を見て動くものですし、ユニークな強みを持つ面白い会社を育てた創業オーナー社長からすれば、本来手にできたはずの成果(売却額)を、最悪数分の1以下に圧縮しかねないM&A助言モデルを許容すべきでもありません。特に、市場創造、市場改造、事業創業等といったグレイトな社会貢献をしたオーナー社長は、それに相応しいグレイトな財務的成果を得るべきでしょう。
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